不織布新書(1)/24年は値上げ必須/ニーズ変化に対応課題

2024年03月26日 (火曜日)

 日本の不織布産業が岐路に立たされている。2019年に減産に転じて以来前年割れが続いており、一昨年は30万トンの大台割れ、23年はさらに落ち込んだ。一方で、原燃料高や円安に伴う製造コストの上昇が続いており、価格転嫁を進めるものの、各社の収益は芳しくない。厳しい状況を打破するためには何が必要なのか。課題を探った。

〈生産と輸入が逆転か?〉

 経済産業省の生産動態統計によると、23年の不織布生産量は27万トン弱と前年比7・9%減となった。2・7%増のニードルパンチ不織布(NP)を除く全製法が前年割れで、最も規模が大きいスパンボンド不織布(SB)・メルトブロー不織布(MB)は17・5%減の6万4千トン強まで落ち込んだ。紙おむつ向けの低迷と新型コロナウイルス禍収束に伴うマスク需要の減退が背景にある。

 輸入も減少傾向にある。財務省通関統計によると、23年は3・2%減の24万6千トン強(長繊維は5・2%減の14万トン強。短繊維は0・1%減の10万トン強)となった。長繊維不織布では最も多いポリプロピレン製は5・6%減の12万トン強。ポリエステル製は4・4%減の1万2千トン強。短繊維不織布はレーヨン短繊維製が前年比12・3%増の5万7千トン強に伸びた。生産と輸入の減少は国内需要の落ち込みを表す。輸出を差し引いた国内供給量はピークの18年に比べ15・5%減の44万6千トン強に落ち込んでいる。

 23年は国内生産が27万トン弱、輸入が24万トン。この水準で推移すると、24年は輸入が生産を上回る可能性さえでてきた。

〈転嫁不十分で採算悪化〉

 国内需要が落ち込む中で、原燃料高により採算はさらに厳しい。価格転嫁を進めるが「原料上昇分もカバーし切れていない」「値上げで増収も数量が伸びておらず、採算は悪化している」と言う。

 原燃料に加え、人件費や物流費の上昇もあり、各社は価格転嫁に全力を挙げている。「これまでは弱腰だったかもしれないが、今回は引かず、やり遂げる」と強気の姿勢は多い。原燃料高もあり既に原料比率60%の不織布もあるといわれるだけに、24年は不織布関連企業の姿勢も変化しており、値上げは24年の必須課題になりそうだ。

〈設備更新と人材確保難〉

 需要の縮小やコスト上昇などもあり、三井化学と旭化成の不織布事業合弁など大手企業は業界再編の動きが活発化する。一方で中小企業はどうか。ある不織布メーカーは「設備更新と人手不足に対応できるかどうかが鍵を握る」と指摘する。

 不織布は老朽化設備も少なくなく、部品調達も難しくなっている。設備更新するにも欧州製は高価格で、中国製はノウハウを持たない企業は稼働が難しいとされる。それだけに「中小は設備更新できないため、縮小せざるを得ない」と言う。

 人手不足も大きい。「コロナ禍前までは4~5人は採用できたが、この3年はゼロ。今は応募もない」など既に大きな影響を与えている。不織布も中小企業が大半を占めるだけに、ワーカー不足で事業継続が難しくなる可能性もある。

 不織布にのしかかるさまざまな課題。これは衣料用繊維が歩んできた道でもある。これを打破できるかどうか。幸い、不織布には幅広い用途展開がある。しかも、各種用途で変化するニーズにも原料、製法、後加工を駆使し対応しやすい。同じ用途でも「従来品とは異なる規格が求められるが、それに対応したものは伸びており、価格も通る」(日本不織布協会の三木雅人会長)。そこに活路を見いだすしか今のところなさそうだ。

〈日本不織布協会 会長 三木 雅人 氏/ANEX成功に協力〉

  ――5月22~24日、アジア不織布産業総合展示会・会議「ANEX2024」が台湾で開催されます。

 台湾開催は初めてで、日本不織布協会(ANNA)が、ANNAパビリオンを設けるのも初めての試みです。同パビリオンは予定小間数も埋まりました。厳しい事業環境ながら出展いただく皆さんには感謝を申し上げたい。今回展は決して良いとは言えない状況下での開催となります。中国からの出展者や来場者も多くは見込めません。それだけにANNAとしては、できる限り協力して成功するように支援したいと考えています。

 新型コロナウイルス禍が収束し、展示会やカンファレンスが再開されていますが、コロナ禍以前には規模的にも内容的にも戻ってはいません。どのような展示会に出展し、来場すれば良いのかも判断が難しいですが、不織布業界全体の動きをつかめるANEXにしなければなりません。それが継続にもつながります。来場者が良かったと思えるように、カンファレンスも含めて豊富な情報を得られる、そして情報交換の場になるようにしたいですね。

  ――18年の東京開催が盛況だっただけに、どうしても比べてしまいます。

 当時に比べれば人の移動にも制約があります。不織布関連企業が今後どのような方向性に進めば良いのかがつかめる場として、今回展は問われることになるでしょう。主催である台湾区不織布工業同業公會もANEX開催に向けて会員企業を増やし、出展者を増やす努力をしました。

 中国進出が盛んだった台湾企業も、供給責任を果たすにはサプライチェーンを変更せざるを得なくなっています。そのための情報収集にはANEXは重要だと思います。日本企業も同様です。縮小傾向にある国内市場だけでなく、海外市場をどう開拓するのか。新たなサプライチェーンをどう構築するのか、そのヒントをつかめる場にANEXはなると考えています。

  ――日本では昨今、不織布の減産が続いています。

 既存分野が縮小しており、生産能力とのギャップが生まれています。日本企業は今後、どこに向かえばいいのかを考えねばならない時期でしょう。もちろん、全てが落ち込んでいるのではなく、伸びている分野もあります。そこに対する商品開発や海外を含めた市場開拓が重要です。それを見極める意味でもANEXが果たす役割は大きいと考えています。