秋季総合特集Ⅲ(7)/Topインタビュー/ユニチカトレーディング/社長 久内 克秀 氏/時代に合った機能素材/不採算事業を抜本改革

2023年10月25日 (水曜日)

 「世の中の変化に対応し、時代に合った機能素材の販売が伸びている」とユニチカトレーディング(UTC)の久内克秀社長は指摘する。サステイナブル素材への要望も一段と強まった。「自社の開発力が問われている」と話す。こうした中、今期(2024年3月期)は「見直す」「伸ばす」「減らす」「増やす」をキーワードに事業の改革を進める。

――UTCにとって“最旬”の商品や取り組みは何でしょうか。

 繊維事業はユニフォーム用途と一般衣料用途が主力ですが、ユニフォーム用途では表面にカーボンを露出させた逆芯鞘構造タイプの導電性繊維、暑熱対策クーリング素材「こかげマックス」、難燃ビニロン素材「ミューロンFR」などの販売が伸びています。共通しているのは世の中の変化に対応し、時代に合った機能素材だということです。導電性繊維の需要拡大は電気自動車(EV)や半導体関連工場が増加しているからでしょう。近年の夏の猛暑によってクーリング素材が注目され、キャンプブームで難燃素材が活躍する場が増えています。

 一般衣料用途では常圧カチオン可染ポリエステル糸「AHY」やナイロン56短繊維が注目されています。いずれも優れた風合いや外観、染色性の良さ、吸汗速乾性や吸湿性などが評価されています。自社の開発力が問われる商品ということができるでしょう。そのほかサステ素材の拡充にも力を入れています。

――現在の経済情勢をどうみていますか。

 一般論としては、円安効果やインバウンドの回復、半導体不足解消による自動車生産本格化などを背景に企業の景況感は改善傾向にあり、物価と賃金がともに上昇する好循環の芽が出ています。ただ、実感とはズレがありますね。物価高、円安、エネルギーコスト上昇によって、それほど経済が強いとは感じられません。中国経済の失速や地政学的リスクの増大といった懸念も多い。そして繊維産業を見ると、コスト増に円安が加わり、極めて厳しい環境です。人手不足も深刻化しています。基本的に繊維産業は過当競争であり、低採算からの脱皮が課題だと思います。そしてサーキュラーエコノミー(循環経済)の時代が始まろうとしています。サプライチェーンの維持が非常に大切になっています。

――“2024年物流問題”も懸念材料です。

 トラックドライバーの時間外労働時間の上限が規制されることで、高速道路の使用が増え、コストアップにつながるでしょう。輸送力自体も低下し、希望納期に対応できなくなる可能性があります。現在、運送業者と対応を協議していますが、基本的に400㌔以上の長距離輸送はトラックから鉄道にモーダルシフトする予定です。営業倉庫や港湾倉庫の場所も見直し、荷下ろし時間の削減を進めなければなりません。

――23年度上半期(4~9月)も終わりました。

 衣料繊維はユニフォーム、原糸、レディース、寝装の各用途とも販売はまずまずでした。原燃料高などコストアップに対して価格改定を進めたことで採算は改善しましたが、まだ十分ではありません。産業資材は円安の影響が大きく、全体としては減収増益傾向です。このため繊維事業全体では減収傾向となり、利益面は第1四半期(4~6月)からは大きく改善したものの、赤字解消にまで至らなさそうです。衣料、産業資材ともにさらなる価格転嫁が必要です。

――下半期の課題と重点施策は。

 不採算事業の抜本的対策、サステ素材・機能素材の開発と拡販、グローバル生産体制・サプライチェーンの強化と2次製品ビジネス拡大が重点施策です。このため現在、「見直す」「伸ばす」「減らす」「増やす」をキーワードに掲げています。不採算事業や無駄・無理な仕事を「見直す」。新素材・新商品や他社との協業、グローバル生産体制を「伸ばす」。自社工場のコストや在庫、無駄な経費を「減らす」。そして働きがいや休暇、新しい仕事、楽しい仕事を「増やす」ということです。こうした取り組みで計画に対して上振れした上半期の利益を通期でも維持することが目標です。

〈私の旬/もっとショットの練習を〉

 「最近、ゴルフに行くと一緒にプレーしている方から『久内さんはアプローチがうまいね』とよく言われる」のだとか。たしかにアプローチは好調で自信も付いてきたのだが「ところがプレーを終えてスコアを見るといまひとつ」。なぜだか考えて気が付いた。「ようするにショットが下手でグリーンになかなか乗らず、アプローチばかり打っているからですよ」と笑いながら、「これからはもっとショットの練習をしなければ」と話す。

【略歴】

 きゅうない・かつひで 1985年三和銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。大阪融資部長などを経て2014年ユニチカ出向・経営計画推進部長、15年ユニチカ入社・執行役員経営企画部長、18年上席執行役員経営企画本部長、20年常務執行役員、23年4月からユニチカトレーディング社長を兼務