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経済は緩やかに回復/将来に向けた勝負の年に/特別インタビュー 東レ 大矢 光雄 社長(前)

2024年01月04日 (木曜日)

 「緩やかに回復する」――東レの大矢光雄社長は2024年の経済についてそのような見通しを立てる。経済が回復基調を示す中、日本企業それぞれが持つ強みと最新のデジタル技術を組み合わせれば「成長・拡大の余地はある」と話す。一方で地政学リスクや世界的なインフレといった懸念材料も残り、将来に向けた勝負の年になると言えそうだ。

(桃井直人)

――新しい年を迎えました。今年を占うと。

 先に昨年のことを言うと、激動の1年でした。米中摩擦に端を発する経済のブロック化、長引くロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの衝突など、「何が起こるのか分からない」状況が経済を下押しする要因になりました。不動産不況で低迷した中国内需の回復が遅れているのも大きなインパクトです。

 中国の内需低迷は長期化する可能性があります。紛争や軍事衝突も続き、インフレに対する金融引き締めによる景気停滞も無視できません。これらは簡単に好転するとは考えにくく、今年も経済環境自体は厳しいままかもしれません。ただし、昨年と比べると緩やかながら回復するのではないかと予想しています。

――企業にはどのようなかじ取りが必要でしょうか。

 日本企業の良い部分や強みは擦り合わせ技術や顧客の価値を追求する姿勢ではないでしょうか。そうした良いところ、強いところをアピールする手段として最新のデジタル技術、例えば生成AIを使うのも面白いと感じています。日本企業の強みとデジタル技術が相まって産業が活発化することも考えられます。

 また、サステイナビリティーが不可欠な要素であることは変わりません。サステ社会の実現と経済の成長は、例えば二酸化炭素の削減と排出のように相反する部分があり、両立するイノベーションが必要です。日本企業はイノベーションを実現する技術を持っており、成長・拡大の余地も大きいと思っています。

――そのほかどのような可能性がありますか。

 日本だけでなく、世界で言えることですが、新型コロナウイルス感染症によって自粛を余儀なくされ、「使えなかった金」があります。コロナが鎮静化した今はその分を含めて金が使えるようになりました。訪日外国人の増加が端的な例であり、今後はさまざまな分野・領域で金の流れが顕在化しそうです。

――貯蓄にも金が回っていると聞きます。

 その通りです。日本だけでなく、統計を見ると中国でも貯蓄が増えています。先行きへの不安が貯蓄を促すのでしょうが、そのような社会情勢下でも金を使ってもらえるような製品の開発・提案が求められます。こうしたことができるかどうかが、企業の将来を左右し、勝敗の分かれ目になるとも言えそうです。