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ベトナム繊維産業/川中拡充進む/縫製業には“中国化”の足音

2023年11月09日 (木曜日)

 ベトナム繊維産業が、国内の環境規制や隣国の繊維強国、中国の影響を強く受けながらも、川中拡充を進めている。人手不足や高齢化など縫製業に“中国化”の足音が迫る一方、地場ブランドも台頭しつつある。光と影が交錯する中で、同国は縫製大国から繊維大国への脱皮を模索する。

(岩下祐一)

 ベトナム繊維アパレル協会(VITAS)によると、同国の2022年繊維品輸出額は前年比9%増の440億ドルだったが、今年は、400億~410億ドルに縮小しそうだ。背景は、繊維品輸出の主要アイテムである衣類ではなく、中国向け紡績糸の低迷だ。欧米ブランド各社が22年後半から発注を減らした影響で、欧米向け衣類は前年実績を割るものの、近年新規開拓に取り組む中東や東欧、アフリカ向けがカバーし、衣類輸出全体はほぼ横ばいになる。

 欧米向け一辺倒から輸出先多様化へのシフトは、同国縫製業の成熟化の証だ。一方、縫製業はさまざまな課題に直面している。第一に従業員の賃金上昇。都市部の月給は380ドル、地方は280ドル程度で、バングラデシュ(95ドル)などを大幅に上回る。それにもかかわらず、加工料金は他国とほぼ同水準だ。他国との競争の中で加工料は上げられない。スポーツウエアを中心に手掛けるドン・ティエン(ドンナイ省)のグエン・ゴック・ソン副社長は、「自動化設備の導入を検討している」と明かす。

 人手不足や高齢化も懸念材料だ。ベトナムには、世界中からさまざまな産業の企業が進出している。政府が重視するのは半導体や自動車産業、電子製品で、繊維は主役の座を追われている。こうした中、他産業との人材獲得競争で不利な立場にある。

 政府が、中東や日本などへの出稼ぎを推奨していることも従業員逼迫(ひっぱく)の要因だ。「5~10年で(人手不足や高齢化に悩む)中国と同じ道をたどる」と、ある地場の大手縫製企業の幹部は話す。

 15年10月に大筋合意に達したTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)で、ヤーンフォワードが採用されたことを機に、同国での川中投資は加速した。しかし今でも、縫製業は中国製生地に依存している。特にファッション向け織物は中国製のシェアが高い。定番品の現地生産は始まっているが、価格で中国製に太刀打ちできない。

 地方政府が環境規制を強めていることも足かせだ。それでも川中投資の歩は止まらない。ホーチミンのある縫製企業は、24年半ばに染色一貫の織物工場を稼働する。生地で差別化していくことが狙いだ。VITASのブー・ドゥック・ザン会長は「今後は中国メーカーの進出が増える」とみるが、縫製業に加え、川中企業が増えそうだ。

 地場ブランドの存在も、川中産業の成長を後押しする。「OWEN」(オーウェン)、「An Phuoc」(アンフック)、「Aristino」(アリスティノ)の地場三大メンズが育ちつつある。オーウェンは資本・提携関係を結ぶ伊藤忠商事グループとの協業を生かし、ブランドの強化に取り組んでいる。

 近年は欧米、日本、中国のブランドがこぞって同国市場に進出し、競争は激化している。その中で地元ニーズに精通する強みを生かし、オーウェンは健闘する。こうした地場ブランドの地元製生地のニーズが高まれば、川中産業の発展が加速する可能性がある。