ジーンズ別冊(7)/三備賛歌1/デニム製造/開拓や投資で活路見いだす
2024年03月29日 (金曜日)
三備産地では昨年1年を通して比較的堅調な生産状況が続いていたが、昨年末あたりからその動きが鈍化してきたとの声も聞かれるようになってきた。先行きの見通しにくさが指摘される中、産地企業は海外開拓や設備投資などさまざまな施策を打ちながら活路を見いだす。
〈セルビッヂ好調もダブル幅苦戦〉
三備産地では昨年、比較的生産が堅調だったデニムメーカーが多かった。しかし、ここに来て受注が低調になってきたとの声が聞かれるようになってきた。菱友商事(広島県福山市)の花田充民社長は「昨年12月ごろから悪くなってきた。関係先は青息吐息だ」とし、「今年一年は悪い。その中でどのような客と組んでいくかが重要になってくる」と話す。
デニムの整理加工を手掛けるコトセン(岡山県倉敷市)の渡邉将史社長は「年末あたりからギアがガクッと落ちた感じ」と説明。篠原テキスタイル(福山市)の篠原由起社長は「先行きは見通しにくい状況」とするほか、ショーワ(倉敷市)の髙杉哲朗統括部長も「年末までは良かったが、今はあまり良くない」と話す。
生産品目では、シャトル織機で織るセルビッヂデニムの生産は活況だ。シャトル織機を保有するほとんどの織布工場でフル稼働の状況が続いている。シャトル織機による生産性の低さもあり、ある生地商は「セルビッヂデニムは今から注文しても半年以上はかかる状況」と打ち明ける。
一方、革新織機で織るダブル幅のデニムはここに来て生産が鈍化傾向にあるようだ。産地内のある織布工場は「デニムの勢いがなくなってきており、特にダブル幅のデニムの流れが悪い」と話す。
デニムの素材では綿など天然素材の採用が増え、ストレッチデニムが減少しているとの声が聞かれる。デニム製造国内最大手のカイハラ(福山市)の稲垣博章執行役員営業本部長は「ここ10年ほどは8割がストレッチデニムだったが、今は6~7割ほどになった」と指摘する。
〈海外開拓が引き続き重要に〉
成長に向け、海外への販路を広げていくことは引き続き今後も重要になってくる。三備産地では海外の展示会などに出展しながらビジネス拡大につなげる動きが進む。
篠原テキスタイルはイタリア・ミラノで1月30日から2月1日にかけて開かれた国際的な生地見本市「ミラノ・ウニカ」(MU)に出展し、独自性のある生地をPRした。中国紡織(同)も、MUへ特徴的な生地を出品。溝口公生取締役デニム事業部長は「スラブ糸を使ったヘビーオンスデニムや刺し子風デニムなどの反響が良かった」と話す。
日本綿布(岡山県井原市)は長年、海外ブランド向けのビジネスに取り組んでいる。先月もフランスで開かれたファッション関連の総合見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ」に出展。川井眞治社長は「米国や欧州の顧客が来場し、オーダーしてくれた。長年出展し続けてきた結果が出ている」と話す。
クロキ(同)は海外向けの比率が売り上げの5割ほどを占める。昨年にはLVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループのグループ会社で、モノ作り産業の成長と活性化を目的とした取り組みを行うLVMHメティエダールと国内初のパートナーシップを締結。黒木立志社長は「両社のつながりが増えてきている」とし、「商売だけでなく、認証取得に向けた動きも相談しながらできる」と締結の効果について説明する。
カイハラは、主要な輸出先である米国以外の開拓を進めている。稲垣執行役員は「中国や韓国、欧州などでアプローチを広げている」と話す。
海外向けのビジネスでは環境配慮型の商材が必須となる。最近は海外向けのビジネスにおいて、国際的なオーガニックテキスタイルの認証である「GOTS」など、認証取得が求められるケースも増えつつある。認証の中には1社のみで完結できないなど、取得のハードルが高いものもあるが、取得に向けた動きを見据える工場も出つつある。
〈将来見据え設備投資〉
産地内では今後を見据えた設備投資も進む。クロキは新型コロナウイルス禍でも設備投資を推進。レピア織機の入れ替えやプロジェクタイル織機の修繕、ビーム用立体倉庫の導入などを実施。黒木社長は「織布工場として完成形となった」と話す。
三備産地に限らず、多くの産地で人材不足が叫ばれる中、職場環境の改善を図る工場も出てきた。坂本デニム(福山市)は工場で、気温の変化を抑える効果がある遮熱板の設置を進めている。染色棟には大型換気扇の設置を計画するなど、働きやすい環境を整える。
コトセンは旧事務所の老朽化が進んでいたことなどから、パレット置き場として使用していた土地に新事務所を建てた。渡邉社長は「社員からの反応も良く、やって良かった」と語る。
〈播州発の「deniime」/“自由なデニム”追求〉
国内最大の先染め織物の産地の播州に本拠を持つアパレルブランド「タマキニイメ」。オリジナル“デニム”が生まれたのは今から6年ほど前のことだ。目指したのは同社らしい、着心地が良く、二つとない“顔”を持つデニム。経糸には備後産地で染めたインディゴ糸を使うが、緯糸は同社のデザイナーが配色し、自社で染色したオリジナルの先染め糸などを使う。旧式のシャトル織機を持ち、製織から縫製まで一貫して行う。「deniime(デニイメ)」の名称でシリーズ化しており、デニムのようでちょっと違う、はき心地が良く、独自の設計と糸使いの“自由なデニム”がコンセプトだ。
開発、製造を手掛けるのは、谷口啓二さん(23)。日夜、研究を重ね、最近ようやく一つの到達点とする“作品”が完成した。ボトムスの「∞(ムゲン)」だ。「肌触り、着心地、そして二つとない顔。全てを併せ持っています。当社は今年紡績もできるようになったので今後は国産綿花を使った糸から作品まで自社でする究極の国産ジーンズを作っていきたい」と夢を膨らませている。