診 先高?先安?

2023年12月20日 (水曜日)

〈ポリエステル長繊維/材料乏しく様子見/焦点は欧州需要動向〉

 ポリエステル長繊維の荷動きは10月以降も特段の材料はなく、盛り上がりを欠く状態が続いている。様子見の状況下、引き続き焦点はスポーツ・アウトドア用途を中心とした欧州市場の需要動向となる。

 ポリエステル長繊維の市況は10月以降も低調に推移した。資材分野はカーシートなど自動車用途の回復が続いているほか、タフタ・ポンジーなど一般資材用途も底堅い需要があることから堅調に推移したが、衣料分野に勢いがない。

 特にスポーツ・アウトドアを中心とした輸出テキスタイル向けの低調が続いている。昨年までの活況の反動で流通在庫が増加しており、その整理が予想以上に長期化した。

 欧州市場はインフレの悪影響が購買力にまで及んでいることが市況の回復を遅らせる。このため産地の稼働率も若干低下傾向となっていることも弱材料となった。

 年明け以降の見通しに対しても原糸メーカーでは慎重な姿勢が強い。衣料分野は、米国市場が徐々に正常化に向かうとみられているが、欧州市場に関しては「来年3月頃までは流通在庫の整理が続くかもしれない」(合繊メーカー関係者)といった指摘がある。引き続き焦点は欧州市場の需要動向となる。

 衣料分野の国内市場に関してはまずまずの市況が続いたが、気温の低下が遅れたことで冬物衣料の店頭の初動も遅いことが悪材料となる。

 円安による調達価格上昇で値上げの動きも続いているが、ここに来て円安に一服感が出ていることも要注意だろう。値上げ浸透への影響が懸念される。

〈ポリエステル短繊維/車両用途は需要回復/生活資材向け勢い欠く〉

 ポリエステル短繊維の市況は10月以降も車両向け不織布用途の需要回復が続いた。ただ、生活資材向けは勢いを欠いており、寝装向けは輸入わたとの競争激化で低迷が継続している。

 不織布用途は自動車の生産台数回復に合わせて車両向けの需要回復が続き、現在は新型コロナウイルス禍前の水準にまでほぼ回復した。また、機能紙用ショートカットファイバーも膜支持体向けの需要が底堅く、安定的な販売が続いている。

 一方、スパンレース向けなど生活資材分野は大きな落ち込みはないものの勢いを欠く。需要家である衛材・生活資材メーカーの商況に濃淡があり、これに合わせて原綿販売も供給先ごとにまだら模様となっている。

 低迷が続いているのが寝装用途だ。昨年の活況の反動が続いていることに加え、輸入わたとの競争が激化した。このため国内メーカーは防虫加工品など機能素材への傾斜を強めており、定番わたのシェアが低下傾向に。

 一方、紡績用途は定番品の低迷こそ続くものの、特殊品は比較的堅調。既に国内での合繊紡績は高性能繊維との混紡など特殊用途への特化が進んでいることが背景にある。また、学生服のモデルチェンジ増加を背景にウール・ポリエステル混紡用の需要が高まっていることも需要を下支えした。

 年明け以降の見通しに関しては、車両向けは引き続き安定して推移するとの見方が強く、生活資材分野も回復を期待したいところ。ただ、寝装用途は引き続き厳しい状況が続くとの見方が大勢を占める。

〈綿織物/需要の低迷続く/商流変化と合繊トレンドで〉

 綿織物の需要は盛り上がりに欠ける状態が続いている。以前のような見込みでモノを作るという商流が変化していることに加えて、トレンドが合繊に傾いていることも関係しているようだ。相場も弱含みの状況が継続している。

 綿織物を扱う商社によると、資材向けは堅調なものの、切り売り向けは依然として動きが見られない。23春夏物の店頭販売が好調だった衣料向けも盛り上がっておらず、繁忙期となる11月でも「大した動きはなかった」(商社)。

 サステイナブルな流れが加速したことで、アパレルや小売りではモノを作り過ぎないという意識が高まっている。店頭ではプロパーでの消化率を高め、売り切ったら終わりという動きとなり、自ずとリピートの発注も減少する。

 そうした動きによって、既存の商流も変化しつつある。これまでは、機会損失をなくすため前シーズンの売れ行きなどを見て、見込みでモノ作りすることがあったが、ここ数年で変化。実際、23春夏物が好調だったにも関わらず、来シーズン向けの動きが鈍いのは、それを裏付けているとも言える。

 商社によると、中国やASEANの紡績、織布工場の生産スペースはかなり空きがあると言う。世界的に見ても需要は低迷。こうした状況を踏まえ、商社は「今後、綿織物の需要が盛り上がる要素は見当たらない」と話す。機能面で綿に勝る合繊にトレンドが傾いていることも影響する。

 綿織物相場はドルベースでは横ばいで推移する。ただ、綿花の需要も盛り上がっておらず、相場の動きとしては弱い。

〈アクリル短繊維/年明けからの動意に期待/アウター向けは市況低迷〉

 アクリル短繊維の荷動きは10月以降も依然として勢いがない。特に海外市場は中国、欧米ともに動きが鈍く、中でもアウター向けは極めて低調だ。このためメーカーの期待は年明け以降の動意へと向かっている。

 市場、用途別に見ると国内の保温インナー向けは10月以降も比較的安定している。気温低下もあって店頭商況が悪くないことが好材料。一方、アウター向けは低迷が続く。特に中国市場は内需向け、対欧米輸出向けともに荷動きが非常に悪い。中国、欧米ともに景気回復が遅れている影響が大きい。

 一方、靴下用途は比較的堅調。需要が回復傾向にある上に、高付加価値品の採用が増加していることが背景にある。また、資材用途は中国向けこそ勢いがないものの、全体としては悪くない状況が続く。

 総じて荷動きが鈍い中、在庫も増加傾向。日本化学繊維協会のまとめによると、10月末段階でのアクリル短繊維の在庫は2万4237㌧(前年同月比28・1%増)と高水準。需要家の手持ち在庫もかなりあるとも考えられており、在庫の整理がある程度進まないことには荷動きも活発化しない。

 このため既にメーカーの関心は年明け以降の需要に向かう。特に極細繊度わたは3月末で生産を停止した三菱ケミカルグループ生産品の市中在庫が底を尽くとの見方があり、その代替需要への期待が高まる。資材(セパレーター、ワイピングなど)用途でも同様の動きが強まりそうだ。