LIVING-BIZ vol.102(2)/2024 業界展望 睡眠ビジネスは新たなステージへ/ウェルビーイング志向の異業種共創/1月から「快眠のための家」で検証

2024年01月09日 (火曜日)

 睡眠関連ビジネスが新たなステージを迎えている。鍵となるのはウェルビーイング(心身が健康で社会的・経済的にも満たされた幸福な状態)志向を捉えた異業種間の共創。新型コロナウイルス禍を契機に広がる、人々のウェルビーイング志向を背景に、幅広い枠組みで異業種共創が進む。

 西川や伊藤忠商事などが参画する産学連携コンソーシアム「スリープイノベーションプラットフォーム」(SIP)では、新たな睡眠ビジネスの具体的検討段階に入った。睡眠と運動の連携ビジネスでは、西川とアシックスが協働して運営する快眠&フィットネススタジオをベースに、SIP参画企業の多彩なサービスと連動した事業拡大を模索。健康経営サービスの早期事業化も目指す。

 NTT東日本グループが中心となって運営する睡眠コミュニティー「ザコネ」では、“眠りのエンタメ化”を切り口に、サウナと睡眠の実証実験などで、睡眠への関心が薄い人の意識変革を促す。スマートフォン向け睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」も根っこは同じ。これと協働する昭和西川のポケモンデザインの寝具は好調な売れ行きを見せる。

 今年1月からは、睡眠医学の知見を生かした住空間とスマートホームシステムを融合した居住型実験住戸「快眠のための家」で睡眠の質向上に関する検証が行われる。長谷工グループ、NTT東日本グループ、ブレインスリープが協働した。舞台は長谷工グループの賃貸マンション「サステナブランシェ本行徳」(千葉県市川市)だ。

 NTT東日本アーキテクト部スリープテック事業チームの尾形哲平ディレクターは、「昨今、生活をより良くするためのウェルビーイングの考え方を取り入れるマンションが増えている。睡眠の質向上が疲労回復を促し、結果的に暮らしの質や労働の生産性向上にもつながることを、実際の居住者を通して検証していく」と話す。

 同マンションは、国内で初めて建物運用時のCO2排出実質ゼロを実現するリノベーション物件。睡眠のほか、全て人工知能(AI)制御の住戸、太陽光発電による再エネ・省エネ住戸、廃材を内装アートに昇華させた住戸など13戸の居住型実験住戸がある。ヘルスケア、安全性、快適性など多様な視点で検証し、住空間の新たな価値創造を目指す。共用部の集会室は、エステーの「バーチャル森林浴」を導入。森の風景・音・香りによるリラックス効果の検証も行う。

 快眠のための家は、ブレインスリープの睡眠医学の知見を基に、構造や内装に関する環境整備をサポートし、あらゆるモノをネットにつなぐIoTシステムを構築。ハードとソフトの両面から睡眠に特化した住環境を実現した。

 寝室の壁や床など内装の45%を睡眠に最適とされる木質にし、残りを気分が落ち着くブルーの除湿機能素材で仕上げた。ブレインスリープの調湿機能寝具、大光電機のサーカディアンリズムを整える照明、カドーの加湿器、エステーのトドマツの香り、ヨギボーのクッションなど、リラックスや眠りを促すアイテムもそろえた。これらはザコネ参画企業のもので、長谷工グループもその一員。

 IoTシステムでは、NTT東日本グループが提供する睡眠アプリの睡眠バイタルが起点となり家電が連動する。入眠を検知すると消灯したり、起床を検知するとカーテンが開く。エアコンやオーディオ、香りのディヒューザーなども睡眠状態に合わせて自動制御可能だ。起床時刻の設定は手動だが、睡眠計測アルゴリズムの活用で、設定した起床時刻の20分前から起きやすいタイミングを検知して快適な目覚めを促す。

 睡眠研究の成果を総合的に取り入れた同室のほか、住居環境が異なる3部屋を活用。居住者の主観的評価と客観的評価(活動量計、脳波計、心電図データ)を元に、睡眠環境に配慮した居住空間が睡眠に与える効果を比較検証する。

 長谷工グループとしては、検証結果次第で他の賃貸マンションへの展開を検討。ゆくゆくは住居の経年変化なども検証した上で、分譲マンションや新築戸建てにも広がる可能性を示唆した。