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生地商社/強まるモノ作りへの危機感/設備投資が不可欠か

2024年04月16日 (火曜日)

 「仕入れ先との関係をより強固に」――は今、生地商社トップの共通認識と言える。宇仁繊維(大阪市中央区)など一部の例外を除いて生地商社は直接的に設備や工場を保有しない。生地を産地や染色加工場に発注し、作ってもらわなければ商いが成立しない。「仕入れ先とは共存共栄」という考え方は生地商社のビジネスの根幹を成すものと言える。そして最近は、この考えを改めて強調する社が後を絶たない。産地や染色加工場で納期遅れやボトルネックが頻発しているためだ。(吉田武史)

 業界最大手のスタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)の瀧隆太社長は先ごろ開いた決算記者会見の冒頭説明の大部分を、仕入れ先への言及に費やした。「『顧客が欲しいものを欲しい時に』が当社最大の機能であり強みだが、それが実現できなくなりつつある」と強調。「国内外の顧客の求める必要なタイミングで商品を届けられていないことを反省している」とし、改善策の一つとして、国内モノ作り企業とのより深く広い関係性の構築を挙げた。

 輸出型生地商社のデビス(同中央区)のデビス・ハニ社長も、納期遅れによる機会損失の頻発を嘆く一人だ。2023年12月期は前期比増収増益だったが、「生地がスムーズに作れていたならあと30%は伸ばせた可能性がある」と話し、産地や染色加工場の納期遅れがビジネスに直接関係していることを強調した。

 他にも各生地商社トップが似たような現象と傾向を指摘し、頭を抱えている。

 産地企業や染色加工場で納期遅れが発生しているのは、基本的に人手不足が原因。重労働とされる繊維工場を希望する若手人材がそもそも少ない上、少子化や外国人労働者の減少などがこの現象に拍車を掛けている。

 一方、宇仁繊維では「それほど極端なスペース不足や納期遅れは発生していない」(宇仁麻美子社長)と言う。織機を自ら購入し、提携する北陸や播州産地の織布工場に貸与し、子会社に染色加工場のハクサンケミカル(石川県白山市)を持つなど、多額の資金をモノ作りへの投資に当ててきたことが、ここに来て同業他社への優位性として奏功している可能性がある。

 産地企業や染色加工場の多くが資金難と、後継者と工場スタッフを含む全体的な人員不足に悩まされており、単独企業では解決できない事態に陥っている。しかし、匠の技や長年培ってきたモノ作りのノウハウはまだ生きている。生地商社が今後の生き残りを図る際には、国内モノ作り企業の協力が必要不可欠。海外生産に着手し、拡大させていく方針を取る社も多いが、それでは海外ブランドが求める「日本製生地」の要件は満たさない。以上のことから、生地商社による国内モノ作り企業への投資が今後進む可能性は高い。事実、スタイレム瀧定大阪の瀧社長ほか、幾人かのトップが「今後は直接的な設備投資も否定しない」と述べるようになっている。