不織布新書(4)/東レ/事業高度化が中経課題/22年度比15%増収目指す/不織布・人工皮革事業部門長 平井 正夫 氏

2024年03月26日 (火曜日)

 東レは2023年度(23年4月~24年3月)から3カ年の中期経営課題「プロジェクトAP―G2025」をスタートした。繊維事業では価値創出力強化による収益力向上、環境配慮型素材を活用した高感性・高機能商品による成長領域での事業拡大、競争力強化を成長戦略に掲げる。その一翼を担うのが、不織布・人工皮革事業部門だ。平井正夫不織布・人工皮革事業部門長に、中経の課題などについて話を聞いた。

〈不織布は高付加価値化/人工スエード海外拡大〉

  ――AP―G2025がスタートしました。不織布・人工皮革事業部門としての課題は何でしょうか。

 不織布事業はこれまで長・短繊維不織布総合メーカーを指向し、成果も上げてきました。その方向性を継続する一方で、事業の高度化を図ります。これまではどちらかと言えば、先に規模を求めてきたきらいがありましたが、高採算の高付加価値品で利益を追求するとともに、新用途、新事業の立ち上げにも重点を置きます。

 人工スエード「ウルトラスエード」事業は引き続きブランド戦略を推進し、高付加価値ビジネスをさらに強化します。ウルトラスエードも事業拡大に向けた体制整備を進めてきました。24年度後半には増設設備が稼働しますので、特に海外での拡大を図ります。技術力も高め、さらに高度化を図ります。

 不織布・人工皮革事業部門としてはこうした成長戦略を推進することで、25年度には22年度比で約15%の増収を目指します。

  ――中経初年度に当たる23年度の業績はいかがでしたか。

 上半期はウルトラスエードが健闘しました。主力の自動車内装材向けが好調でした。一方、不織布は、紙おむつ用ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)の需要減退を期初から想定したのですが、想定以上に厳しいものとなりました。ポリエステルSB「アクスター」も米国や中国の景気減速もあり、主力のフィルター向けが減速しました。PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維は中国の火力発電所用バグフィルター向けが中心ですので、同じく苦戦を強いられました。

  ――下半期以降に変化はありますか。

 ウルトラスエードは電気自動車(EV)向けが依然として好調ですが、EV市場での競合が激化し、当初見込んだよりは緩やかな伸びとなっています。不織布はSB、PPS繊維ともさらに商況が悪化するなど厳しい状態にあり、23年度は部門として当初計画に届かない見通しです。

〈不織布開発品で成果/湿式は24年度本格化〉

  ――そうした厳しい状況下ですが、中経で掲げた事業の高度化は進捗(しんちょく)しているのでしょうか。

 不織布については新しい開発品が成果を上げ始めています。その一つがポリエステルSB「アクスターPF」です。アクスターPFはSBの接着点(エンボス柄)をなくしたもので、凹凸がなくフラットな表面が特徴で、印刷性に優れており、質感を生かした商品ラベルなど、用途を拡大しています。

 ポリエステル100%製のためリサイクルしやすく、フィルム対比で樹脂量を減らすことができるなど環境対応も評価されています。通気量が低い特徴を生かして、特殊な屋上緑化材に採用されています。この屋上緑化材は特殊なファスナー方式によるコンパクトなもので、簡単に施工できるメリットがあります。

 PPS繊維とポリアクリロニトリル(PAN)系耐炎繊維との複合不織布「ガルフェン」も、先行する航空機用に加えて寝具用途や車両用途でも検討が進んでいます。ガルフェンを白色化させたり、絶縁性を付与したりして、新しいタイプのガルフェン開発も推進しています。

 さらに、PPS繊維やフッ素繊維のショートカットファイバーによる湿式不織布も24年度には本格化できる見通しです。当社はPPS繊維、フッ素繊維だけでなく、メタ系アラミド繊維、液晶ポリマー繊維などさまざまな高性能繊維を持っています。これらのショートカットファイバーを活用し、組み合わせも含めて高度化した湿式不織布の開発を進めます。そのための投資も行っています。

 今後、電池資材の需要増が見込まれます。そして電池は技術そのものも進化していくでしょう。そこに対応できる高度化した湿式不織布には可能性があります。

〈地産地消へサービス充実/中国では2次加工品も〉

  ――ウルトラスエードの進捗は。

 主力の自動車内装材に向けてさらなる高度化を進めていますが、自動車関連は地産地消も求められます。ウルトラスエードは「ジャパンクオリティ」としてきめ細やかなサービス体制を充実させ、地産地消に対応することが必要になります。中国市場に向けては東麗酒伊織染〈南通〉(TSD)でウルトラスエードの染色加工も行っています。さらに、ウレタン貼り合わせや成形などの2次加工もその一つです。サプライチェーンの延伸を行うことで、特に海外の需要家へのソリューション提案を強化します。

 原料や製造工程における環境負荷低減は一段と力を入れます。既に原料の70~80%は再生ポリエステル繊維や部分植物由来原料ポリエステル繊維を使用していますが、将来的には植物由来100%化を目指します。

 また、イタリアの子会社であるアルカンターラも自動車内装用途の比率が高く、海外での販売拡大においては、BCP対応を含めグループとしての戦略を整理する必要があると考えています。もちろん、2ブランド戦略は維持していきます。

  ――ウルトラスエードを採用するEVメーカーは競争が激しくなっています。

 EVメーカーは重要な顧客ですが、中国では価格競争が激しくなっています。24年度はEVの進化が問われる一年になるでしょう。そこで当社がどのような対応ができるかも課題です。

  ――規模が最も大きいポリプロピレンSBは中国で苦戦を強いられています。今後の戦略は。

 中国では出生率が低下している中で、紙おむつ用ポリプロピレンSBは供給過剰に陥っています。韓国子会社のトーレ・アドバンスド・マテリアルズ・コリア(TAK)を中心に、滋賀事業場(滋賀県大津市)に置く開発設備も活用しながら商品差別化を図っていますが、やはり市場に適した規模にする必要があり、リエンジニアリングによる生産規模の最適化に着手しています。滋賀事業場の開発設備については、今後は紙おむつ以外の資材用なども視野に入れて、生産設備としても、より積極的に活用します。