秋季総合特集Ⅲ(2)/Topインタビュー/東洋紡せんい/社長 清水 栄一 氏/「社会」「経済」の価値両立/繊維事業の中核的存在へ
2023年10月25日 (水曜日)
「ここに来て有望な環境配慮商品を市場に投入できる準備が整った」と話す東洋紡せんいの清水栄一社長。世界的にサステイナビリティーへの要求が高まる中、繊維企業も社会的価値と経済的価値を両立した企業活動が不可欠になった。そうした要請に応えるためマスバランス方式など新たな手法も導入したリサイクル素材の商品化に取り組む。東洋紡グループの衣料繊維事業会社として収益改善も大きなミッションだが「今期での黒字化が見えてきた」と構造改革に手応えを示す。今後は非衣料用途の拡大も視野に入れ、東洋紡グループの繊維事業における中核的存在を目指す。
――新型コロナウイルス禍も落ち着き、繊維産業でも新たな動きが活発化してきました。東洋紡せんいにとって、そういった“最旬”の商品や取り組みは何でしょうか。
やはり環境配慮商品でしょう。遅ればせながらかもしれませんが、有望な商品を市場に投入する準備が整いました。例えば粗原料の一部にリサイクル原料を使用し、マスバランス方式でケミカルリサイクルしたナイロン生地があります。マスバランス方式なので原料そのものはバージン原料と大きく変わりませんから、極細繊度糸にすることもできます。このリサイクルナイロン糸を使った細繊度高密度織物も完成しています。
自社グループ内の縫製工場で発生する端材をマテリアルリサイクルする「T2T」もあります。東洋紡グループの中で一貫したリサイクルですからトレーサビリティーを確保した資源循環が可能になります。そのほか天然繊維では協力関係にある海外の大手紡績の調達力を生かしたオーガニック綿糸があります。こうした環境配慮商品は31日から東西で開く当社の総合展示会でも披露します。
世界的にサステへの要求が強まる中、企業として「社会的価値」の創造に貢献しなければなりません。同時に、企業である以上は「経済的価値」の創造も不可欠。これらを両立することが求められています。しかも、これら二つの価値は足し算ではなく、掛け算されます。つまり、どちらかがゼロだと、全部がゼロになってしまうということを認識する必要があるでしょう。
――2023年度上半期(4~9月)も終わりました。
コロナ禍が落ち着いたことで経済活動も正常化したことから、全体として販売数量は回復し、前年同期の実績を上回っています。ただ、コストアップの負担が重い。原燃料高騰に対して値上げによる価格転嫁も実施していますが、どうしてもタイムラグが生じます。現在、市場では値上げもややピークアウトしたような感じになっていますが、素材メーカーの立場からすればまだ転嫁できていない積み残しがあります。加えて、海外からの調達は現在の急激な円安が打撃です。ベースとなる原料価格が高止まりしているところに、円換算の調達価格の上昇まで加わるのですから。
――各事業の状況はいかがでした。
輸出織物事業は円安が追い風になっています。特に中東民族衣装用織物は、中東市場の活況もあって好調でした。かなり先の成約までできています。スクール事業も堅調でした。こちらは公立中学校を中心に従来の詰め襟学生服・セーラー服からブレザーに標準服を変更する動きが加速していることが追い風になっています。
特にポリエステル長繊維ニット生地の採用が拡大しました。ウール高混率品はグループの御幸毛織で、ポリエステル高混率品は東洋紡せんいが提案・販売する形で役割分担もうまくいっています。国内の生産スペースが減少しているため、学校体育服などは生地販売だけでなく、当社の国内外の生産スペースを活用した製品納入も拡大しています。
マテリアル事業は原料を強みとした糸・わた販売に軸足を移しました。富山事業所の再編を進めており、今後は国内の特殊紡績糸とマレーシア子会社での量産、さらに協力関係にある海外紡績での委託生産という体制になります。バランスが良くなるでしょう。非衣料分野で新規開拓を進めており、徐々に成果が出ています。
ユニフォーム事業は、従来の主力であった短繊維織物から長繊維ニット生地に軸足を移しています。過度に規模も追っていません。海外を中心に生産・開発体制を強化してきました。こうした成果もあって売上高は増加しています。ただ、ユニフォームという商品の性格上、どうしてもコストアップに対する価格転嫁が遅れ気味となり、利益は横ばいで推移しています。
スポーツ事業は製品OEMを中心に不採算案件を縮小したことで売上高は減少傾向ですが、利益面での改善が進みました。ただ、こちらも価格改定が遅れ気味です。主力とする大手スポーツブランド向けだけでなく、中堅クラスのブランドへの販売も増やしていかなければなりません。スポーツ分野は環境配慮の意識が高まっていることがチャンスになります。先ほど述べたケミカルリサイクルナイロンなどの活用が可能です。
――今後の課題や重点施策は。
東洋紡せんいとして発足してから構造改革を進めてきたことで、今期での黒字浮上は見えてきました。現在、次期中期経営計画を作っている段階ですが、早期に営業利益を20億円以上に持っていくことが目標になります。そのためのエンジンは、やはり輸出織物事業とスクール事業でしょう。さらにマテリアル事業で新規領域を創出できるかです。
スポーツ事業とユニフォーム事業も改善を進め、もっと筋肉質な体制にしなければなりません。そのためには、自社の強みをもっと見極めることが重要です。非衣料用途の拡大も視野に入れています。
東洋紡グループの衣料繊維事業の中核的存在になることが東洋紡せんいとしての目標です。そのためには衣料繊維を確実に立て直すことがスタートラインだと考えています。
〈私の旬/日本全国の旬を味わう〉
「最近、ふるさと納税をしていて、返礼品でもらう全国の食材を味わうのが楽しい」と言う清水さん。各産地の肉や北海道の野菜がお気に入りで、それこそ全国の旬を味わっている。「リタイアしたら、旅行して現地で味わってみようと思う」のだとか。ただ“リタイアして収入がなくなるとふるさと納税のメリットもなくなりますよ”というと「だからもうしばらくは、しっかりと納税できるように仕事を頑張らないと」と笑う。
【略歴】
しみず・えいいち 1986年東洋紡績(現・東洋紡)入社。生活テキスタイル事業部ワーキングサービスグループマネジャー、グローバル推進部主幹兼東洋紡インドネシア社長などを経て2021年執行役員東洋紡STC社長、22年4月から東洋紡せんい社長