産資・不織布通信Vol.6

2023年10月31日 (火曜日)

 日本の合繊メーカーは数多くの新素材を生み出してきた。その一つが人工皮革だ。天然皮革の代替品として開発された人工皮革だが、ここ数年は自動車内装材向けがけん引する形で販売を拡大している。これに伴い同分野を主力とする東レ、旭化成は能力増強を続けている。

〈人工皮革 自動車内装材で拡大続く〉

《電気自動車での採用増/人工スエード拡大続く》

 人工皮革とはナイロンやポリエステルなどの超極細繊維(極細以外の繊維も一部あり)製の不織布を基布に、ポリウレタン樹脂などでコーティングしたもの。ちなみに合成皮革は織・編み物を基布にする。

 人工皮革独自の価値が認められて需要を拡大する用途の一つが自動車内装材だ。特にスポーツカーや米国「テスラ」、中国「BYD」に代表される電気自動車メーカーは積極的に人工皮革を採用する。

 このため、自動車内装材を主力とする東レの人工スエード「ウルトラスエード」、旭化成の人工スエード「ディナミカ」はこの数年、設備増強を続けている。

《東レ 24年に50%増強/旭化成 ブランドを統一》

 東レは2023年度(24年3月期)から中期経営計画「プロジェクトAP―G2025」をスタートした。繊維事業では伸長する自動車市場でエアバッグと並んでウルトラスエードの設備投資効果の刈り取りを課題の一つに掲げる。

 ウルトラスエードは約100億円を投じて、滋賀事業場(大津市)、岐阜工場(岐阜県神戸町)で増設を行い、約1千万平方メートルの年産能力を50%増の1500万平方メートルに拡大することを決めている。24年後半に稼働する計画だ。

 19年に約60%増の年産約1千万平方メートルに拡大したばかりだったが、自動車内装材の需要増を見込み、さらなる増設に踏み切った。増設後も早期にフル稼働させる計画。

 旭化成は22年春に40%増の年産1400万平方メートルに生産能力を拡大する一方、23年4月には、従来の「ラムース」からディナミカにリブランディングを実施した。自動車内装材製造子会社、米国のセージ・オートモーティブ・インテリアのブランドである、ディナミカに統一することで、ブランド力を高めるのがその狙いだ。

 銀付タイプを主力とするクラレの「クラリーノ」も自動車向けで採用が始まっており、人工皮革だけでなく、合成皮革や塩ビレザーも品質向上に伴い、採用が拡大する。

《ウレタンレス対応も課題/一部の製品で既に顕在化》

 順調に需要拡大する自動車内装材向け人工皮革だが、長期的に懸念材料はゼロではない。既に一部のコンシューマー製品では、ウレタンレス志向から人工皮革の採用を取り止めたケースがあるといわれる。それだけに自動車内装材でもウレタンレスが求められる可能性があるかもしれない。このため、水面下ではウレタンレスによる開発も進められているとも聞く。

 新型コロナウイルス禍や半導体不足の問題で自動車生産台数が大きく変動する中、苦戦を強いられてきた織・編み物製とは対照的に、これまで自動車内装材向けの人工皮革は異なる動きを見せてきた。しかし、今後はウレタンレスの動向次第で変化するかもしれない。

〈不織布の達人/カトーテック/衛材に不可欠な計測器〉

 人の手の感覚という主観的な指標である「風合い」。その風合いを客観的に評価する計測器がある。テキスタイルの世界でよく知られるKES(カワバタ・エボリューション・システム)がそれだ。

 京都大学の川端季雄博士による基本設計と、奈良女子大学の丹羽雅子博士の応用研究開発により誕生したKESの計測器は、風合い判断熟練者の官能評価と高い相関関係があるとされる。現在ではテキスタイル関連だけでなく化粧品、食品、製紙、自動車など幅広い分野で活用される。

 実は不織布とも無関係ではない。特に紙おむつやマスクなど肌に直接触れる製品に使用される不織布製品は機能性はもちろん、風合いも重要視されるからだ。

 そこで活躍するのが、カトーテック(京都市)が製造販売するKESによる風合い計測器や電子計測機になる。同社は1949年、加藤鉄工所として創業。61年にKESによる電子計測器を製品化した。知名度向上のため、今年6月にはイタリア・ミラノで開催された国際的な繊維機械展「ITMA2023」に初出展し手応えを得た。「少なくとも3回は継続出展する」としている。

 不織布製品向けは国内外の不織布メーカーや衛生材料メーカーに各種計測器を販売する。微細な表面の粗さや凹凸を測定する表面試験機のほか、指で押す手の動きを数値化した圧縮試験機は紙おむつのソフト感などに応用できる。

 紙おむつ用ではダミー人形も開発する。ダミー人形を活用することで、歩行や尻もちをついた時などでの尿漏れ検証やよれ検証などができる。着座時、就寝時の体勢にも対応する。同社によると、紙おむつのサイズには規定がなく、衛生材料メーカーごとに異なるという。

 このため、使われる不織布などの部材も変わる。つまり、衛生材料メーカーが商品設計を行う上で、同社の計測器は必要不可欠な存在とも言える。衛生材料向けに販売する不織布メーカーの開発にも寄与する。

 自動車の世界でも同社の計測機は存在感を高める。主力は電気自動車(EV)の電池セパレーター向けだが、内装材用としても「昨今はティア1だけでなく、ティア2、ティア3からも引き合いがあるほか、EV開発を進める自動車以外の業種からも問い合わせも増える」など注目されている。

〈トピックス〉

《SL試験設備を導入/アンドリッツ》

 オーストリア・アンドリッツグループは、フランスのテクニカルセンターに新しいスパンレース不織布(SL)の試験設備を導入した。

 同設備を活用し、リサイクル繊維や天然繊維からSLを製造するトライアルを行うことができる。

 この試験設備は天然繊維のような不規則な繊維をスムーズに加工するために、最適化されたウェブ形成と繊維交絡が特徴。このため、革新的なカード機を採用しているという。

 さらにアンドリッツ・メトリス・デジタル化システムを組み込んでおり、オペレーターはあらゆるデータを収集し、分析することもできる。

 新設備の導入によって、同社はフランスのテクニカルセンターに二つのSL試験設備を稼働させたことになる。

《難燃セルロース繊維を開発/ビルラ》

 インドのセルロース繊維メーカーである、ビルラ・セルロースは、難燃セルロース繊維「ビルラSaFR」を発表した。6月にイタリアのミラノで開催された国際的な繊維機械展示会「ITMA2023」で発表したもので、同社担当者は「テクニカル・テキスタイル製品を供給する当社の戦略における重要なマイルストーンになる」と強調する。

 ビルラSaFRはリン酸塩を使用した難燃セルロース繊維。限界酸素指数は28%以上。洗濯50回以上でも難燃性を維持すると言う。

 親会社であるグラシム・インダストリーの担当者は「インドで初めてテクニカル・テキスタイル向けに開発された難燃繊維であり、アラミド繊維など他の高性能繊維と混紡することで、多様な防護服のソリューションを生み出すことができる」と語る。

《前年比増続く/エアバッグ生産量》

 エアバッグモジュールの国内生産量が回復している。経済産業省の生産動態統計によると、2023年以降、8カ月連続で前年実績を上回っている。3月には21年3月以来、2年ぶりに月産300万個台を記録した。

 エアバッグモジュール生産量は自動車生産台数に連動するが、エアバッグ用ナイロン66糸、エアバッグ布を製造する合繊メーカーにも国内需要分とはいえ、当然ながら影響を与える。

 17、18、19年と年間3500万個前後で推移していたが、20年から3000万個を割り込み、22年は2870万個にまで落ち込んでいた。月次ベースでも22年5月には160万個まで減少していたが、23年は1月以降、前年比増が続いており、2月からは2桁%増を記録している。