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2024胎動するポストコロナ市場/アパレルトップインタビュー(4)/三陽商会 社長 大江 伸治 氏/若い富裕層市場に参入

2024年01月15日 (月曜日)

――業績が好調だ。今期(2024年2月期)の見通しは。

 事業構造改革(品番数の絞り込みや在庫圧縮など)を軸とした「再生プラン」の成果を踏まえ、今期の施策を進めた。昨年5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に移行し、市況はコロナ禍前の状況にほぼ戻っている。上半期(23年3~8月期)の業績が好調で、売上高と全ての利益段階で計画を上回った。営業利益については当初計画の約2倍となっている。

 事業構造改革を継続したことで、全てのKPI(業績の評価指標)が改善した。今期はさらに売上高を拡大し、収益も確保する、それに伴って成長軌道に乗せる。入国制限の緩和で、インバウンド売上高も伸びた。上半期は全体売り上げの4・6%がインバウンド客で占められている。

――商品開発については。

 当社の商品力が上がっている。ここが最大の好調要因だ。インベントリーコントロール(在庫管理)を通じ、商品の集約を進めた。商品一点一点に対する磨き上げが進んで、商品レベルが向上している。結果として上半期の平均単価が12%上昇した。円安や原材料の高騰など調達コストを吸収し、価格転嫁ができた。地道にブラッシュアップした成果だ。プロパー販売比率も上がっている。

――ブランド横断型で取り組む「商品開発委員会」も業績に寄与してきた。

 商品開発委員会が打ち出す商材は22秋冬シーズンから投入し、消化率を見ても明らかに向上している。23春夏も売り上げに貢献した。軽量で透湿性に優れた機能素材「パーテックス」を「マッキントッシュ・ロンドン」など7ブランドで採用し、良く売れた。ヒット商品が出ると、いい意味で競争意識が生まれる。他ブランドのヒット商品を見て「うちも出すぞ」という発想になる。開発が進捗(しんちょく)すると情報共有ができるし、刺激も受ける。(同委員会が見守る中で)安易なこともできないから、緊張感もある。

――基幹ブランドも良い。

 七つの基幹ブランドは上半期で営業黒字化を達成したが、この7本の柱を太くする。各基幹ブランドが100億円規模に近づいてきた。するとトータル700億円になる。新ブランドで新規開拓するよりもベースの売り上げを確保しさらに基盤を強くする。

――富裕層向けの商品については。

 若い富裕層が増えている。伊勢丹新宿本店など都心部の百貨店に行くと、若い消費者が高価格帯の商品を購入している。ニューリッチと呼ばれる若年層が富裕層のマーケットに入ってきた。安くて質の良いモノを求める人もいるが、今は高級志向が強まっている。われわれも、この富裕層マーケットに参入する。コート専業ブランド「サンヨーコート」で20万円以上の品番を展開しているが、じわじわと動いている。昨年末には青森県の自社工場で生産するハイエンドな「青森ダウン」を発売した。こうした商品も増やす。

――自社の電子商取引(EC)を改装オープンした。

 自社ECは昨年、プラットフォームを統合してモール型のECにした。実店舗との連動も進み、結果的にEC比率が上がると読んでいる。連動という意味では、いったん整理をした百貨店へ再出店する。(百貨店は)攻めるべき販路だ。ただ中長期的に見て、百貨店以外の販路も増やす。直営店やEC、アウトレットとのバランスを重視する。