別冊ユニフォーム春夏24(3)/素材が変えるユニフォームの未来/クラボウ/シキボウ/東洋紡せんい/ユニチカトレーディング/日清紡テキスタイル

2024年01月12日 (金曜日)

クラボウ 繊維事業部ユニフォーム部長兼東京ユニフォーム部長 絹本 良和 氏

シキボウ 繊維部門繊維営業部 ユニフォーム課長 川口 雄司 氏

東洋紡せんい 営業本部 ユニフォーム事業部長 山本 慎太郎 氏

日清紡テキスタイル テキスタイル事業部長 米本 克彦 氏

ユニチカトレーディング ユニフォーム営業部長 原 隆浩 氏

 新型コロナウイルス禍の影響による生産・物流の混乱、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に端を発した原燃料高、円安の加速などによって急激に生産コストが上昇、ここ数年であらゆるものが未曽有の値上げに追われた。ユニフォーム業界もその例外ではない。多様化でユニフォームに求められる価値も変化しつつある中、素材メーカーがこれからのユニフォーム業界に果たすべき役割は何なのか。有力素材メーカー5社の担当者に集まっていただき、現状と今後について語ってもらった。(文中敬称略)

〈多様化で65・35が変わる〉

――ここ数年でユニフォーム業界は大きく変わりました。18年にワークマンが新業態「ワークマンプラス」を出店し、カジュアルやアウトドア用途としてのワークウエアが注目されました。素材メーカーから見られてどのように感じていますか。

 原 カジュアル化によって非常に商品が多様化してきたように感じます。洗い加工を施し素材に変化を付けたり、セットアップで上下のデザインを変えるといった、これまでの“ザ・ユニフォーム”のようなデザインからすごく自由になりました。

 絹本 ショップ向けのワークウエアを中心に、カジュアル化の波が来ていることは間違いありません。しかし、大手建設業などでは、いまだにカチッとしたユニフォームを着用していますし、全体としてはそう大きく変わっていないと認識しています。ただ、ワークマンさんによって、“これがワークウエアだ”という認識が世間に注目された功績は非常に大きい。

 これまで誰も見向きもしなかったユニフォーム向けのEC(ポリエステル・綿混)素材に対する認識も少し変わってきたように感じます。

 米本 バートルさんのような勢いのあるメーカーが登場し、生地のテイストが変わってきました。綿紡績が主体としていた65・35(ポリエステル65%・綿35%)から、少しポリエステル化が進んでいる流れを感じます。

 絹本 確かに当社もポリエステル80%・綿20%という素材が増えました。

 米本 とりあえず65・35で何とかなるというイメージがありましたが、今はそういうことはなくなった(笑)。

 山本 私がカジュアルを担当していた当時、ユニフォームでは65・35の生地ばかり作っている割には、在庫もしっかり回転していてうらやましいと感じたこともあります。確かに素材が多様化していることは間違いありません。新しい提案をもっとしていかなくてはと思う半面、大きく変わってしまうと怖い部分もある。

 川口 いわゆる短繊維のゴリゴリの“ド・ワーキング”の素材がだんだん減り、ポリエステル高混率が増えてきました。夏物ではポロシャツ向けにニット素材も増えています。企業の価値を高める、働く人の意識改革を促す、従業員や新入社員を呼び込むツールといったユニフォームの役割が高まっているように思います。

〈価格改定 反省すべき点も〉

――ここ数年、価格改定が続きました。度重なる値上げは業界をどのように変えたでしょうか。

 川口 価格改定を何回かさせていただきました。23年に入ってからはアパレルさんからの拒否反応が以前ほど少なくなったと感じています。コストアップの事情を皆さんよく分かっておられるのだと思います。思い描く着地点にたどり着くかどうかは別ですが、以前だったらほんの数%しか値上げしてもらえませんでしたから。素材だけでなく製品価格も上げていかなければ、アパレルさんも成長していけない。今回の値上げが決してウィンウィンの関係とは言わないですが、ある程度業界の価格全体の底上げに役立ったのではないでしょうか。

 絹本 素材メーカーとして本当に反省しなければいけないのが、結局この30年ぐらい価格を上げてこられなかった。もっと言うと高く買ってもらう素材を開発して供給できていなかった。

 ただ変化もあり、例えばTSデザインさんのように他社と違った商品を出して、素材に価値を持たせる売り方をされるメーカーさんも増えています。その辺はちょっとした変化だと思います。

 山本 価格改定によって、アパレルさんが今まで販売してきた商品に割高感が出てきており、商品の入れ替わりが加速する可能性があります。基本的に定番商品は若干のマイナーチェンジをしながらも息の長い商品として続くのが理想で、その方が供給するわれわれにとってもありがたい。でも急激な値上げによる影響はこの先とても大きいと感じています。

 米本 皆さんが言われたようにこの数十年間、われわれも努力を怠ってきたところがあったように思います。円高のときに自然と値下げしていくことに抵抗がないというか、逆にわれわれ素材メーカーが促進してしまったのではないかとも思うんです。円安が加速し原燃料も上がり、逆にデフレから大きく変わろうとする中でちょっとこのタイミングは急激すぎる。しかし、それはそれで受け止めながら新しい商品をやっていかないとダメだろうなと感じます。

 また、価格だけがこの業界では先に決まっているところもある。激しい変化の中ではその状況に即した価格の決め方というのも考えていく必要があります。

 原 今まである程度量が見込める定番商品によって自家工場の稼働が維持できましたが、それが過当競争につながってきたのではないかとも感じています。最終ユーザーまで価格が転嫁できているかと言えば、まだまだ道半ばではないでしょうか。先日、作業服店を見に行きました。もっと商品ごとに違う価格帯になっているのかと思っていましたが、その変化が意外と少ない。転嫁が進んでいれば価格帯のばらつきがもっと出ていてもおかしくないはずです。

〈業界のステータス上げる〉

――今年も価格改定が続くのでしょうか。日清紡テキスタイルでは今年1月出荷分から10%の値上げを実施しています。

 米本 現在進行形で値上げを進めている部分で片が付けば、その先のことは正直分かりません。1㌦150円前提で交渉している(昨年12月初旬)ので、このまま値上げが通れば現状は変わりません。この1、2年で何回か改定しましたが、今が一番大きな値上げ幅になっています。

――為替以外で電気代、物流の24年問題もあり、コストアップの要因は続くとみられます。今春値上げするか迷っているアパレルメーカーも少なくありません。

 山本 改定を進める間にも原燃料をはじめ、さまざまなコストが上がっていっています。そういう意味で上げきれていない部分があります。これは当社のみならず、取引先も含め、繊維業界全てに当てはまります。

 原 賃上げを繊維業界だけがしないというわけにはいきません。われわれも苦しいながらベースアップをしていく必要があります。物流費の問題も大きく、値上げは23年までに終了とは言えない状況になりつつあります。

 絹本 今年も上げざるを得ないというのが現状だと思います。昨年の3回目の値上げの時よりも円安になっている点と、やはり人件費ですよね。他の産業に比べ繊維産業は人件費が安く、ここを逃げてしまうとどうしようもない。事業を継続していく以上、アパレルさんにはご理解していただくしかありません。

 米本 事業継続というか、この業界のステータスをもっと上げる、新しい人間を呼び込み継続できる事業、将来的に発展できる事業にしていくためにはある程度、利益は必要だと思います。値上げが進まなければ、ユニフォーム業界だけでなく、繊維業界そのものが行き詰っていく可能性があります。

 川口 利益が出ないと、新しく入ってきた若い人たちにも夢がありません。

 米本 業界のステータスを上げていきたい。そうすれば新しいものも生まれてくるはずです。

 川口 価格改定というより、新しい商品を出し続けることも一つのポイントだと思います。

〈環境配慮にプラスαの提案〉

――素材メーカーとして新しい商品開発が業界活性化の鍵を握ります。環境配慮型素材はその切り口の一つになります。

 川口 趣味嗜好(しこう)が多様化してきた中、企業の中でも差別化をしていく流れが強まっています。ユニフォームが差別化につながるか分からないですが、変化せざるを得ない。

 その中で環境配慮型素材は一つの選択肢となっていますが、アパレル各社によって環境への考え方が違っています。ニーズに応えるため、われわれなりの解釈とエッセンスを付けて販促することで増えていく可能性があります。今は何をやれば正解というものがない。工場の生産工程も含めて環境配慮を考えていく必要があります。

 絹本 社会課題解決型のビジネスの一環として、環境配慮もしっかりやっていかなければいけません。ただ、難燃や腰痛予防、暑熱対策、健康管理といった、ユーザーが求める社会課題解決型のビジネスも同時進行で展開していかなければならず、どれか一つだけになってしまうと、ビジネスは成り立ちません。

 山本 絹本さんが言われたように確かに環境配慮だけで採用が広がるわけではない。新たな機能素材に加え、プラスαで環境配慮といった商品展開から進めていく必要があると思っています。

 原 環境配慮へのコスト負担が認めてもらえず、結果的に浸透しないという実情もあります。今までワークウエアのブルゾンといえば、ポケットが六つも七つも付いて、無駄がいっぱいある。無駄な部分は排除し、環境配慮へのコストに回すというような取り組みもしていく必要があります。デザイン提案も変えていかないと、本当の意味で環境配慮への意識が浸透せず、いつまでもコストが吸収できない。環境に配慮しつつも、無駄な部分をどう削ぐか、今はその狭間にあると感じています。

 米本 当社の親会社、日清紡ホールディングスでは「環境・エネルギーカンパニー」を掲げており、環境配慮への取り組みを進めていくことを使命としています。今後、環境配慮は必須になります。原料、生産工程、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の三つが重なった中で、さまざまな取り組みを進めています。

〈サプライチェーンを改めて俯瞰〉

――素材メーカーが果たすべきユニフォーム業界の活性化策はいかがでしょうか。

 山本 まず一番は活性化策というよりも課題解決型で取り組む必要があるのではないでしょうか。やはり人材不足の問題が大きい。全ての業界で同じですが、特に繊維業界は激しい。協力していただいている織布工場や染工場など国内の生産キャパシティーが縮小していっています。これだけの円安でも国内生産がシュリンクしているのは、明らかに人材不足が影響しています。ここで人材を入れて活性化していくことが必要だと思います。そうじゃないと新しい考えも出てこないですし、新しい素材も出てこない。

 国内生産のキャパシティー縮小は、この先も続くのではないでしょうか。それを踏まえた上で、供給体制をどう整えていくか、海外も含めて考えていかなければいけません。

 原 ユニフォーム業界は各素材メーカーで、きちんとしたモノ作りをしていると思います。黄金比率の65・35だって、理屈がきちんとあって、ユーザーにとっても良い素材だと思います。今の消費者目線に合わせて、しっかりとした素材の説明をしていくことも大事だと思います。そのため、高度機能評価に強みを持つユニチカガーメンテック(大阪府貝塚市)と一緒に実証実験しながら、いろいろな発信を検討しています。新商品を出した時に、訴え方を変えていければ。

 川口 価格対応から脱却していかなければいけません。われわれは工場を抱えており、稼働を考えると、数量の魅力といった負のスパイラルからなかなか出られない。しかし、そういった目の前の餌につられることなくやっていくしかない。付加価値を高め、価格帯が高くても欲しくなるような商品を作り続けていくことがわれわれの使命です。価値、価格に見合った商品の提供が今後ユニフォーム業界に新しい風を吹かすことにつながると思います。

――シキボウでは昨年10月にブランド戦略プロジェクトを立ち上げました。川口さんはそのメンバーの一人です。

 川口 21年から提携するファッションブランド「アンリアレイジ」との連携を通じて企業価値やブランド価値を高めていくのが狙いです。著名デザイナーとミーティングの機会を持つことで、従来のビジネスのやり方とは違う切り口によるアプローチや、新たなユーザーとの接点ができる可能性も高まります。ユニフォームでは別注案件などで商談が進んでいます。

 米本 ユニフォームは企業にとって基本的にCI(コーポレート・アイデンティティー)戦略の一つであり、ビジュアルアイディンティーの象徴的な一つだと思うんですよね。ユニフォームがなくなるというのは日本人としてあまり考えられない。CIに沿った商品開発によって生地のブランディングも追求するとともに、ステータスを上げていくことで、活性化すべき業界だと思っています。

 絹本 日本の素材メーカーとして見直さなければいけないのは、QRだと思っています。一昨年はコロナ禍の影響で、発注して1年後にしか供給できないといった話も聞かれ、そんなことをしていればこの先日本のメーカーに発注しなくなるのではないかという危機感を覚えました。

 素材メーカーが単独でビジネスを広げていこうとする時代も終わりつつあるかと思います。過去を振り返ると、1969年にアパレルと販売代理店10社とともに「クラボウ6070会」を結成して、鉄鋼業や造船業、自動車産業の各社へ納入を目指しました。73年には縫製、商社、販売代理店が参画する「ゼンロック会」というカラーワーキング衣料企画販売グループを結成しています。サプライチェーン全体を俯瞰(ふかん)したようなことを素材メーカーが主導してやってきた歴史もあります。川上の立場からそういった動きをしても良いのかもしれません。

 70年の大阪万博をきっかけにカラーワーキングブームが起こりました。来年には大阪・関西万博が開かれます。改めてエンドユーザーまで俯瞰した取り組みをやっていくことができれば、業界を変えていくこともできるかもしれません。

――ありがとうございました。

■クラボウ

 厚地を中心にワーキング向けの販売が多く、ストレッチ素材の「バンジーテック」が売れ筋。難燃素材「プロバン」や裁断片などを独自の開繊・反毛技術で再資源化する「ループラス」も展開を本格化する。サポーター一体型タイプのアシストスーツ「CBW」や、作業者の体調管理ウエアラブルシステム「スマートフィット・フォー・ワーク」の販売にも力を注ぐ。

■シキボウ

 ワーキングやオフィス、サービス、スクール向けの販売が多く、夏向けに校倉(あぜくら)造構造織り組織高通気生地「アゼック」が売れ筋。セグメント内外での垂直・水平連携の強化を進めており、グループの新内外綿とはアップサイクルシステム「彩生」などで、ユニチカトレーディングとは両社が得意とする素材や加工の開発などでさまざまな連携が進む。

■東洋紡せんい

 白衣・サービス向けと、ワーキング向けの販売がほぼ半分ずつとなっている。高機能ニットシャツ地「Zシャツ」「Eシャツ」や、ニットのストレッチ性はそのままに織物に近い物性、風合いを実現した「コンフォネックス」などが売れ筋。自社グループ内の縫製工場で発生する端材をマテリアルリサイクルする「T2T」をはじめ、環境配慮型素材の拡大にも取り組む。

■日清紡テキスタイル

 ワーキング向け販売が半分以上を占める。2022年に開発した高通気とストレッチ性を兼ね備えた「エアリーウェーブ」がワーキングや白衣などさまざまな用途へ広がる。生産の主力となるインドネシアの工場では「エコテックス・ステップ」「SA8000」といった国際認証を取得し、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った提案もでき、環境と快適をキーワードにニーズを捉える。

■ユニチカトレーディング

 販売ではワーキング・企業納入向けが半分で、残りがサービス・白衣、スクールなど。2層構造糸「パルパー」がロングセラー商品で、最近ではシキボウの高通気生地「アゼック」と組み合わせた生地提案も進む。スポーツ分野で認知度がある吸放湿素材「ハイグラ」や、遮熱クーリング効果やUVカット性に優れる「こかげマックス」なども売れ筋になりつつある。