特集 アジアの繊維産業(2)/生地商社/市場としてのベトナムに脚光/VIATT展に日本勢大挙

2024年03月21日 (木曜日)

 ASEANは日本の繊維企業にとって、長らく生産地だった。今もその構図は変わらないが、徐々に市場としての注目度が増している。インドネシアの一部やタイなどでは市場を狙う日本企業もおり、相応の成果も出ているが、主流とは言えない。中国が日本の繊維産業にとって既に大きな市場となり、内販や第三国向け拠点として日本の各企業が拡販に成功しているのとは対照的だ。

 このほどベトナム・ホーチミンのサイゴンエキシビション&コンベンションセンターで開かれた、繊維品の総合展「ベトナム国際アパレルファブリックス&繊維関連技術専門見本市」(VIATT展)には、ベトナム市場やASEAN市場、ベトナムやその周辺国を経由した欧米市場開拓などを狙う日本の商社やメーカーが多数出展した。

 現地法人含む日系企業の出展は、アパレルファブリック=コスモテキスタイル、北高、KIRARI、クラボウ、柴屋、シキボウ、双日ファッション、スタイレム瀧定大阪、サンウェル、瀧定名古屋、田村駒、豊島、植山テキスタイル、宇仁繊維。服飾資材=島田商事。ホームテキスタイル=キツタカ、東陽織物(ベトナム法人として)。テキスタイルテクノロジー=東京機械製作所(同)。ヤーン・ファイバー=村田機械――の計19社。初開催ということを考えると驚異的な出展者数と言える。

 同展出展の狙いは、「未開拓のアジア圏の新規開拓とベトナム経由欧米販売の拡大」(コスモテキスタイル)、「現地アパレルとベトナムを縫製拠点とする海外アパレルの開拓」(北高)、「ベトナム現地ブランドと周辺国の市場開拓が狙い」(瀧定名古屋)、「欧米、中国市場以外の可能性の模索」(柴屋)、「新規市場開拓」(島田商事)などが大半で、「市場調査、マーケティング」などをまずは目的とする日本企業もあった。

 来場者はブースによって差があった。島田商事が「日系の副資材は当社だけだったので来場者は想定以上に多く、注目の高さを感じた」と振り返れば、「出展費用の安さを考えるととても良い反応を得られた」(柴屋)、「100社以上と名刺交換できた」(クラボウ)、「日本品質の糸への反応の良さが印象的だった」(シキボウ)、「ユニフォーム、スポーツ系の来場者が多く、ファッション系との接点は少なかった」(コスモテキスタイル)、「初開催のわりには来場者が多かった」(サンウェル)など質・量の両面で満足な結果だったとする日本企業が多かった。一方、「客数だけで見ればかなり少なかった。他の海外展と比べるとプリント生地が目を引くアイテムになっていないのではないかと感じた」(北高)、「ブースの位置が悪かったのか、来場者は想定よりもかなり少なかった」(某出展者)という声もあった。

 欧米ブランドの中国回避が昨今のトレンドになっているが、「縫製企業に同行する欧米ブランドの来場が多く、欧米ブランドが素材も含めて生産地をASEANにシフトする姿勢を強く感じた」という声も上がっており、内販だけでなく、欧米など第三国向けの拠点としてもベトナムの可能性を感じさせる。

 同展は今回が初開催であり、まだ2回目以降の開催が確定しているわけではないが、「次も開催されるのであれば出たい」との声が多かった。今回のVIATT展の自社ブースの成果に関わらず、それほどベトナム市場への期待値は高い。

〈備蓄販売が鍵握る〉

 日本企業の打ち出しで目立ったのはやはり、備蓄機能(ストックサービス、スマートベンダー)だ。日本製生地への評価が全世界的に高いことはいまさら言うまでもない。

 しかし生産現場の人員不足、スペース不足を背景に納期の面で大きな障害を抱えるのが日本製生地の実態。この問題を解消するのが、多くの生地商社がVIATT展でも訴求した、備蓄機能だ。

 瀧定名古屋は備蓄機能の発信のため、ファイリングしたストックコレクション50枚つづりを7ケース準備して注目を集めた。反省点としては、大々的に備蓄機能をアピールする看板を用意しなかったこととする。

 北高も「小口からの加工、備蓄販売、日本製をアピール」し、サンウェルは「サンウェル本体、上海法人、タイ法人それぞれでの素材供給体制、備蓄機能を訴求」して好感触を得た。柴屋も、「日本品質とストックサービスを」、コスモテキスタイルも「カラーストックのサービス体制」を訴求した」。ある日本の出展者が「ベトナムでの生地ストックについての期待を大きく感じた」と話した通り、「作り過ぎない」という観点から小口供給と即納機能が求められる中、イタリアなど海外にはほとんど見られない日本の生地商社の販売機能が重宝されていきそうだ。

〈本格化はまだ先か〉

 各出展者のこれまでのベトナム市場向け生地販売の実績を見ると、ほとんどがゼロに等しい。

 現地法人を構えていた時期のあったサンウェルが「現地アパレルと継続取引あり」とするほかは、コスモテキスタイルが「ゼロ」、北高が「ほとんどなし」、柴屋が「ほんの数件」などだ。

 瀧定名古屋は2021年まで実績ゼロだったが、22年から現地アパレルの開拓に着手し、23年には急成長した。現地への生地販売という点では、今回のVIATT展の出展者に名を連ねている中では同社が一歩先を行く存在と言える。「市場として十分な魅力と商機があると判断しており、人・モノ・金を今後も継続して投入していく」とする。