繊維ニュース

試される大手アパレル/針路は高価格帯へ/円安追い風に

2023年12月21日 (木曜日)

 大手アパレル企業で高価格帯のブランド、商品開発が相次いでいる。国内外の上質な素材を使い、ファッション感度の高いデザインを導入。国内工場で縫製しているのも特徴だ。富裕層の日常着、お出掛け着を拡充する狙いもあり、各社とも「高価格帯でシェア獲得のチャンス」と読む。背景には昨年から続く円安の影響もある。(市川重人)

 オンワード樫山は、基幹ブランド「23区」から派生した婦人服「エステータ」を今秋冬シーズンに投入した。同社の百貨店向け婦人服では最も高額なゾーンに位置し、ミニマルで洗練されたイメージを訴求。伊勢丹新宿本店など都心型百貨店に期間限定店を開設し、感度の高い30~50代女性の支持を得ている。

 同社では「高額ゾーンの(婦人服)消費は好調と聞いている。従来のファンと異なる顧客と接点を築けた」(エステータのMD担当者)と分析。海外ブランドを買い回り、エステータを見て「ジャケットを購入した女性も多い。尾州で調達したオリジナル素材が評価された」としている。

 ワールドは、大人層に向けた婦人服ブランド「オブリオ」の販売を来春から開始する。同社の既存ブランド(婦人服)と比較し、最も高額なゾーンでMDを構成した。全体の約7割でイタリアなどインポート素材を採用、ニットウエアを除く布帛物の縫製はワールドグループの自社工場で行っている。

 価格帯は海外ブランドと百貨店ブランドの中間に位置し、中心はジャケット6~12万円、ボトムス3万5千~6万円など。ワールドグループで展開する婦人服「アンタイトル」と比較し、2倍前後の価格が軸になる。

 ジャケット10~15万円、ドレス10~15万円という価格で婦人服「オーヴィル」を展開するのがイトキンだ。高感度、高品質、高価格帯という同社では初のポジショニングになる。来春夏の展示会を都内で行い、ラグジュアリーを再解釈した婦人服に反響があった。

 3社のうち、最も強気な価格設定となったイトキンだが、その裏付けとして富裕層を中心とした高額消費への期待感がある。同社も都市部に期間限定店を開設し、売れ筋などを検証する。

 オーヴィルの展示会に来場した小売業の関係者は「数年前から節約志向が高まる一方、お金をかけるモノには消費を惜しまない」と話す。婦人服も同じ傾向とし、さらに「ネット通販では素材の良し悪しを判断できない。実際に店頭で見てもらえると商機がある」。

 円安基調が続き、海外ブランドの価格が跳ね上がった点も、プラスに働きそうだ。ある欧州ブランドのウール素材ジャケットは3年前と比較し、約2倍に上昇。欧州の人気ブランドでは30~50万円のジャケットが主流になりつつある。

 オンワード樫山、ワールド、イトキンでは海外ブランドと同等の素材を使用し「富裕層は割安に感じている」(オンワード樫山)としている。来春に「サンヨーコート」で24万円のバルマカーンコートを投入する三陽商会も「素材とデザイン、縫製に自信がある。海外ブランドを着ている女性を取り込みたい」(サンヨーコートの企画担当者)と意気込む。

 富裕層へのタッチポイントを増やす百貨店からは、この動きを歓迎する声も聞かれる。大手アパレルの挑戦が実を結ぶのか、試される商戦になりそうだ。