LIVING-BIZ vol.101(12)/畳編/伊藤忠商事グループ/遊民建築研究所/萩原/山田一畳店/慶応義塾大学理工学部

2023年12月19日 (火曜日)

〈大建工業を完全子会社化/伊藤忠商事グループ/畳ボード事業への影響なし〉

 伊藤忠商事グループは25日、住宅建材大手の大建工業を完全子会社化する。大建工業が手掛ける畳ボード(芯材)事業については現時点で「影響はない」としている。

 伊藤忠商事は、持ち分法適用会社の大建工業に対して、TOB(株式公開買い付け)を8月14日から10月10日にかけて実施。議決権所有割合で87・43%の株式を所有する結果となり、TOBが成立した。大建工業は、21日に上場を廃止する。

 大建工業の非公開化で経営への関与を強め、機動的な判断ができる経営体制を構築。伊藤忠商事グループの流通や施工会社などのネットワークを生かし、国内住宅事業を中心とした収益力の強化や非住宅分野での事業展開の加速、北米を中心とした海外事業の強化・拡大へつなげる。

 さらに市場環境を見極めた上で、成長可能性が見込まれる領域へのリソース投下など積極的なポートフォリオ・マネジメントを進める。完全子会社化・株式非公開化後、畳床用のインシュレーションボード(木質繊維板)事業については「現時点(11月24日時点)での想定では影響は特にない」(伊藤忠商事)。

 大建工業は1945年設立。素材、建材、エンジニアリングの3事業を手掛け、2023年3月期の売上高は2288億円、営業利益98億5600万円。同社の畳ボードのシェアは8割を超えるとされる。

〈遊民建築研究所 代表 黒田 幸弘 氏/後世に畳の良さ伝える/建築士の視点で追求〉

 畳に関する研究や勉強会などを行う、一級建築士で遊民建築研究所の代表を務める黒田幸弘氏。建築士として日本の伝統文化の一つである畳をどのように捉え、未来へつなごうとしているのか。その課題と可能性を聞いた。

  ――畳に関心を持ち、建築士向けの勉強会まで開くようになったきっかけは何ですか。

 13年ほど前、全日本畳事業協同組合(全日畳)の薄畳研究会にオブザーバーとして参加したことです(薄畳の厚さは約15~20㍉)。補助金も出て薄畳を作製しましたが、販売まではいきませんでした。

 農林水産省主導で畳業界8団体が立ち上げた「畳類公正競争規約作成連絡会」にも関わり、消費者が安心して畳を使えるように、イ草の産地偽装問題の払しょくや品質表示などを協議しました。協議は約9年続きましたが、結局規約合意には至らなかった。どちらも頓挫してしまい、「他に何かしないと畳文化が消えてしまう」という危機感を共有する畳業界の人と協力して、建築士向けに畳の勉強会を始めました。

  ――和室が減り、畳の知見がある建築士も減少しているのでしょうか。

 私たち建築士は、畳を知っているようで知らないことが多々あります。どのような畳があり、どう使えるか分からない。和紙表など人工の畳にはパンフレットがあり、これを基に施主に対して仕様や価格などを説明できますが、イ草の本物の畳にはパンフレットなどありません。

 以前勤めた設計事務所でも「中の上/縁なし/厚み●㍉」程度の情報で、ビジュアルもなく、価格の根拠はブラックボックスのような状態でした。これでは建築士は提案しにくく、お客さまも選びにくい。そのせいで需要が減っている面もあると思います。

 自ら発信する必要性にかられ、まずは建築士に畳を知ってもらう活動をと勉強会を開きました。19年に東京で初開催したところ、2日間で約60人の建築士や建築関係者が参加しました。畳業界の人による畳の歴史や機能などの講義、ミニ畳の作製、イ草の講義という内容で好評でした。新型コロナウイルス禍が落ち着いたので来年から再開し、大阪でも行う予定です。今年実施したイ草の刈り取りツアーも続けたいですね。

 5年ほど前から建築の専門学校で畳の授業もしています。学生の畳への認識は「祖父母の家や寺社、旅館にあるもの」という程度ですが、畳の良さを教えると新しい用途などが浮かび、畳を用いた空間コンペでは斬新な作品が出てきます。やはりまずは知ってもらうことです。

  ――畳の魅力は。

 ゆったり寝転べること、お年寄りや子供が転んでもケガをしにくいこと、空間を自由に使えることでしょうか。和室は居間、寝室、客室など多用途に使われてきました。防音性もあります。イ草の畳なら香りや夏場にひんやりとした心地よさもあり、現代の生活に生かせる良い点が数多くあります。

 畳は人の立ち居振る舞いにも関わると思います。上座・下座、畳の縁は踏まずに歩くといった礼儀作法、床の間に飾られた花に感じる季節感など、畳を未来に継ぐことは日本の文化や慣習を継ぐことに通じるのではないでしょうか。海外でイ草の畳ブームが起きていると聞きますが、日本人こそ再認識してほしいですね。

 今や多様な畳表がありますが、イ草は残さなくてはいけない、残す価値があります。それには寺社・旅館だけでなく住宅でも使い、イ草農家や畳店が利益を出せるようにしなければなりません。そのためにも、われわれ建築士が畳を知って選択肢に加えることです。取捨選択するのは施主のお客さまですが、提案されなければ選べません。

 イ草はSDGs(持続可能な開発目標)にかなった素材でもあります。曳家という手法で、築90年もの家屋の茶室部分を残した際に実感しました。茶室に敷かれていた厚みのある本畳は、畳床が少し減っているだけの非常に良い状態で、畳屋さんが感心するほどでした。わらを足し、表替えするだけで90年前の畳がよみがえったのです。使用頻度にもよりますが、良い畳をきちんと手入れして使えば、一緒に年を重ねていけます。

 暮らし方や住宅の変化に合わせ、畳も変化せざるを得ません。畳業界と建築士が協力し、施主のお客さまを巻き込みながら、現代的な生活に合う使い方を追求して畳の可能性を広げ、後世に伝える努力をし続けたいと考えています。

〈萩原/企業主導型保育園を設立/仕事と子育て両立目指す〉

 イ草製品、インテリア、家具製造卸の萩原(岡山県倉敷市)は2022年7月、社屋と同じ敷地内に「あさのは保育園」を設立した。同社のイ草を使った保育室を備えており、従業員が仕事と子育てを両立できる環境作りに加え、畳文化の発信を目的とする。

 対象年齢は0~5歳で、定員は36人。そのうち18人は地域の一般枠に設定する。自社従業員の利用率は29・2%に上る。元々通っていた保育園から子供を転園させる従業員もいるなど、設立を歓迎する声が多い。入園した子供たちには、名前入りのござを贈呈する。

 設立に際し、内閣府が企業主導型保育園を助成する制度を利用した。この制度は、従業員の多様な働き方の実現や待機児童の解消を目的に、企業が開園した認可外保育園に対し認可保育園と同等の補助金が給付される。

 20年に社内公募によって集まった20~40代の従業員7人が、園名や理念、内装などを話し合って決めた。園内では、イ草を使った保育室で遊びや昼寝の時間を過ごせるほか、「灰桜」という色の畳を使った壁やちょっとした隠れ家のような小上がりが設置されている。

 遊具は岡山県内で林や森を守る活動を行う「木の里工房 木薫」の自然に優しい遊具を採用。遊びを通じて自然に触れる機会を大切にした園庭となっている。給食室の家具にも同様の木材が使われている。

 萩原秀泰社長によると「当社所在地の倉敷市西阿知は、倉敷市内で最も子供が多い地域。保育所設立に対する地域の期待は大きい」。直接業績につながる施策ではないが、「次につながるヒントになれば」と設立を決めた。

 今回の保育園設立のほかにも、地域貢献の取り組みを進めている。岡山県と倉敷市にある保育施設の備品購入費として、13年から毎年寄付を続ける。21年からは倉敷市の保育施設へ置き畳とござの寄付も始め、25年には倉敷市内全ての公立保育園・こども園へイ草製品の寄付を目指す。

〈伝統工芸×テクノロジー/山田一畳店/慶応義塾大学理工学部〉

 畳製造販売の山田一畳店(岐阜県羽島市)は慶應義塾大学理工学部杉浦裕太研究室と共同で、畳に光が反射する角度で色の見え方が変わる特性を利用した、ドットによるディスプレー「タタピクセル」を開発している。伝統工芸とテクノロジーを融合し、芸術作品に昇華させる。

 円形の畳と制御モーターを用いて1度単位で畳の回転を制御し、光の反射角度を変えることができる。これにより、多様な濃度の色を表現できるようになり、8畳間に2300枚の円形畳を敷き詰めると色の濃淡を組み合わせて人の顔や姿の絵柄も表現できる。周囲の環境に溶け込み、日常生活の一部として機能するディスプレーを目指す。

 伝統工芸でもある畳に技術を取り入れることで、芸術作品としての性質も備える。山田憲司社長によると、「光と影を使った表現で、谷崎潤一郎の随筆〝陰翳礼讃(いんえいらいさん)〟の世界観を表す」。

 耐荷重モーターが必要になるなど課題は残るものの、来年7月に文化のみち橦木館(名古屋市東区)で展示を目指し開発を進める。