秋季総合特集Ⅲ(6)/Topインタビュー/クラレトレーディング/社長 山田 武司 氏/特殊原糸で用途開発を/加工度上げて繊維事業強化
2023年10月25日 (水曜日)
「クラレの特殊原糸を使ったテキスタイル・製品が当社の“最旬”」と話すクラレトレーディングの山田武司社長。国内の繊維産業を取り巻く環境が厳しさを増す中、「繊維事業がどうやって生き残っていくかを考えないといけない」と指摘する。そのためには、メーカー系商社としてサプライチェーンの組み立てを強みにする。
――クラレトレーディングにとっての“最旬”は何でしょうか。
いまいちばん考えているのは、これから繊維事業がどうやって生き残るのかということです。当社の場合、繊維事業でまずまずの利益率を確保していますから、やはり利益面を伸ばしていくことが不可欠でしょう。そのための一つが、クラレが持つ特殊原糸を活用したテキスタイル・製品です。例えば今年もSPS(シンジオタクチックポリスチレン)繊維「エプシロン」を発表しました。こうした商品で用途開発を進めます。また、これまで縫製品ビジネスを拡大するなど加工度を上げることで利益の拡大を図ってきたわけですが、次の手を考えることが必要でしょう。やはり当社はメーカー系商社ですから、単純な素材販売ではなく、縫製品までの一貫したサプライチェーンを構築してきたことや、マーケティング力を強みとして追求するしかありません。
――2023年度(12月期)も第4四半期に入りました。
今期は取扱高1500億円、売上収益620億円、営業利益50億円、経常利益50億円、純利益35億円で業績予想を発表していますが、ほぼ計画通りに推移しており、繊維事業も前期並みです。
衣料分野は縫製品がリードして、増収増益で推移しています。特にアウトドアやラケットスポーツの好調が続いています。学校体育服も製品納入を拡大してきた成果が出ています。一方、ユニフォームやブラックフォーマルは勢いがありません。原燃料高騰でコスト上昇が続く中、ユニフォームは価格転嫁が難しい用途もあり、どうしても採算重視で臨まざるを得なくなっています。ブラックフォーマルも新型コロナウイルス禍による冠婚葬祭需要の減少から完全に回復していません。ライフスタイルが変化し、今後も需要の完全復活は難しいとみています。ただ、有力アパレルとはしっかりと取り組みができていますから、安定した販売は維持できるでしょう。
一方、資材分野はメディカル用途が厳しい。もともと価格改定の難しい分野な上に海外調達が多いので円安が逆風です。そのほかの一般資材用途はまずます堅調でした。人工皮革「クラリーノ」はアジア向けが担当ですが、自動車用途は回復基調にあります。ただ、スポーツシューズやボール、スポーツ手袋などは勢いがありません。昨年までの活況の反動で、製品メーカーも生産調整に入っていることが影響しています。
一方、樹脂・化学品事業は中国市場向けが多い。中国経済低迷の影響が出ており、事業環境は厳しいものとなっています。
――24年度に向けての重点施策は。
取扱高1500億円と言っても、樹脂・化学品を中心にクラレの販社ビジネスがかなりあります。ですから自前のビジネスを拡大することで売上収益の拡大を図らなければなりません。そのためには繊維事業に改めて力を入れる考えです。単純な素材販売ではなく、加工度を上げることで収益を増やさなければなりません。
そのためにクラベラ事業で縫製品ビジネスを拡大してきました。今後はクラリーノや繊維資材、高性能繊維でも加工ビジネスを増やしていきます。例えば高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」の原糸をクラレから仕入れ、当社で中間材や2次製品に加工して販売するといった取り組みです。
もう一つは、先ほど述べたように、クラレの特殊原糸を活用した商品開発と用途開発です。エプシロンの他にもいろいろな開発を進めています。やはりメーカー系商社として、原糸をコアに置いた開発が当社の強みでしょう。
〈私の旬/ウオーキングでノルマ達成〉
「最近は毎日ウオーキングしている」と言う山田さん。ちょっと足腰を鍛えよう始めたそうだ。スマートフォンのアプリで歩数が記録されるため「自分でノルマを課すようになっています。今年は1日平均1万5千歩がノルマ」。さすがに通勤時に歩くだけでは足りず、休日も自宅近くの狭山池を周回したり、天神橋筋商店街を1丁目から八丁目まで歩いたりする。「鍛えることよりノルマ達成が目的になってきました」と笑う。
【略歴】
やまだ・たけし 1984年クラレ入社、クラレトレーディング衣料カンパニーテキスタイル部長、同カンパニースポーツ部長、衣料・クラベラ事業部副事業部長、可樂麗貿易(上海)総経理などを経て、2015年クラレトレーディング取締役、18年常務、18年常務繊維事業統括兼衣料・クラベラ事業部長、20年から代表取締役社長