特集 アジアの繊維産業(4)/インドネシア/付加価値素材で新たな市場へ/“地産地消”や輸出に商機

2024年03月21日 (木曜日)

 日系繊維企業におけるインドネシアの立ち位置が変化している。これまでは汎用素材を量産する国という捉え方が強かったが、年々上昇する製造コストや安価な中国製汎用素材の席巻により、いかに高付加価値品を現地で作って、新たな市場へと売るかが課題となっている。主力の日本市場が低迷する今、インドネシア内での“地産地消”“第三国”といった新たなマーケットを作ることも欠かせない。

〈現地経済は24年も安定へ〉

 インドネシア経済は2020年、新型コロナウイルス禍により1998年のアジア通貨危機以来、初めてGDPでマイナス成長となった。しかし、翌2021年にはプラスに転じ22、23年は5%台に回復、今年も同程度の成長が予想されている。

 ただ、現地経済の安定とは裏腹に、日系企業の繊維事業は難しい局面が続いている。今年2~3月にかけて、オンラインで複数の日系繊維企業に直近の状況を聞いたところ、日本市場向け、欧米市場向け、現地向けのいずれでも苦戦している実態が浮き彫りになった。ここ1年間ほどでインドネシア内に非常に安価な中国製の素材や縫製品が流通するようになっていることがその原因だ。

〈高付加価値を現地で作る〉

 中国品の流入でシェアを奪われる日系素材メーカーは多いが、その半面、好調、堅調な分野もある。その一つが中東民族衣装や宗教用衣装だ。インドネシア東レグループやシキボウグループのメルテックス、東洋紡インドネシアはこの分野での売り上げを順調に拡大させており、今年も堅調に推移する見通しを示す。

 日本向けユニフォーム地でのノウハウを生かして現地の企業用ユニフォーム素材市場への提案をこれから新たな成長の柱に育てようという企業も出てきた。東海染工グループでプリント加工を主力とするTTIは金融・交通関連の制服や企業用バティック、現地のスクールシャツで新たな商機を模索する。

 ある日系商社のトップは「汎用的な素材を作って日本向けで売るというビジネスだけで先行きが危うい。機能や品質で価値のあるものを作って、現地で売るとか第三国に輸出するとか新たな伸び代を作ることが重要」と指摘する。

〈東洋紡グループ/強み生かし利益率アップ〉

 東洋紡グループは生地や縫製品の販売・事業統括の東洋紡インドネシア(TID)、編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリング・インドネシア(TMI)、縫製工場のシンコウ・トウヨウボウ・ガーメント(STG)の3社で構成する。

 今期に引き続き、来期も営業利益を重視した事業活動がテーマになる。東洋紡グループならではの生地を強みにグループ内で縫製までするという一貫したサプライチェーンを売り込む。ニット地ではインドネシア内販で取引先を増やしており、今後も新たな成長領域とみる。

 高付加価値素材の生産力増強や生産効率アップにも取り組む。グループのTMIが23年7月にシャツ地などの需要増を見込んでシルケット加工機1台を入れ替えた。同年11月にはSTGで裁断機1台を更新、これにより安全性や作業効率が上がった。来期は工場でのレイアウトや導線の見直しも行う予定。人的なミス、B反削減などにも力を入れ利益率を高める。

 樹脂、繊維に次ぐ“第3の柱”を作ることも課題だ。インドネシア東洋紡グループ3社の社長を兼任する松村修氏は「インフラ関連施設に向けた新たなビジネスで商機を探っている」と述べ、「樹脂、繊維の両方が厳しくても成長できる分野を早々に確立したい」と話す。

〈日清紡グループ/安心や環境、付加価値に〉

 日清紡グループはインドネシアに、紡績・織布を行うニカワテキスタイル、染色加工の日清紡インドネシア、縫製工場のナイガイシャツインドネシアの3拠点を展開。糸から縫製品まで一貫生産できることを強みに、生産工程と生産品の高付加価値化を進めている。

 2023年12月期業績は、シャツ向けの販売が好調に推移し、3社ともに計画通りとなったようだ。今期もシャツ関連は堅調く推移すると予想する。ワーキングウエア関連は受注の回復が遅れているが24年中旬の回復を想定する。

 近年、世界的に商品の安全性や安心感を求めるニーズが高まり、生産工程や商品による“環境”への貢献が強く求められるようになっている。こうした流れを受け、同社では綿花から製品に至るまでのトレーサビリティーの確保に力を入れる。環境分野では商品の環境性能を高めることに加え、製造方法そのものも環境負荷の少ないモノ作りを目指す。

 環境関連の直近の取り組みとしては、ニカワテキスタイルの石炭自家発電の停止を皮切りにインドネシア3社の電力地熱化など脱炭素社会の実現に向けた環境投資を実施しており、スコープ1でのカーボンフリーを進める方針。人権対応として日清紡インドネシア、ナイガイシャツインドネシアにおいて関連する国際認証「SA8000」を取得した。

〈多彩な生地で顧客増へ/UTID〉

 ユニチカトレーディングインドネシア(UTID、ジャカルタ)は、現地で調達できる生地のバリエーションを増やす。独自の高付加価値素材のサプライチェーンを構築し新たな売り先の開拓に弾みをつける。

 機能や着心地といった付加価値のある生地をインドネシアの協力工場から仕入れ、既存のカテゴリーにとらわれずに提案することで顧客と販売数量を増やす。1月にインドネシア人で繊維業界に明るい人材を取締役に入れた。現地工場のネットワークづくりや営業活動を加速させるために、現地の視点を生かす。

 UTIDは既に遮熱・クーリング機能、蓄熱保温機能、吸放湿ナイロンといった機能糸をユニチカグループで調達し、インドネシアで生地にしている。さらに同じグループ企業の紡績工場、ユニテックスとの連携も強めており、調達できる素材は年々増えている。現地の織り、編み、染色加工場でもより技術水準の高いパートナー候補となる工場のリストアップを進めており、これから生産できる素材の種類がさらに増える予定だ。

 調達可能な素材の多様化とレベルの高い工場とを組み合わせた独自のサプライチェーンを作ることで、日本向けでも通用する品質の生地をインドネシアで一貫して作れるようにする。

〈中東輸出と内販で攻める/メルテックス〉

 シキボウの在インドネシア紡織加工会社、メルテックス(東ジャワ州モジョケルト)は今期(2024年12月期)、中東への生地輸出やインドネシア国内での糸・生地の販売に力を入れる。

 同社はポリエステル・綿混の紡績糸と織物を主力とし、売上高の大半は、日本向けユニフォーム地と中東の民族衣装(トーブ)用生地で占められる。まだ売り上げの規模は小さいがインドネシア国内でのスクールシャツ用の素材販売やベトナムへの資材用糸の輸出ビジネスもある。

 中東は昨年に続き、民族衣装用の生地の需要があり、今後も受注の伸びを予想する。現地では長年、シキボウの生地が最高級ブランドの一つとして認知されており、この強みを生かしてさらに中東でのシェアを伸ばす。

 日本で流通するユニフォーム用途の織物販売は前期に続いて苦戦を見込む。近年のユニフォームアパレルの値上げにより、市況が停滞していることに加え、今は為替環境も逆風となっているため。

 一方、インドネシア国内の汎用的な糸の市場では、中華系やローカル紡績が価格競争力を強みに圧倒的なシェアを握っている。この市場に糸の品質の高さ、さまざまな国際認証を取得する工場の強みを背景に攻勢をかける。用途は衣料品に加え、安定的な発注が期待できる資材でも需要を探す。

〈東海染工のTTI/プリント地・縫製品輸出に力〉

 東海染工グループで生地プリントや加工を主力とするトーカイ・テクスプリント・インドネシア(西ジャワ州ブカシ、TTI)はプリント地の輸出やインドネシア縫製の衣料品輸出に力を入れる。

 既にアロハシャツ地で実績がある米国に加え、マレーシア、ベトナム、タイ、中国へもプリント地や縫製品で販路を探す。3月にインドネシアで開かれる繊維関連展示会「インド・インターテックス」に昨年に続き出展し取引先を開拓する。

 展示会では、綿をはじめ、さまざまな生地に高精度なプリント加工ができる技術力や納期対応の正確さを売り込む。同社は今も綿100%の薄地のプリント加工や無地染めが多いが、2020年以降に市場のニーズが多様化したことを受け、綿以外にポリエステルやレーヨンなどの加工にも対応できるように設備を更新した。

 プリント地の需要開拓の一環で、23年春からはインドネシア国内の企業に向けてオフィスユニフォームを柄から企画し、協力工場で縫製まで行う縫製品事業を始めている。この延長上で海外アパレルも対象にした衣料品OEMをスタートする。昨年から一年弱でインドネシア企業や日系企業のバティックシャツの発注があり、こうした実績を他国でも提案する。

〈蝶理インドネシア/分野ごとの変化に柔軟対応〉

 蝶理インドネシア(ジャカルタ)の繊維事業は生地販売、紙おむつなど衛材用途の繊維資材原料販売、衣料品の内販・輸出事業が主力だ。

 これまでの商況は、中東民族衣装向け生地の需要が堅調だが、フーシ派による政情不安の影響が徐々に出始めておりビジネスの不安材料となりつつある。インドネシア国内での衛材市況は高い出生率に支えられ、底堅い需要が続いており、同社の原料販売も順調に動く。

 一方、日本向けのユニフォーム地販売は荷動きが鈍い状況。インドネシア国内のポリエステル長・短繊維販売も安価な中国品が席巻していることもあり、厳しい立ち上がりとなっている。同社は今期(2024年12月期)の立ち上がりを「分野ごとに好調、不調が入り混じる展開だが、総じて無難な出だし」と評価する。

 今期の繊維事業は糸・わたビジネスの著しい不振もあり先行きを楽観視できない状況が続きそうだ。ただ、安定した経済成長が続くインドネシアでは最終製品の売れ行きそのものは悪くないという見方もあり、同社は「川上がダメなら、川下にシフトするなど、変化に柔軟に対応した経営判断が必要」としている。