繊維ニュース

合繊メーカー/“値上げの季節”に/人件費、物流費の転嫁不可避

2024年03月28日 (木曜日)

 合繊メーカー各社が糸・わた、生地、不織布などの値上げを相次いで打ち出している。原燃料価格の高止まりに加えて、人件費や物流費の上昇を価格転嫁することが不可避になった。背景にあるのが深刻な人手不足、行政による労働規制強化と価格転嫁に関する指導だ。繊維業界は“値上げの季節”を迎えている。(宇治光洋)

 東レは、衣料用と産業用のナイロン6長繊維、同短繊維、ナイロン66長繊維、同短繊維、BCFナイロン長繊維、ポリエステル長繊維、同短繊維、アクリル短繊維を4月出荷分から1キロ当たり5~10円値上げする。また、ポリエステルスパンボンド不織布(SB)、ポリプロプレンSB、人工皮革「ウルトラスエード」「エクセーヌ」も4月出荷分から値上げする。こちらの値上げ幅は現行価格から10~15%となる。

 東洋紡は4月出荷分からエアバッグ原糸・基布を現行価格から10~15%値上げする。機能材事業を担う東洋紡エムシーもポリエステルSBを4月出荷分から10~15%値上げする。

 ユニチカは既に2月出荷分からSBとスパンレース不織布を10~15%値上げした。

 今回の値上げは、原燃料価格の高止まりに加えて、人件費や物流費の大幅な上昇を転嫁する動きとなっているのが特徴。その要因の一つが“物流2024年問題”。4月1日からトラックドライバーの労働時間規制が強化される。このためドライバーの人件費が上昇し、物流コストが大幅に上昇することが確実となっている。このコストを価格転嫁する必要が生じる。

 人手不足による人件費上昇も大きな要因となる。現在、委託加工なども含めた取引事業者の多くが人員確保のために賃上げに動いており、これが各種調達費や用役コストの上昇につながっている。

 行政の価格転嫁に対する指導が強化されていることも見逃せない。公正取引委員会は昨年11月、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を発表した。指針では「発注者として採るべき行動/求められる行動」として①本社(経営トップ)の関与②発注者側からの定期的な協議の実施③説明・資料を求める場合は公表資料とすること④サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと⑤要望があれば協議のテーブルにつくこと⑥必要に応じて考え方を提案すること――が定められた。

 このため合繊メーカー各社とも物流費や各種用役コストの上昇を高レベルで受け入れることが事実上求められており、採算が悪化する。各社は自助努力によるコスト削減に取り組んでいるが、そのレベルを超えるコストアップとなることから、値上げに踏み切らざるを得ない。

 サプライチェーンの川上に位置する合繊メーカーが値上げに踏み切ったことで、今後は川下への価格転嫁がどれだけ進むかが焦点となる。ここでも公取委が指針に定める「サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと」の実行が求められる。