不織布新書(10)/東洋紡せんい/小津産業/旭化成アドバンス/ヤギ

2024年03月26日 (火曜日)

〈東洋紡せんい/高性能繊維で用途開拓/TB設備の特性生かす〉

 東洋紡せんいはサーマルボンド不織布(TB)で、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維など高性能繊維や高機能繊維使いで用途開拓に取り組む。富山事業所庄川工場(富山県射水市)に置くTB設備の熱カレンダーロールが200℃まで対応可能である特徴を生かす。

 同社のTBはアクリレート系繊維など機能繊維や耐熱繊維など高性能繊維を含めた各種繊維を使用できる。多品種小ロットに対応できるのも特徴だ。生産目付は1平方メートル当たり15~50グラムとTBでは比較的薄物が主体で、現状はエステル系熱融着繊維やPLA(ポリ乳酸)繊維などを活用した原反が多い。さらにフィルムやスパンボンド不織布、織物との複合や機能加工との組み合わせも容易で、複合品も開発している。不織布メーカーとの協業など受託生産も積極的に対応する。

 ハリコシなど同社製TBの剛性の高さが評価され、フィルター補強材が現在の主力用途だが、その他分野の開拓にも力を入れる。

 PPS繊維では耐熱性、耐薬品性、絶縁性などを生かし、工業用フィルターや絶縁性を活用したセパレーター分野の開拓に取り組む。

 吸湿性を持ち、アンモニア消臭機能もあるアクリレート系繊維「モイスファイン」や超吸水性繊維「ランシール」を活用した商品開発も進める。

 同社は4月1日付で組織再編し、技術開発部に新規事業開発グループを新設する。同グループがTBの新顧客、新用途の開拓を行う体制となる。

〈小津産業/10年見据え成長描く/来期から3年で土台作る〉

 小津産業は、長期的な観点での事業成長に向けてさまざまな布石を打つ。不織布は、主力であるエレクトロニクス分野の拡大に加え、食品とメディカル分野を柱に育成する。新分野への進出や海外市場の開拓にも注力する。来期(2025年5月期)から種をまき、数年後に刈り取りできるよう着実に育てる。

 同社は、今期で「小津グループ中期経営計画2024“リープ・イントゥ・ジ・イノベーション”」を終了する。最終年度における不織布の業績は、修正後の計画通りに推移するなど、一定の成果を収めている。特に食品分野は新規取引先を獲得し、順調な拡大を見せる。

 来期以降は、10年後を見据えた成長戦略を描く。「エレクトロニクス分野を伸ばすことがベースになるが、不織布以外の新商材の拡充も不可欠」との認識を示し、「エレクトロニクス分野の既存ルートを活用したニットなどの不織布以外のワイパー、クリーンルーム用ウエアや手袋の提案などを増やしたい」と話す。

 食品分野は、柔らかいタイプや硬いタイプなど、ワイパーに求められる特性や性能は顧客によって異なるとし、細かな要望に積極的に応じる。メディカル分野はウエット製品の拡大に注力する。「10年後の成長戦略の実現を目指し、来期からの3年は将来のための土台を作る」とした。

 新商品開発は継続的に取り組む方針で、使用期限が7年という長期保存用ウエットティッシュを商品化した。災害備蓄品として提案している。

〈旭化成アドバンス/独自商品の拡販注力/海外市場を積極開拓〉

 旭化成アドバンスの繊維資材事業部は、独自性のある商品を軸に海外市場の開拓に積極的に取り組む。新規用途・アイテムの開発・提案にも力を入れる。

 2023年度(24年3月期)は、値上げの効果もあって売上高が前年を上回るなど堅調に推移している。ただ、原燃料高騰などの影響で利益率が低下しており、利益面は前年度並みにとどまるもようだ。

 スパンボンド不織布(SB)は好調だったコーヒーフィルター向けの輸出が後半鈍化したが、ブラインドなど家具向けが後半から回復した。中国や韓国向けのフィルター、生活資材用途も堅調に推移した。

 耐炎化繊維「ラスタン」は織物の需要が旺盛だが、不織布は主力用途である鉄道車両や弱電製品の生産が低調なことで苦戦。自動車用途以外の販売を担当する人工スエード「ディナミカ」は家具やコンシューマーエレクトロニクス、服飾雑貨いずれの用途も好調が続く。

 こうした中、24年度も独自商品の拡販と海外子会社との連携による海外販売拡大に力を入れる。ラスタン不織布はタイやベトナムの子会社と連携して海外販売を強化し、SBはコーヒーフィルター用途で米国だけでなく欧州市場の開拓を進める。

 キュプラ繊維を使った環境配慮型油吸着材「B―スイーパー」と水面で使用できる「B―スイーパーアクア」も生分解性などを強みに販売拡大を目指す。キュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」はフェースマスク以外の用途開拓に取り組む。

〈ヤギ/資材向け提案強化/薄膜と立体構造化で〉

 ヤギは次世代事業の創出として近年力を入れる資材分野向けの提案を強めている。商材は、高い防水性と通気性を誇るナノファイバーメンブレン(薄膜)「ナノクセラ」と、高い排水性とクッション性を持つ3次元繊維構造体「エンカ」だ。

 ナノクセラは新型コロナウイルス禍での高機能マスクとして需要が急拡大、「エアクイーン」と称したマスクを累計200万枚超売った。現在は需要の急減に伴いマスク販売事業は他社に移譲、マスクがなくなった分、今期(2024年3月期)の販売数値も苦戦を強いられる。

 今後は分野を自動車、電子機器、スポーツに絞って展開する。このほど、高い通気性・防水性を持つナノクセラを生地と生地の間に挟んだ新たなナノメンブレンを開発。PFAS(パーフルオロアルキル化合物)フリーの新たな透湿防水素材としてスポーツ分野などでの採用を狙う。

 エンカは今のところ人工芝用排水材としての採用が主力。前期はコロナ禍で入札案件自体が減っていたため動きが鈍かったが、今期は上半期に3件の入札に参加できるなど好感触を得ている。全国的に土のグラウンドから人工芝に切り替える学校や公共施設、競技場が増えているのが背景。

 人工芝のマイナスポイントとして、クッション性を高めるために人工芝の上にまいてあるプラスチックチップが降雨時に浮き上がり、河川や海に流出してしまう問題が指摘されている。エンカが持つ高い排水性が、チップの浮き上がりと流出を抑えるとの評価が高まっているという。