回顧2023年

2023年12月26日 (火曜日)

〈紡績/価格転嫁苦戦し収益悪化/海外ビジネス拡大/大和紡績が独立へ〉

 紡績の繊維事業の上半期(4~9月)業績では、エネルギー価格の高止まりに加え、原綿高など前期からのコストアップ分の価格転嫁が追い付かず、収益悪化が目立った。前期は新型コロナウイルス禍からの需要回復に加え、構造改革の成果が出始め、“稼げる”体質が見えてきたが、今期に入ってから一転し、想定以上の円安や原燃料高など激しいコストアップに苦しんだ。

 特にユニフォーム地は値上げが続いたことで、ユニフォームメーカーが海外からの生地調達を増加。さらに昨年はコロナ禍で生産・物流が混乱したことを受け、備蓄を強化していた。その反動もあって、販売量が減少し利益を圧迫した。

 ただ、コロナ禍が落ち着き行動制限が解除される中、海外戦略も加速した。シキボウでは円安で勢いづく中東民族衣装向け織物輸出が拡大。日清紡テキスタイルもシャツ地を軸にインドネシアから第三国輸出を増やし、中東向け輸出の再構築に乗り出した。大和紡績は製紙産業用途のカンバス・メッシュベルトでインドネシアの生産拠点を通じて、第三国へ販売を強める。

 環境配慮型のビジネスも浸透。クラボウでは裁断くずなどを独自の開繊・反毛技術で再資源化する「ループラス」での取り組みが広がり、タイに反毛機を導入するなどで海外向けでも対応力を高める。

 大和紡績が投資ファンドの支援を受け、来年1月にダイワボウホールディングスから独立することも大きな話題となった。数年後にはIPO(新規株式上場)も目指すとともに、研究開発と設備投資を続け、「伸び代を拡大する」方針。独立により成長に向けてアクセルをさらに踏み込む。

〈合繊メーカー/採算重視の姿勢鮮明に/広がるサステ素材の方法論/合繊の未来は日本が支える〉

 合繊業界の2023年は昨年から続く値上げラッシュによって幕を開けた。原料に加えて燃料・電力価格も高騰したことから糸加工や染色加工のコストも急激に上昇した。このため合繊メーカー各社とも数度にわたって糸・わた・生地の価格改定を実施し、採算の改善に努めた。各社とも採算重視の姿勢を強め、不採算品からの撤退が加速した。

 世界的に要求が強まるサステイナブル素材の方法論が広がったことも23年の特徴だろう。例えばリサイクル素材の場合、プレコンシューマ型もしくはポストコンシューマ型マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルが主流だったが、新たにマスバランス方式を導入する企業が現れた。東洋紡せんいはリサイクルナイロン繊維、旭化成はバイオマス原料ポリウレタン弾性糸を商品化している。

 革新的な新素材の開発も目を引く。東レの「デューエイト」は世界的に規制が強化されている有機フッ素化合物(PFAS)系撥水(はっすい)加工剤を使わずに繊維形態から物理的に撥水性を発現させた。帝人フロンティアはポリエステル長繊維とナイロン長繊維を単糸レベルで混繊した特殊複合織・編み物「ミクセルNP」を開発した。クラレトレーディングはシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂の繊維化に成功し、優れた速乾性とドライ感を持つ繊維「エプシロン」を商品化した。

 現在、世界の合繊産業の中心である新興国は汎用品の生産が中心であり、革新的な新素材の開発は停滞気味。技術革新など合繊の未来は日本の合繊産業が支える構図が鮮明になった。

〈商社/良品計画が衣料品事業内製化/進む海外事業の変化/循環システム運営活発化〉

 良品計画は9月、衣料品製造販売事業を内製化していくことを発表した。会社分割(簡易吸収分割)の方法により、同社を販売先とする三菱商事ファッション(MCF)の衣料品製造販売事業に関して持つ権利義務を承継し、MCFの一部従業員も引き取る。2024年5月1日を効力発生日とする。

 大手SPAによる内製化は今後、繊維業界にどのような影響をもたらすのか、注目される。

 海外事業の在り方についても、さまざまな変化が見られた。

 蝶理は、21年に子会社化したSTXのベトナム工場をはじめ、2社の連携を生かしたASEANの生産背景の活用をアピールする。

 MNインターファッションは、メンズのOEM/ODMについて、東南アジアで築いた生産背景を活用し、コスト要求への対応を強める方針を打ち出す。

 伊藤忠グループは今春、ベトナムでの繊維事業拡大を見据え、ベトナムの大手SPAコーウィルへの出資比率を20%に引き上げ関係強化を図った。

 22年に続き、繊維の循環システムの運営に乗り出す商社が相次いだ。

 豊田通商は、50年までに廃棄される全ての衣料品を再び衣料品として生まれ変わらせることを目指すプロジェクト「パッチワークス」を開始した。

 蝶理は繊維製品の製造工程で発生する繊維くずを回収、循環させるスキーム「B―LOOP」(ビーループ)に着手した。

 ヤギは、回収された使用済み繊維製品の分別から再製品化までを一貫して手掛ける循環サービス「LOOP LOOPS」(ループ・ループス)の提案を開始した。

 丸紅は、学生専用マンションで不要になった衣料品を回収する実証実験に取り組んでいる。

〈生地商社/生産機能の維持に奔走/設備投資や連携盛んに/業績回復も大きな流れ〉

 生地商社の2023年は、業界トップのスタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)が「持続可能なサプライチェーンの構築が当社事業の根幹だ」(瀧隆太社長)として国内産地や染色加工場との取り組み深化を最優先テーマに据えたように、各社がサプライチェーンの維持に動いた年だった。

 同社は約3年前、サプライチェーン全体を見渡し、最適な調達体制を築くことを目的にテキスタイルSCM推進部を設置。基幹システムを活用して工場への発注履歴を精緻に管理し、いつどこで何をどれだけ作ったかをデータ化、可視化していくなどQR実現に向けて染工場などと取り組みを深化させた。「成果は表れてきている」と言う。

 宇仁繊維(大阪市中央区)は24年央の稼働をめどに、北陸産地にジャカード搭載織機を購入し、協力工場に貸与することを決めた。設備投資総額は1億5千万円。国産にこだわる同社のサプライチェーンの維持拡大策の一つだ。

 川越政(同)は23年、「プルミエール・ヴィジョン・パリ」と「ミラノ・ウニカ」に初出展したが、それぞれのブースを産地企業との連携の形とした。「産地企業も海外に進出して利益を出し、モノ作りの機能を維持してほしい」との考えがある。

 こうした事例はその他の生地商社の中でも見られ、製販両面で産地企業や染工場との取り組みを深めようとする生地商社が目立ったのが23年だったと振り返ることができる。

 国内外で衣料品のリベンジ消費の流れをしっかり捉え、業績を新型コロナウイルス禍の前まで戻す事例も多かった。