秋季総合特集Ⅳ(10)/Topインタビュー/柴屋/社長 奥野 雅明 氏/縫製までの一貫依頼急増/増員でさらなる拡大へ
2023年10月26日 (木曜日)
生地商社、柴屋(大阪市中央区)の売上高は、2017年1月期の17億7千万円以降、19億1千万円、22億8千万円、23億5千万円、23億7千万円、25億円と新型コロナウイルス禍に関係なく拡大、直近の23年1月期は30億5千万円だった。今期もここまで4%増。「小口を狙って大口に育ってもらう」戦略が奏功している。奥野雅明社長に考えを聞いた。
――貴社の“最旬”な事業や取り組みは何でしょうか。
まだ小口なので大きな数字にはなっていないのですが、縫製依頼が急増しているのが旬の話題です。当社は販売先の会社規模やロットを全く限定しません。おのずと小口注文や個人でやっているような小規模アパレルの比率が高まります。そうした先からの、「縫製までしてくれないか」という依頼が急増しています。
そうしたアパレルは製品枚数も少ないですから、なかなか縫製工場が受けてくれない。さらに国内縫製工場は外国人技能実習生の問題も絡んで人員が不足しています。そもそもどんな縫製工場がどこにあるのかという情報を持っていないケースもあります。これが当社に対して縫製依頼が増えている背景だと思います。
――国内で縫製するのですか。
「できれば国内で」と依頼されることが多いのですが、人員不足などによって国内縫製のキャパシティーは埋まっていますので、中国の幾つかの協力縫製工場で縫ってもらっています。
当社には生地販売のほかに製品OEM/ODM事業もあります。実は以前は上海に自社縫製工場を持ち、一時は製品事業が売り上げの半分を超えていた時代もありました。人件費の高騰などを要因にこの縫製工場は13年に売却しましたが、製品事業は今も続けています。協力工場との関係も長く続いているので、「縫製まで」という要望に対応できるのです。
まだ大きな売り上げになっているわけではありませんが、国内外問わず小規模アパレルが事業拡大に成功し、当社への発注が年々増えるといったケースもありますので、大事に対応していきたいと考えています。小口を狙って、いずれ大口に育ってもらうという戦略に変更はありません。
――今期(24年1月期)ここまでの商況は。
2~9月の8カ月間で売り上げは前年同期比4%増です。ただ、販売数量はほとんど変わっておらず、単価アップが主な要因です。商品面ではもはや当社の看板商品と言っていい「天日干し」シリーズが引き続き好調でした。プリントは全体的に低調です。輸出も全体と同じような伸びで、製品事業も増収でした。
利益は減少しました。原材料費の高騰に価格転嫁が追い付いていないことと、7月にイタリアの服地展「ミラノ・ウニカ」(MU)に初出展するなど展示会経費が増えたこと、人件費が増えたことが要因です。
人員は今期から5人増やしました。来年の新卒も現時点で5人に内定を出しており、計6人を採用する予定です。海外展では「PV(プルミエール・ヴィジョン)パリ」「インターテキスタイル上海」「MU」に続いて「ロンドン・テキスタイルフェア」への出展を計画しています。
人員を増やし、海外を中心に事業を拡大させていくのが基本方針です。1人当たりの売上高を引き上げていくことも課題です。
――人材への投資に積極的です。
外国語を話せる人材が理想ですが、話せない人も含めて人の数は事業拡大に向けた重要な要素の一つだと考えています。
先日は研修旅行として沖縄県の石垣島に行きました。コロナ禍で休止していたのですが、コロナ禍前は毎年海外に行っていました。国内は今回が初めてです。昔から、産休や育休以外の社員はほとんど参加してくれます。これも人への投資の一環だと考えています。社員皆で楽しみながら、働く意欲とチーム力を高めてもらうための研修旅行です。
――通期の見通しは。
このままのペースで推移できれば。原材料価格やエネルギー費の高騰が激しいですが、付加価値開発をさらに強めることと、きっちり価格改定していくほかに対処策はありません。
〈私の旬/素性隠して草野球〉
週に何度かのテニスと、日課にしている筋トレが趣味だが、今年からは野球チームにも所属している。一つじゃ物足りなかったため先日、2チーム目にも所属した。中学、高校と野球部だっただけに野球そのものが楽しい上、会社社長という素性を隠しながら20代から60代までのさまざまな人と交わすフラットな会話がたまらなく楽しいそうだ。社業も趣味もアクティブな奥野さんの“最旬”は草野球。
【略歴】
おくの・まさあき コンサルティング会社勤務を経て2003年柴屋入社。13年取締役、17年4月から現職