2024年春季総合特集(8)/Topインタビュー/クラレ/社長 川原 仁 氏/社内共創 トータル提案/追加施策など中計再確認

2024年04月22日 (月曜日)

 クラレの2024年度(1~12月)は、新プラントが鍵を握る年になる。昨年立ち上がったタイのイソプレン関連事業のプラントが5、6月の定期修理で本格生産への体制が整うほか、米国の活性炭、ポーランドの水溶性ポバールフィルムの新プラントが稼働を始めた。倉敷事業所の光学用ポバールフィルムの操業も控える。川原仁社長は「需要の拡大に応える。作るだけでなく、マーケティングや販売面も強化する」考えを示す。24年度は22年度に始動した5カ年中期経営計画の中間の年でもあり、「最終26年度の目標値や施策の追加を含めて見直しを行う」とする。

――クラレの共創・協働の取り組みは。

 当社は、カンパニー制・事業部制を敷いており、社内での共創は従前から取り組んできました。社外との共創も同様です。ただ、常に目覚ましい成果を挙げてきたかと言えば、必ずしもそうではありません。顧客との取り組みをもう少し深化し、顧客が満足していないニーズにもしっかりと応えないといけないという結論に至りました。

 そうしたことを受けて、現中計で立ち上げたのがイノベーションネットワーキングセンター(INC)です。専任が30人、アンバサダー(兼任)が40、50人在籍し、横串機能を持つ大きな組織へと発展しています。クラレの中での共創・協働によって顧客にトータルで提案できるようになっています。

―― INC発足から2年半近くが経過しました。

 有望なテーマが二十数件上がっています。それをチェックし、経営資源を投入するか、現状では意味がないので保留するかといった判断を行います。約20のテーマは何段階か設定しているフェーズの1~2の段階にあるのですが、それらの中には推進チームやプロジェクトチームを作っているものも出てきました。

 INCには、専任とアンバサダーを合わせて70、80人いると話しましたが、研究開発だけでなく、マーケティング、営業、エンジニア、マネジメント担当者らがそろいます。多様なスキルを持つ人材が配置されていますので、近視眼的になることはなく、テーマをビジネスとして評価できることが強みです。

――共創・協働の重要性は増しているのでしょうか。

 クラレは、繊維に始まり、現在はスペシャリティーケミカル分野をけん引する企業に成長しました。多くの開発品を世に出してきましたが、完全に新しい発見やビジネスを作り出すのが難しくなってきたのは事実です。個社の技術や知見だけではある意味で限界に来ています。これは当社に限ったことではないと思います。

 そのような観点からも共創・協働が不可欠です。例えば温室効果ガス削減に各社が取り組んでいますが、全体の温暖化対策を講じるには個社では無理です。共創は今後ますます重要になり、それは顧客だけなく、同業他社との連携も入ります。社会が多様化・複雑化する中、独立独歩だけでは立ち行かなくなります。

――24年度も3カ月が経過しました。現在の事業環境は。

 23年後半から欧州を中心とする先進国の景気が減速しましたが、それが現在も続いているという状況です。インフレ抑制のための金利上昇が消費を抑え込んでいる形です。米国経済はまだ維持していますが鈍化も見られます。日本の景気ですが、BtoBビジネスが主体の当社にはあまり影響がないと言えます。

 世界経済で危惧されているのは中国でしょう。不動産不況によって勢いを欠いた状態が続いています。今年いっぱい、もしかすると来年まで現在のような状態が続く可能性があります。しかし、当社の中国駐在員によると「外から見るほどではない。以前のような過熱はないが、悪くはない」ということです。

 全体感ですが、今年の後半、当社でいう7~9月から、遅くても10~12月には回復に向かうと予想しています。懸念は物流問題です。海外では地政学リスクの問題があり、日本では人手不足の問題があります。共同物流といった連携は不可欠で、当社でも取り組みを進めます。物流問題は24年だけでなく、中期的な課題とも言えます。

――そのような環境下で24年1~3月期は。

 事業によって差はありますが、想定の範囲内で推移しています。比較的需要が堅調なのは活性炭です。飲料水のPFAS(有機フッ素化合物)の規制からニーズが高まっています。ガイドラインなどが策定されればさらに拡大すると予想しています。自動車分野は半導体不足の解消もあって堅調です。

――今年度の重点施策は。

 新プラントの稼働と販売に重きを置いています。一つは昨年にタイで立ち上げたイソプレン関連事業のプラントです。5、6月の定期修理後は生産面の問題はなくなりますので、マーケティングと販売にしっかりと取り組みます。活性炭の新プラントも米国で立ち上がりましたので、これをフル活用します。

 ポーランドでは、洗剤などの個包装用フィルムに使用される水溶性ポバールフィルムの生産が始まりました。米国に加え、欧州に拠店ができたことで旺盛な需要に応えます。日本では倉敷事業所で光学用ポバールフィルムの操業開始を予定しています。液晶テレビなどの画面大型化に対応する広幅タイプを生産します。

 「エバール」の新プラントをシンガポールに建設することも決定しています。稼働はまだ先ですので24年度には寄与しませんが、計画に沿って進めます。少しでも前倒しで取り組むことができればと考えています。

――24年度は、中計の中間の年でもあります。

 「機会としてのサステナビリティ」をはじめ、中計で掲げた三つの挑戦はしっかりとできています。ただ、中間の年ということもあり、掲げている目標や戦略面などの再確認を行います。最終目標や追加施策を含めた見直しを実施する予定で、今年の終盤から来年にかけて取り組みます。

〈最近のプチ贅沢/おいしい食事を楽しむ〉

 「新型コロナウイルス禍が落ち着き、いろいろな所へ出掛けられるようになった」とし、お連れ合いとの旅行が「プチ贅沢」と話す。以前は名所を回ることが多かったが、今は郊外や地方にある宿泊設備を備えたレストラン(オーベルジュ)を訪問するなど、「食事のおいしい所を選んでいる」と言う。「和食、洋食は問わない。一番を決めずにさまざまな料理、多様性を楽しんでいる」と語る。ちなみに訪問先はお連れ合いが決めるそうで、自身は「プチ意見を挟むだけ」と笑う。

【略歴】

 かわはら・ひとし 1984年クラレ入社。2010年樹脂カンパニー企画管理部長、16年執行役員、18年常務執行役員ビニルアセテート樹脂カンパニー長、19年3月取締役などを経て、21年1月代表取締役社長就任