産資・不織布通信Vol.9

2024年01月25日 (木曜日)

〈ダイハツ問題で減産/不織布既に発注止まる〉

 ダイハツ工業(ダイハツ)の不正問題が繊維業界に影を落としている。自動車に使用される繊維製品は幅広い。カーシートなどの内装材だけでなく、エンジン部品やバッテリーなど電気部品などにも使われている。自動車生産は半導体不足から回復していただけに、ダイハツの生産停止は冷や水を浴びせた形。繊維・不織布の関連企業の影響を探った。

《OEM含め64車種不正/12月から生産停止続く》

 ダイハツは2023年12月後半から自動車の出荷を停止、生産もストップした。12月20日に公表した第三者委員会の報告書では25項目の試験で174件の不正を確認。不正は同社ブランド車だけでなく、トヨタ自動車はじめOEM供給車を含めて64車種に及んだ。内訳は生産・開発中が44車種(国内28車種、海外16車種)、生産終了車種は20車種。

 報告書確認のための国交省立入検査の結果、国内販売車種で特に悪質な不正と判断された3車種は型式指定を取消。新たな不正行為も確認され、国交省は是正命令を出した。

 同社の自動車生産台数(マレーシア政府との共同出資会社、プロドゥアを含む)は23年1月~11月累計で国内外含め154万台強。月平均で約14万台で、マツダ(115万台)よりも多い。

 それだけにサプライチェーンを構成する企業への影響は大きい。繊維業界も同様で、幅広い用途で使われているため関連企業は影響を受けている。

《カーシートは1月維持/ティア1の意向反映か》

 ただ、織・編み物と不織布では様相が異なるようだ。サプライチェーンが短い不織布はすぐに影響が表れた。

 天井材やカーマット、トランクマットなどニードルパンチ不織布を手掛ける企業からは「既に発注が止まっており、生産に影響が出ている」との声が挙がる。電気部品に使われる不織布を製造するメーカーも同様だという。

 先行きについても不透明だ。「現在も生産再開に向けた話はなく、原料の調達のタイミングから考えても2月はもちろん、3月も戻る可能性は低い」と見通す企業もある。

 もちろん、ダイハツ問題が全体に与える影響が大きいわけではないが、半導体不足による減産から脱し、上向いていた自動車資材だけに再びマイナス要因が顕在化した形だ。

 一方で、カーシート地は様子が異なる。関連企業によると、ダイハツ問題の影響は出ていないと言う。

 「現段階ではダイハツ向けの発注は止まっていない。ティア1が無理を承知で作り込んでいるようだ。カーシートの縫製は海外が多く、いったん操業を止めると、海外では従業員が戻ってこない可能性があるからではないか」と分析する。ただ、ティア1も在庫が増えるだけのため「2月以降は発注が減り、ストップするかもしれない」と見通す。

《能登半島地震も懸念/共用材の生機生産で》

 ダイハツ問題に加えて新たな懸念材料もある。年初に発生した能登半島地震による影響だ。「今後、顕在化する可能性がある」と自動車内装材の関連企業は言う。特に内装材の共用材(裏基布)はトリコットなどが使われており、こうしたニッターが能登近隣に多く、被災していることから「各段階の在庫がなくなれば、内装材の生産に影響が出てくる」と懸念を示す。

〈不織布の達人/フタムラ化学/独自製法の環境不織布〉

 さまざまな企業が不織布を事業化する。フィルム、セロハンなど製造のフタムラ化学(名古屋市中村区)もその1社で、1979年に不織布の生産を開始した。

 それがセルロース100%不織布「太閤TCF」だ。繊維同士が自己融着するため、湿式セルローススパンボンド不織布とも呼ばれる。大垣工場(岐阜県大垣市)に月産200㌧の生産設備を持ち、フェースマスクなど化粧雑貨や制汗シートなどに採用されている。

 その同社が新たに開発したのが、環境配慮型不織布「ネイチャーレース」になる。

 「大垣法」と呼ぶ独自技術によりセルロース繊維を製造し、水流交絡で不織布化するスパンレース不織布で、繊維製造から不織布化まで一貫での生産体制(月産100㌧)を敷く点も面白い。

 世界で初めて開発した大垣法はカセイソーダや二硫化炭素を使用し、セルロース溶液を生産するレーヨン繊維とは異なり、イオン液体(高額なイオン液体は回収、再利用する)でパルプを溶解し製造したセルロース溶液を紡糸して繊維を製造する。排水、排ガスも少ない。

 不織布化したものはセルロース繊維製不織布に比べて①吸水速度が早い②保水性が高い③柔らかい④透明性が高い――などの特徴に加え、生分解性があり、独自製法により環境負荷が少ない。

 「エコテックス・スタンダード100クラス1」認証、「バイオマスマーク」、生分解性認証「TUVオーストリア」も取得。プレーン、メッシュのほか、ワイパーなどに適するようにパターンを付与した「ネイチャーレースプラス」もそろえる。

 2023年から専用設備の試運転を始め、現在はロールでのサンプル出荷も行う。

 今後は用途開拓を進め、2~3年内のフル稼働を目指すが、価格は太閤TCFに比べて、1・5倍と高価格。フィルム営業本部セルロース営業部の長尾良民ILFグループリーダーは「付加価値が高く物性も合致し、環境配慮を重視する分野がターゲット」とし、国内外のフェースマスクやメーク落としなど化粧雑貨向けや包材、緩衝材などの開拓に取り組む。

 既に化粧雑貨のほか、脱プラや減プラを図る家電・電子機器メーカーが包材・緩衝材として関心を示していると言う。

〈トピックス〉

《台湾初開催 日系24社確定/ANEX2024》

 「ANEX2024」(アジア不織布産業総合展示会・会議)が5月22~24日、台湾・台北南港展示館1館で開催される。ANEXは世界トップクラスの不織布関連企業が集結する世界3大不織布展の一つ。これまで3年に1度、日本、中国、韓国では開催したが、台湾開催は初めて。アジア不織布協会(ANFA)と台湾区不織布工業同業公会(TNFIA)が共催する。

 今回展は展示面積8千平方メートル。出展者350社、来場者2万5千人を見込む。メインテーマは「持続可能性とイノベーション」。ANFAの事務局も務める日本からは、ANNA(日本不織布協会)パビリオンの22社と単独ブース2社の出展が確定している。その他、台湾52社、中国112社、香港12社、韓国6社、マレーシア1社、タイ1社、インド2社、欧州15社の計225社の出展が決まっている。

《PLASBをヨネックス採用/エム・エーライフマテリアルズ》

 三井化学と旭化成の不織布合弁会社、エム・エーライフマテリアルズのポリ乳酸(PLA)スパンボンド不織布(SB)「エコライズ」が、スポーツ用品メーカー、ヨネックスのテニスラケット用包装材に採用された。2024年2月から全世界で順次発売されるテニスラケットに使用される。

 ヨネックスは、サステイナビリティーの取り組みとして環境配慮のモノ作りを推進。商品の輸送時や品質保護への影響を検証しながら包装削減への取り組みを進めている。

 今回、これまでのテニスラケット付属のナイロン製ソフトケースを廃止し、エコライズ製包装材を導入した。ロゴ印字はエンボス加工、製袋には超音波ウェルダー加工を採用し、顔料や接着剤を使用せず、その他の環境負荷にも配慮した。

 エコライズは特定条件下での生分解・堆肥化が可能で、米BPIやベルギーTUV AUSTRIA、日本JBPAなど国内外の認証を取得している。

《再生ポリの新中わた/フロイデンベルグ》

 ドイツのフロイデンベルグ・パフォーマンス・マテリアルズは、低濃度BPA(ビスフェノールA)再生ポリエステル繊維使いの中わた「WA150LB」と粒わた「WB400LB」を開発した。中わたブランドの「コンフォーテンプ」にラインアップし、全世界で発売した。

 両製品とも「GRS」認証、「エコテックス100クラス1」認証を取得。BPAの含有量は1ppm未満(エコテックス100クラス1の基準は100ppm未満)。

 同社は両製品に加え、「コンフォーテンプ」ヨーロピアンシリーズに「HO80xR」も加えた。漁網、カーペット、工業用プラスチックなどの廃棄物から再生されたナイロン6を70%使用した保温材で、欧州で販売する。