ごえんぼう

2023年12月19日 (火曜日)

 〈吾輩は猫である。名前はまだない〉。夏目漱石の小説で最も有名な書き出しと言っても良いだろう。結局名前は出てこなかったと記憶するが、どうだったか▼遠藤平蔵という名前を持つ野良猫がいる。深谷かほるさんが描く8こま漫画『夜廻り猫』の主役として登場する。同作品は第21回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、累計発行部数は65万部を超える。先月は最新の10巻が刊行された▼涙のにおいをかぐことができる平蔵は、心の中で泣いている人の元を訪れ、涙の理由に耳を傾ける。『吾輩は猫である』の猫のように雄弁に励ますときもあれば、何も言わず〈うんうん〉とうなずくだけのときもある。どちらも優しさに満ちる▼職場や仕事でつらいことがあっても、人前で涙を流すのは難しい。平静を装い、心の中で泣いている人がほとんどだろう。大丈夫。涙の理由を聞いてくれる平蔵はどこにでもいる。つらいときは素直に話していい。