液アン加工/形態安定以外に生かせ!

2002年04月26日 (金曜日)

意外に知られていないが、日本は、液体アンモニア(以下「液アン」)による綿生地の処理能力で、全世界の過半のシェアを握っている。稼働しているかどうか不明の分も含めると、全世界に設置されている液アン加工機は16台。その半分以上、9台が日本にある。近隣諸国にはまねのできないモノ作りを志向している製品一次卸にとって、この事実は、課題を解くカギの一つになり得るのではないか。

日本のシェア、世界の過半/綿生地の液アン処理能力

 液体アンモニアの表面張力や粘度は、水より低い。だから、それに浸された綿繊維は、瞬時に膨潤し、円形になって、ねじれもなくなる。その結果、(1)縮みにくくなる(2)しわになりにくくなる(3)反発性が増す(4)やわらかくなる(5)強くなる。加工の前段階でこの処理を施しておくと、綿には不可能とされていた様々な後加工が可能になる。

代表的な例が、ノー・アイロン性(洗濯後のアイロン掛けを不要とする防シワ性)の付与。ノー・アイロン性付与の一般的な方法は樹脂加工だが、綿繊維を弱く、かつ硬くしてしまう欠点がある。しかし、樹脂加工の前に、液アン処理で綿の強力を高め、かつ柔らかくしておけば、その欠点を相殺できる。綿100%製の“形態安定加工”シャツの多くには、このような技法で作られた生地が用いられている。これは液アン処理が可能にする売り文句の一端でしかない。

日本にある9台の液アン加工機のうち、5台を日清紡が保有、東洋紡、シキボウ、クラボウがそれぞれ1台を持つ。

ノー・アイロン性の付与以外での液アン設備の生かし方は、近隣諸国にはまねのできないモノ作りを志向している製品一次卸にとっては、重要なポイントになる

日本以外の国の液アン加工機を設置年度の早い順にいうと、ノルウェー(テデコ社)、米国(ダンリバー社)、ドイツ(マルティーニ社)、中国(上海第二印染廠)、ベルギー(ベラムテックス社)、タイ(SSDC社)の各1台となる。ほとんどが先進国にあり、近隣諸国では中国とタイにあるだけ。しかも、上海第二印染廠では「ほとんど稼働していないのでは」と紡績筋の多くが指摘する。しかし、液アン製品が近隣諸国との競合にさらされる可能性がないわけではない。

海外には7台の液アン加工機があるが、前述したのはそのうち6台まで。残る1台は昨年12月、中国に据えられた。導入したのは、先染め織物製造世界最大手の魯泰(ルータイ)紡織。西脇産地の生産規模のほぼ半分に匹敵するとされる月間500万ヤードの生産能力を誇る。同社は当面、液アン加工機を欧州向け生地の生産に充てると見られるが、当然ながら日本向けも視野に入っているだろう。

ルータイが、液アン加工機を導入した目的は、前述のノー・アイロン性の付与にあると見られる。ノー・アイロンを売り物にした商品については、日本の液アン加工陣営も、まずはルータイとの、そしてそれに続くであろう近隣諸国企業との競合に巻き込まれる可能性がある。とすれば、製品一次卸が注目すべきは、その他の活用だろう。

東洋紡は、液アン加工機を、ドレスシャツ地などの薄地だけでなく、60双、40双糸使いの中肉生地の処理にも利用している。婦人用の純綿黒礼服という新市場を開拓した「新木綿・ハイアンス」も、液アン加工機の応用によって生まれた。シキボウも、液アン処理を組み合わせることで、これまで不可能とされていた様々な後加工を可能にすることに取り組んでいる。その結果として、シャツ地だけでなく、30単、20単などの中肉生地を処理する事例が増えている。日清紡でも同様だ。5台を保有するという強みを生かし、それぞれをシャツ用、デニム用、編地用などという格好で使い分け、生産効率の向上を狙うとともに、用途開拓を進めている。