特集 CSR(2)/旭化成 繊維産業を担う若者支援/糸編との連携 今年も継続

2023年12月13日 (水曜日)

 旭化成は、産学連携の取り組みを積極的に進めている。繊維事業では、「産地の学校」を運営する糸編との連携を継続しており、2023年度も産地の学校で織物に関する講義を行ったほか、イタリアのビエラマスターとの交流会も実施した。繊維産業の将来を担う国内外の若者を支援している。

〈過去最多のエントリーに〉

 産地の学校は、糸編が繊維産地の活性化を目指して17年5月に開校した。人材の発掘・育成にとどまらず、産地における課題の明確化や人材マッチング、事業化支援などをテーマに掲げる。旭化成は、その理念や行動などに感銘を受け、「ベンベルグラボ」を企画するなど、18年から協力を続けている。

 繊維関連企業との取り組み方やテキスタイルについての基本的な知識の習得を目的とした基礎コース、それに続く各プログラムで構成する。就職や転職のサポートを行う。

 昨年までに8期講義が行われ、卒業した社会人や学生は500人を数える。今年10月に9期が開講した。

 新型コロナウイルス感染症の影響で7、8期はオンラインでの開催だったが、対面での講義を復活させた。9期目は過去最多となる約40人のエントリーを数えた。最終的に学生4人、社会人22人が受講し、コロナ禍ではできなかった国内産地(尾州、遠州、足利)の繊維関連企業の見学会も実施した。

 過去最多のエントリーについて、糸編代表取締役の宮浦晋哉氏は「繊維はテクスチャーの世界のため、実際に手に取れる機会が得られるのが魅力的に映ったのかもしれない」と分析した。社会人のうち20人が繊維関連企業なのも9期目の特徴だった。「期待に応えられるよう授業内容もブラッシュアップしている」と強調する。

〈素材への素朴な疑問も〉

 講義は原料から始まり、番手や撚糸、織物、ニット、染色などについて解説している。第9講の織物応用編を担当したのが旭化成で、11月11日に東京都千代田区の日本ファッション協会で行われた。

 日本ファッション協会は「日本繊維産業の底上げへの貢献」のために場所を提供しているが、その思いは旭化成も同じと言える。

 講師は旭化成ライフイノベーション事業本部コンフォートライフマーケティング室が担当した。前半はキュプラ繊維「ベンベルグ」の素材や他の化学繊維について説明し、後半はベンベルグの国内産地での商品開発などを紹介した。冒頭で宮浦氏が「キュプラは世界で旭化成だけが作っている」と話すと、受講生からは感嘆の声が上がった。

 後半の講義では、ベンベルグがアウターや裏地、インナー、民族衣装といった幅広い用途で使われていることを示した。その上で山形県米沢や群馬県桐生、新潟県栃尾・見附、山梨県富士吉田、北陸(福井・石川)、尾州などで作られた生地を回したところ、組織や風合いを確認する手が止まらなかった。

 熱心な質問が多かったのも印象に残った。連続長繊維不織布「ベンリーゼ」を使ったフェースマスクなど身近な商品に興味を持った受講生が目立った。中にはビーガンレザーについて「キノコやパイナップルを原料にしていると聞いたが、虫食いの心配はないのか」という素朴な疑問も上がった。

〈糸編 代表取締役 宮浦 晋哉 氏/多くの人に学びの場提供〉

 糸編が運営する「産地の学校」は、国内繊維産地と若者の懸け橋的な役割を担う学校(私塾)だ。産地が持つ魅力を伝え、繊維・アパレル産業に携わる人材を発掘・育成しており、17年に開校して以来、500人以上が卒業した。宮浦晋哉代表取締役に糸編の現在の取り組みや人材などについて聞いた。

     ◇

――産地の学校の現在を教えてください。

 新型コロナウイルス感染症の影響で21、22年の2年間はオンラインでの講義を余儀なくされていました。9期目を迎えた今年度は10月にようやく対面での講義を復活することができました。対面の講義は多くの人が待ち望んでいたのでしょう。過去最多のエントリーがありました。

 ただ、遠方からでも受講できるなど、オンライン講義にも多くの利点があります。2年間でオンラインでの講義の仕組みを作りましたので、リアルとオンラインのハイブリッド型としました。講義をライブで配信したほか、オンデマンド配信も行いました。いつでも好きなタイミングでの受講が可能です。

――過去最多のエントリーということですが。

 繊維は質感や風合いなどが重視される世界ですので、生地に触れる機会が得られるのが魅力なのでしょう。その中で特に目を引いたのがアパレル企業やデザイナー事務所に勤めている人の参加が多いことです。繊維を勉強したいと考える人が業界内に存在するのは良いことだと思います。

 産地の学校では、これまでに500人以上が学び、巣立っていきました。産地に職を求める人も目立ち、播州や遠州、九州、五泉、北陸をはじめとするさまざまな産地で活躍しています。中には自分でブランドを立ち上げた卒業生もいます。卒業後も何らかの形でつながっており、交流を深めているようです。

――一方で産地では働き手不足が顕在化しています。

 マッチングがうまくいってない部分があるのではないかと感じます。学校は就職率が問われますので、必ずしも生徒・学生が働きたいと考えている業種や職種に送り出せていない可能性もあります。中には就職浪人を選ぶ人もいると聞きます。適正なマッチングは解決策の一つかもしれません。

――LVMHで講師も務めています。

 女性の再就職とキャリアアップをサポートする「ME LVMH JAPANクライアント・アドバイザー・プログラム」で講義を担当しています。検査機関などにも見学に行きましたが、皆さんが熱心に質問され、「モノの見方が変わった」といった声も聞こえてきました。旭化成のベンベルグの講義も行いました。来年4月には4期目が始動します。

〈日本からも英語でプレゼン/ビエラマスターと交流会〉

 旭化成は、糸編と連携し、10月18日にイタリアのビエラマスターとのオンライン交流会を開催した。旭化成と「産地の学校」、ビエラマスターとの交流会は今回で4回目。イタリアからは学生が4人、日本からは産地の学校卒業生2人、糸編インターンの留学生1人、糸編代表取締役の宮浦晋哉氏らが参加した。

 ビエラマスターは、イタリアのウール産地ビエラ(ピエモンテ州)の大学のマスターコース。繊維産業の生産現場を実際に訪れる過程が多いのが特徴とされ、世界中の繊維産地を訪問するプログラムが組まれる。旭化成繊維イタリアやゼニア社などがスポンサーとして協賛している。

 交流会は19年に初めて行われた。19年はビエラマスターの学生が来日し、キュプラ繊維「ベンベルグ」関連の施設や産地を訪れるなど、日本の学生と親交を深めた。感染症拡大の影響で20年からはオンラインでの開催となっている(21年は中止)。

 今回の交流会は、旭化成ライフイノベーション事業本部コンフォートライフマーケティング室によるベンベルグの紹介でスタート。次に宮浦氏が「日本の生地は欧州の展示会でも高く評価されており、それらは各産地で作られている」と説明し、尾州や遠州、久留米、京都、富士吉田などの産地を紹介した。

 学生によるプレゼンテーションでは、イタリアの学生が自己紹介を交えながらビエラマスターについて説明した。日本からは荻野智生さん(うなぎの寝床、産地の学校卒業生)、飯田佳名さん(HUIS、同卒業生)、ステファン・キタノビキさん(文化学園大学、同インターン)が英語でプレゼンを行った。

 荻野さんは、久留米絣(がすり)の説明を行うとともに、日本ならではのモンペをジャパニーズワークウエアとして紹介。「作業着として着用されてきた。ジーンズのようなアイテム」とした上で、「現在は今の生活様式にあった新しいモンペを販売している」と話した。

 飯田さんは遠州産地で稼働するシャトル織機について解説。「50~60年前に作られた織機で、滑らかで柔らかい織物が作れる。自分はこの生地を使った快適なウエアを生産している」と語った。マケドニアから留学しているキタノビキさんは、奄美大島の泥染めを紹介した。

 イタリアの学生はどのプレゼンにも興味を示し、「うなぎの寝床(店)はどこにあるのか」「シャトル織機のムービーが欲しい」「アフリカの生地を勉強しているので参考になる」といった質問が出た。