インドネシアの日系繊維企業/汎用繊維からの脱却急ぐ/中国の苛烈な価格攻勢受け

2024年03月21日 (木曜日)

 インドネシアは、日系繊維企業が進出して半世紀近く、汎用的な糸や生地を生産する拠点だった。だが、最近では現地で高付加価値素材を作ることも珍しくなくなり、従来の日本向けとは別の新たな市場、取引先の開拓に力を入れる企業が増えている。その背景には中国企業の苛烈な価格攻勢がある。(橋本 学)

 今月、インドネシア法人を置く日系繊維企業に対して直近の商況や今後の方針について取材したところ、多くの企業が直近の状況を「厳しい」と評価し、これからの戦略として「素材のさらなる高付加価値化」「中東など日本以外の市場開拓」を挙げた。

 現地の日系繊維企業の決算期は3月か12月が多いが、業績の振り返りや見通しに関しても前期より悪化した、もしくは悪化するとの回答が多数を占める。その理由に共通するのが「売り上げに占める割合が多い、日本向け生地ビジネスが芳しくない」ということに加え、「中国の安い繊維素材との価格競争に苦しんだ」というものだ。「わた、糸、生地、縫製品、あらゆる形で中国品が安値でインドネシア市場に流入しており、価格攻勢を受けている」(東海染工グループのTTI)という声も聞かれる。「日系だけでなくローカル繊維企業も中国の価格攻勢に相当な苦戦を強いられている」(日系商社)という話もある。

 中国品が席巻するきっかけは2022年11月に、インドネシア政府が3年間継続した繊維へのセーフガード(緊急輸入制限)終了にあるが、それから1年以上経った今も状況は好転する気配がない。多くの企業が主力としてきた日本向けも活況とは言えない今、日系企業は中国企業との価格競争に陥らない高付加価値素材をインドネシアで開発し、新たな市場への提案に力を入れる。

 東レグループで現地で合繊糸・わたを製造するITSは「環境に配慮した合繊素材やインナー向けのストレッチ糸、快適素材などASEANの東レグループとの連携を強化して高付加価値素材の開発を加速する」方針だ。昨年、そのための複合糸フィラメント設備も増設した。

 直近1年以上、需要が旺盛な状況が続く、中東の民族衣装用生地や全く新たな市場で業容拡大を狙う動きもある。シキボウグループのメルテックスは日本向けユニフォーム用生地販売が主力の一つだが、今期(24年12月期)は「底堅い需要が今も続く中東や、これまで実績が少ないインドネシアでの売り先開拓、さらに資材用繊維でもシェアアップを目指す」。

 ユニチカトレーディングインドネシアは、現地の同じグループ企業の紡績工場、ユニテックスの機能糸などを強みに、現地で調達できる商材のバリエーションを増やす。「日本の技術部門と連携しながら現地での素材開発に力を入れ、より日本に提案できる生地の種類を増やし、現地需要、日本向けの両方で売り上げ拡大を図る」