繊維ニュース

生地・副資材/備蓄は是か非か/重宝されるがリスクも高い

2023年11月16日 (木曜日)

 商品の取引形態には大きく分けて、備蓄(見込み生産=ストック)と別注(受注生産=バイオーダー)とがある。日本の繊維産業のメーカーや商社もこのどちらかの形態を採用している。新型コロナウイルス禍から激変する世界情勢の中、商品取引に対する考え方も変わる。(吉田武史)

 国際的な服地見本市であるフランスの「プルミエール・ヴィジョン」(PV)やイタリアの「ミラノ・ウニカ」(MU)に出展する日本企業は以前から、「豊富に生地を備蓄販売する形態は世界的に珍しく、そこが日本企業の優位性になっている」と指摘してきた。この流れに拍車を掛けたのが、繊維製品の大量生産・大量廃棄問題であり、SDGs(持続可能な開発目標)だ。

 SDGsの12番目の目標である「つくる責任・つかう責任」がクローズアップされ、世界的規模で大量生産体制からの脱却が急ピッチで進められるようになった。

 呼応した日本のアパレルメーカーも売り残し(廃棄)を避けるために産地や商社への発注量を減らした。実際、多くの副資材メーカーや生地商社から、特にシーズンの初回発注数量を控える傾向が強まっているとの指摘が聞かれる。期中の追加もほとんどない。発注者は売り逃しによる機会損失よりも、作り過ぎによる売れ残りを問題視するようになった。

 その際に重宝するのが備蓄販売という取引形態だ。生地や副資材をいつでも備蓄している企業があれば、売れ行きを見ながら小刻みに発注できるため、作り過ぎを回避できる。備蓄型生地商社の代表格である宇仁繊維(大阪市中央区)や柴屋(同)が国内外で売り上げを拡大させる原動力がまさに、小口・短納期供給を実現する備蓄販売体制だ。産地や他の生地商社、副資材商社からも、売り上げ拡大に向けて「備蓄を始めました」というアナウンスを最近よく聞くようになった。

 一方、備蓄品番を減らしたり、品番ごとの備蓄の奥行きを減らす動きもある。サンウェル(同)はここ数年、強みとする綿無地、綿先染め、合繊無地という3カテゴリーで備蓄を維持しつつ、プリントなど他のカテゴリーの備蓄数量を大きく減らした。プリントの要望があれば、連携する北高(同)など同業他社から融通する。

 備蓄には倉庫代などの資金が必要な上、“旬”を過ぎた商品は二束三文で見切らなければならず、ロスが大きい。企業の持続性のために無駄やロスを回避する必要性が高まる中、備蓄を減らす動きもまた広がっている。

 このほど開催された「JFWジャパン・クリエーション」(JC)に出展していたある産地企業が、併催された「プレミアム・テキスタイル・ジャパン」(PTJ)の方が来場者の多い点について、「JCは産地企業が主体でPTJは備蓄型企業が主体。産地に大量に発注して売り切ることができるアパレルが減ったことが、来客数の違いに表れているのではないか」と分析した。一方、JC出展者の中にも今回展での商談によって「新規顧客と契約できた」との声も上がる。備蓄が是か非かの結論はまだ先になりそうだ。