特集 今治タオル産地(5)/素材編/消費志向の細分化へ対応進む/シキボウ/増井

2024年01月10日 (水曜日)

 ここ数年、新型コロナウイルス禍を受け、抗菌・抗ウイルスなどの清潔志向に合わせた機能提案がタオルの製品提案で目立った。清潔さを保つために洗濯の頻度が上がり、その際に扱いやすいサイズや厚さ、加工の洗濯耐久性の高さ、速乾性などにも提案の幅が広がっている。

 このような機能面だけでなく製造時の環境負荷の低さなどSDGs(持続可能な開発目標)に関する素材調達・生産背景にも注目が高まり、それに合致した素材提案が続けられている。

 主流の綿だけでなく合繊を用いたタオルも増えつつある。素材特性、改質や加工、織編み技術など幅広い手法を用い、高いコストパフォーマンスを追求する動きも目立ってきた。

 産地のタオルメーカーからは安定した供給を求める声も根強い。ロングセラー商品や名入れタオルのベースとなる白タオルなどは品質の均一化が求められるケースが特に多い。

 サプライチェーンがさまざまな要因で不安定になる中、糸そのものの価値だけでなく必要な量が必要や時に確保できる使い勝手の良さも改めて要求されている。

 紡績業など素材メーカーがタオルを企画し販売する動きもある。素材・加工の特性を熟知している点や生産背景を生かしたモノ作りの力を消費者に直接アピールしている。消費者だけでなく製造卸やタオルメーカーに具体的な最終商品を見せることで素材の拡販につなげる狙いもあるようだ。

〈環境配慮で新提案を加速/糸の良さ、タオルで発信/シキボウ〉

 シキボウの今期(2024年3月期)の原糸販売は、値上げなどで前期並みの売り上げを維持するが、円安でありながらも海外糸が安値にあることなどから利益面では苦戦している。ただ、「苦しい時こそ新しい提案をしていく」として、関心が高まる環境配慮型素材を軸に底上げを図る。

 今治産地へは鞘に綿、芯にポリエステル短繊維を配した2層構造吸水速乾糸「クイックドライコットン」の販売が堅調。これまでは機能より風合いを求める声が多かったが、消費者の環境配慮への意識が高まる中、綿にオーガニックコットン、ポリエステルに再生原料を使った環境配慮型のクイックドライコットンの採用も少しずつ増えてきた。再生ポリエステルの代わりに、生分解性ポリエステル「ビオグランデ」といった独自の環境配慮型素材の提案も強化する。

 昨年に比べ試紡も増えている。富山工場(富山市)では特殊レーヨンやポリエステル使いによる差別化糸の要望が増加。来期に向けバルク生産へつながることを期待する。

 昨年、綿100%の連続シルケット加工糸「フィスコ」使いのタオル「SENREI」を米国のクラウドファンディング(CF)サイト「キックスターター」に出品した。タオルは今治産地の藤高で生産。フィスコの特性を最大限に引き出し、吸水性や洗濯耐久性の高さ、最適なパイル長によってほどよい硬さになる風合いなどを発信した。目標を大きく上回る180万円以上の支援を集めた。

〈新開発綿糸を本格販売/インドネシア産の2品種/増井〉

 繊維商社の増井(大阪市中央区)は、パイル糸向けに新開発したコンパクトカード綿糸(20単)を今治タオル産地へ本格販売する。コンパクト紡績により毛羽を軽減し、洗濯時に起こる毛羽落ちを抑えた、リーズナブルな新タオル専用糸として打ち出す。

 糸切れが少ないため製織性が向上し、生産効率を落とすことがない糸物性を持ち、今治タオルに必要な特徴の一つとされる、ソフト性もある。

 生産はインドネシア。独自設計によるタオル専用糸として開発した。今治タオル産地向けに備蓄販売し「同産地の主要サプライヤーとして重責を担う」と意気込む。コンパクトカード綿糸だけでなく、通常のカード綿糸(20単)もそろえており、産地の糸需要にきめ細かく対応する。

 さらに上質な風合いを持つウズベキスタン綿糸「サマルカンダリア」もリーズナブルな価格で今治タオル産地に本格投入する。サマルカンダリアは同社独自の綿糸で、長綿の特徴を生かしたソフトな風合いと高い白度が特徴だ。

 昨年3月にウズベキスタンでの児童労働問題が解消され、タオル、アパレル各用途で引き合いが強まる。国際認証「GOTS」を取得した「サマルカンダリア・オーガニック」も含めて今治産地で備蓄し、即納体制も整える。

 同社は昨年9月、現地の子供たちが日本語と日本文化を無料で学べる「サマルカンダリア・ジャパンアカデミー」を開設、同国の教育支援にも取り組む。今治タオル産地とウズベキスタンとのつながりも深めたい考えで「両地域の発展に貢献していきたい」とする。

〈素材特製生かし提案/紡績業のタオル〉

 紡績業による付加価値の高いタオルの企画、販売が続いている。

 KBツヅキは2023年9月に新タオルブランド「マモルネ」を発表した。自社ネット通販サイト「ツヅキコットンラボ」で販売している。

 柔らかな手触りや吸水性に加え、抗菌機能を付与した清潔さを付加価値とする。

 機能加工薬剤を繊維に固定するバインダーを少なくする一方で、高い耐洗濯性を持ち、清潔さを長期間維持できる。

 綿花は乾燥や圧迫などで運搬中に傷むケースも多いが、マモルネは時間をかけて水分を含ませてから紡績した糸を用いるなど丁寧な生産背景も強調している。

 シキボウは11月に厳選した綿100%を使った連続シルケット加工糸「FISCO」(フィスコ)で織ったタオル「SENREI」を米国のクラウドファンディングサイト「キックスターター」に出品した。

 フィスコはグループ企業のシキボウ江南(愛知県江南市)が国内で唯一生産する糸で、発色の良さとタオルに適した高吸水性などが特徴になる。

 いずれも素材や加工に関するノウハウを生かしたタオルとして強調、タオルだけでなく糸・素材の拡販、知名度向上も見込んだ提案とみられる。