特集 尾州産地総合(2)/在名4商社 尾州との取り組み/タキヒヨー/瀧定名古屋/モリリン/豊島

2024年03月28日 (木曜日)

〈タキヒヨー/執行役員 素材開発/国内販売グループマネジャー 中嶋 正樹 氏/高付加価値商材の供給を〉

――尾州との現状の取り組みについて。

 国内企業向けにポリエステル・レーヨン混ボトム用生地やツイードなど、尾州の強みを生かした取り組みを継続しています。半面、海外向けでの協業は少ないでしょう。当社はウールを含め、品質や出自を担保する国際認証の取得を進めています。欧米を軸に海外向けへの販売・供給に役立つと考えます。

――尾州の強みをどの販路に生かすか。

 生産工程を分業しながら、少量多品種かつ確かな品質のモノ作りで差別化した商材を供給できるのが強みです。いかに独自色の強い生産経路を構築できるかが鍵です。大きな単位の商取引は考えにくいですが、新進気鋭のデザイナーズブランドやハイメゾン向けに商機はあると思います。

――一宮工場(愛知県一宮市)も活用する。

 2014年操業後、国内でも希少な英式梳毛紡績機やションヘル式織機を保有し、本物志向の商品作りに役立っています。生地や糸、セーターなど、一宮工場のモノ作りに共感してもらえる企業とのビジネスが増えています。今後もサステイナブルな原料や希少性の高い素材を生かしたモノ作りで、高付加価値商材の供給を続けていきます。

〈瀧定名古屋/マーケティング 戦略部部長 山原 大 氏/再生ウールで価値訴求〉

――尾州の魅力は。

 世界三大毛織物産地の一つですが、英国やイタリアにはない尾州の良さがあります。それは匠による職人技です。分業体制だからこそ培われたものであり、そうした高い技術が評価され、世界的なハイブランドにも採用されています。

――尾州の現況は。

 23秋冬向けはこれまで抑えていた分、各社がかなり仕込みましたが、暖冬の影響などで想定ほど売れませんでした。糸、生地、製品の流通在庫が膨らんでおり、今後は厳しくなるとみています。

――尾州との取り組みで力を入れていることは。

 廃棄衣料を再生したウール混の生地「リニュール」です。尾州にあった「リサイクル」という習慣を新たな価値として訴求しています。反毛や紡績、織布といった工程を尾州で手掛けています。

――輸出や国内ブランド向けにも尾州素材を打ち出している。

 輸出では尾州の生地をブランディングしたり、欧州の展示会などに出展したりしてPRしています。国内ブランドは当社が尾州との橋渡し役として機能しています。尾州の糸や生地の備蓄などをして、国内ブランドがスムーズに生産できる体制を敷いています。

〈豊島/一宮本店 一部部長 酒井 良将 氏/繁閑差是正に貢献〉

――尾州の現況をどのように捉えるか。

 官需やユニフォーム向けなどを手掛ける一部企業は堅調ですが、総じて厳しい状況にあると考えています。特に婦人向けは暖冬などの影響によって生地の在庫が膨らんでおり今年は苦戦を強いられそうです。

――尾州の課題は何だと考えている。

 やはり、生産工場での人材確保ではないでしょうか。現場の高齢化は年々進んでいますからね。そして、もう一つが繁閑差の是正です。毛織物を主力とする尾州は圧倒的に秋冬向けの比率が高いため、春夏向けシーズンになるとどうしても仕事が薄くなってしまう。そうした繁閑差を解消し、年間を通して安定的に工場が回るような仕組みづくりが重要だと考えています。

――それを踏まえた上で尾州での御社の役割は。

 一宮本店としては、これまでウールを中心とした糸売り一辺倒でしたが、その先まで幅を広げています。具体的には安定して回るような仕事を尾州の織布工場や染色整理工場にお願いして生地を作ってもらい、それを海外へ販売するという流れを構築しています。少しでも繁閑差の是正につながるお手伝いができればと考えています。

〈モリリン/ファイバーマテリアルグループ4部 原糸課 部長 林 伸太郎 氏/調達や生産経路構築支援〉

――尾州の現状と課題をどのように考えるか。

 糸の流通量はタイトで、工程を担う企業の廃業の知らせも聞こえてきます。独自色豊かな意匠の表現や高品質なモノ作りが尾州の特徴ですが、世代交代を含めた継続性に課題があり、強みが発揮しにくいという危機感を覚えます。

――産地に向けどのような役割を果たすか。

 製販をつなぐ商社として、協業先と出口を共有しながら素材の調達や生産経路の構築で力を発揮したいです。尾州への原糸販売や生地輸出でも、製販双方で情報を共有しながら、求められる形態での供給精度を高める必要があります。産地に育てられながら培った対応力や俊敏性を生かし、あらゆる需要に応えます。

――尾州産生地の輸出にも取り組む。

 中国向けが多く、素材や原料にこだわった高級感のある生地や、意匠性が高い生地のニーズが高いです。デザインや“見た目”を基準としたピックアップが多いですが、今後は欧米のように環境配慮型原料使用の、サステイナブルな側面を訴求できる商材へのニーズも高まるはずです。当社が扱う、他者と差別化した環境配慮型原料や素材特徴を生かした、新たな商材も開発していきます。