繊維ニュース

わが社が目指す道/宇仁繊維/スタイレム瀧定大阪

2024年01月04日 (木曜日)

〈各所で「協働」進展/新たな付加価値生み出す/スタイレム瀧定大阪〉

 生地商社国内最大手のスタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)が事業領域をますます広げている。キーワードは「連携」「協業」「協働」だ。

 2023年はこの動きが一段と加速した一年だった。インドのNSL社との協業で進める、農家を支援し労働環境と自然環境の改善を図る「オーガニックフィールド」の取り組みもその一つ。オーガニックフィールドを使用した商品が23年の夏から、この取り組みに賛同した企業から販売されている。

 1月にはポリエステル繊維リサイクル培地「トゥッティ」が、プロバスケットボールチーム「川崎ブレイブサンダース」がSDGs(持続可能な開発目標)プロジェクトの一環として取り組む「アンドワンファーム」の屋上菜園に採用されたほか、園芸会社、ユニバーサル園芸(大阪府茨木市)と協働し、トゥッティのレンタルグリーンサービスも開始した。

 ハンガー、店舗備品の日本コパック(東京都台東区)とも協働し、廃棄・焼却されていた衣料品からペレットを生成しハンガーなどに再生する仕組みを構築した。スタイレム瀧定大阪が推進する「プラスグリーンプロジェクト」の一環で、衣料品から成型品にアップサイクルする仕組みは「日本初」。

 消費者に直販するDtoCのカットソーブランド「LIFiLL」(リフィル)では、クリエイティブ・ディレクター金子恵治氏をコラボレーターとして迎えた男性向けのアンダーガーメント「ファインライン エンジニアド バイ リフィル」の販売を1月から、公式オンラインショップなどで開始した。

 カポック繊維で充填(じゅうてん)材(中わた)市場にも参入した。インドネシア企業との協業によるもので、カポック繊維は軽量や保温性などの特徴を持ち、充填材の新しい選択肢として防寒衣料や寝装関連、グッズ用途に提案する。わたの販売ではなく、製品を軸に展開する方針だ。

 ソニーグループと連携して開発、提案する多孔質カーボン素材「トリポーラス」のインナーウエアは、24年以降に国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されることが決まった。トリポーラス製品の特徴である、消臭・抗菌性能や吸汗速乾性能、着心地・快適性が評価された。

 カジグループ(金沢市)との商工連携も始まった。カジグループの生地「KAJIF」(カジフ)にスタイレム瀧定大阪が独自のアレンジを加え、婦人ファッション分野を中心に提案する。生地備蓄も行うなど、カジフが対応できていなかった分野や機能を補完し、拡販につなげる狙いだ。協業で生み出した生地は「カジフ・イン・コラボレーション・ウィズ・スタイレム」の名称を付け、タグも作った。

 24年もさまざまな協働を予定する。

〈QRと人材確保が鍵/世界に打って出る/宇仁繊維〉

 生地製造卸、宇仁繊維(大阪市中央区)の宇仁龍一会長は2024年の重要テーマに、さらなるQRの実現と人材の安定確保を挙げる。

 同社の業績は新型コロナウイルス禍で大きく落ち込み、赤字も強いられたが、22年8月期単体決算は、売上高が前期比22%増の67億8千万円と大きく伸び、営業損益も前期の1億5千万円の赤字から2億9千万円の黒字となった。

 続く23年8月期は売上高が78億6700万円(前期比16・0%増)となり、創業以来の過去最高を更新。営業利益も生地価格引き上げ効果や、ジャカードなど単価の高い付加価値系の商品が拡大したこと、利益率の高い輸出が伸びたことなどにより80%増と大きく伸びた。

 23年9~11月も売上高が21億1300万円となり、前年同期を7・5%上回った。このペースを続けて通期での大幅増収につなげ、その先に100億円の大台突破を見据える。

 そのために重要になるのがQR。同社は豊富な生地を備蓄するとともに、「世界一のスピード」と自負する子会社の染色加工場、ハクサンケミカル(石川県白山市)や協力織布工場で迅速な生産ができる体制を整えている。サステイナブルの観点から世界的に「作りすぎ」を回避する傾向が強まる中、小口を即納できる体制がより重要になる。この機能をさらに磨くとともに、世界中の展示会に出展し、「ストックサービスの宇仁繊維」を大々的に打ち出していく。

 人材の安定確保は頭の痛い問題。同社は「人の数が売り上げを作る」との考えの下、毎年20人ほどの新卒採用を続けてきた。しかし今年の新卒採用者は15人にとどまった。宇仁会長によれば、コロナ禍以前は募集をかければ100通から150通の履歴書が届いたが、今は30通ほどと低迷している。少子高齢化の中で他業種や同業他社との人材の「奪い合い」が勃発している。この現実に危機感を持ち、今後は企業PRや学校との連携、初任給のさらなる引き上げなど人材確保に改めて力を入れる。

 採用した人材が離職してしまうケースは、世間の傾向と同様、同社にも当てはまる。産休・育休制度の充実、予算達成者への手厚い報奨、宇仁繊維製の生地を使った洋服を購入した際の資金援助制度「服を買おうキャンペーン」の継続――などで離職を少しでも食い止める。

 宇仁会長は、「自分が作った、あるいは携わった生地を使った製品が店頭に並んでいるところや街中で見かけることは、この上ない喜びになるはず。やりがいや達成感を感じられる仕事だという自信がある。社員が生き生き仕事をしている姿を見られるのは私の最高の喜びだ」と社業の魅力について語る。