繊維ニュース

合繊テキスタイル/革新素材の開発相次ぐ/技術革新で日本の役割大きく

2023年12月14日 (木曜日)

 合繊生産の中心が中国など新興国に移る中、日本の合繊産業は革新的な素材開発に傾注してきた。その成果は継続的に発揮されており、2023年も革新的な素材の開発が相次いだ。(宇治光洋)

 世界的に有機フッ素化合物(PFAS)に対する規制が強化される中、繊維分野でもPFAS非使用の撥水(はっすい)加工への要望は強い。ただ、非PFASの撥水加工は高い機能を発現させることが難しく、世界的に大きな問題となっている。

 この課題に挑戦したのが、東レがこのほど紳士・婦人服地向けに開発した撥水ストレッチ生地「デューエイト」。2種類のスパイラル構造を持つ原糸からなるマルチラフネス構造(特殊な凹凸構造)により、テキスタイル表面を水滴が転がるように滑落する優れた撥水性と、肌離れの良いさらっとした着心地と適度なストレッチ性を実現した。

 繊維の形態から物理的に撥水性を発現させる方法は古くから研究されてきたが、技術的難易度が高かった。東レは独自の革新的複合紡糸技術「ナノデザイン」によって蓮の葉や蝶の羽などの表面にあるマルチラフネス構造を再現し、優れた水滴除去性を発現させた。

 スポーツ・アウトドア用途で注目なのが、帝人フロンティアがこのほど開発したポリエステル長繊維とナイロン長繊維を単糸レベルで混繊した特殊複合織・編み物「ミクセルNP」だ。

 ポリエステルは糸・生地での加工が容易なことから吸汗速乾性や撥水性、ストレッチ性などの機能を実現できる。ナイロンは耐摩耗性や発色性、吸湿・冷感性、風合いに優れる。このため商品が求める物性に応じて採用がすみ分けられている。ミクセルNPは両繊維の特性を融合し、従来とは異なる高質感・高機能を実現した。

 ポリエステルとナイロンの複合素材は交織・交編によるものか糸加工段階で混繊した原糸を使うものが一般的だったが、フィラメント単位での複合では質感や機能面での融合は難しかった。これに対して同社は紡糸工程でポリエステルとナイロンを混合することで、単糸単位で二つの繊維が均一に混在する特殊異形断面マルチフィラメント糸を開発し、織編構造体とすることに成功した。吸水速乾性や撥水性はポリエステルと同等の機能性を発現させながら、ナイロン由来の耐摩耗性や発色性を併せ持つ。

 クラレトレーディングは出光興産が開発したシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂の繊維化に成功し、優れた速乾性とドライ感を持つ繊維「エプシロン」を商品化している。高い疎水性や耐熱性などのユニークな特徴を併せ持つ。

 現在、世界の合繊産業の中心である新興国は汎用品の生産が中心であり、特殊形状や特殊ポリマーの繊維化など革新的な新素材の開発は停滞気味との見方がある。このため合繊テキスタイルの技術革新における日本の合繊産業の役割が一段と大きくなっていると言えそうだ。