2024年春季総合特集(9)/Topインタビュー/ユニチカ/社長 上埜 修司 氏/“ウィンウィン”が前提/まずは営業黒字化に全力

2024年04月22日 (月曜日)

 「企業に求められる課題が大きくなる中、1社の力だけでは課題解決のためのブレークスルーが難しくなっている」――ユニチカの上埜修司社長は共創・協働が必要になる背景をこう指摘する。同社も子会社がシキボウと企業の枠を超えて提携するなど積極的な取り組みを進める。「共創・協働の大前提となるのが“ウィンウィン”であること。これがないと連携も進まない」と強調した。一方、2023年度(24年3月期)は営業損失の業績予想となるなど厳しい状況にある。「まず営業黒字化に全力を挙げる」と強調する。

――企業の枠を超えた共創・協働の動きが加速しています。こうした潮流には、どのような背景があるとお考えでしょうか。

 近年、社会から企業に対して求められる課題が非常に大きなものになっています。例えば省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、物流問題などですが、これらはいずれも単独企業の力だけでは対応が難しく、課題解決のためのブレークスルーが起こりにくいという現実があります。このため同業の枠やサプライチェーンを超えて連携する必要が増していると言えるでしょう。

 近年、大きな流れになっているリサイクルの取り組みも同様です。原料となる使用済み製品の回収、その再生と製品化、そして流通までの各工程・商流が連携しなければリサイクルは実用化しません。やはり共創・協働が必要になるわけです。

 当社の場合も繊維事業を担うユニチカトレーディング(UTC)がシキボウさんとの協働をここ3年間続けてきました。連携効果による売上高も3億円程度になっており、形になってきました。素材メーカーが川下企業と連携するケースは以前から多くあります。しかし、同業である素材メーカーによる協働は珍しいでしょう。互いの良い点を折り合わせながら取り組んでいますが、バリューチェーンや海外拠点の立地も近く、深みのある連携をとることができています。

 互いの技術を融合し、今後も良い形にしていきたいと思いますし、こうした取り組みを他の分野にも広げていければと考えています。

――協働を成功させるポイントは何でしょうか。

 20年ほど前、エネルギー企業と連携して工場の自家発電設備の共同運営と売電ビジネスの立ち上げを担当したことがあります。その経験から分かったことは、協働のキーワードは“ウィンウィン”だということです。やはり双方に利益がないことには、どのような連携も進みません。10年以上前から「オープンイノベーション」がムーブメントになっていますが、なかなか結果が出ないことも少なくありません。結局のところ、企業同士がウィンウィンでないと長続きしないということです。

――23年度を振り返ると。

 既に業績予想として発表したように、23年度は連結で営業損失となる見通しです。連結決算を発表するようになってから営業赤字は初めてのことですから、非常に厳しい状況にあると言わざるを得ません。

 第4四半期(24年1~3月)には回復を期待していたのですが、自動車メーカーの不正発覚による減産の影響が思いのほか大きかったのが響きました。

 高分子事業は主力のナイロンフィルムが苦戦です。特にタイ子会社の生産・販売が市況低迷で振るいません。現在、アジア市場では景気が低迷している中国からあらゆる商品分野で安値品が流入しており、競争が激化しています。このためフィルムも影響を受けました。

 また、国内は食品包材用途などが値上げによる需要減退傾向にあります。新型コロナウイルス禍からの回復が続いたことで販売量も増加していたのですが、その反動もあってここに来て流通在庫の調整局面となっています。

 機能資材事業はガラス繊維が電子・電機分野の回復が遅れており、産業用繊維や不織布も市況が良くありません。

 いずれの事業も販売数量、生産数量が減少しており、それによる固定費負担増による総原価率の悪化が営業赤字の要因になっています。一方、UTCが中心となって事業運営している繊維事業は赤字を縮小しました。価格改定や不採算品の見直しなど改革を進めた成果が出ています。

――24年度の重点施策は。

 なによりまずは営業黒字化を達成することに尽きます。これができなければ次には進めません。市況面では、自動車関連は巡航速度に戻り、電子・電機用途も回復に向かうでしょうからこの用途での業績改善は期待できます。

 問題はナイロンフィルムですが、こちらもようやく流通在庫の整理が進みつつありますから、販売の回復を期待しています。食品包材用途を中心にインバウンド需要が回復傾向にあることも好材料です。また、ハイバリアタイプの販売が好調に拡大しています。このため宇治事業所(京都府宇治市)で増産体制を整備しました。タイ子会社でもバリアフィルムを生産できるようにしています。こうした高付加価値品の拡販によるプロダクトミックスを進めます。ガラス繊維も生成AI(人工知能)の拡大などを背景に半導体や電子分野でハイエンド品にチャンスがあるとみています。

 不織布は引き続き価格改定を進め、採算を改善することが重要です。既に2月から値上げを実施していますから、その効果を発現させなければなりません。産業用繊維はナイロン中空糸が半導体関連分野で使用される膜用途で拡大しています。今後、半導体関連分野は需要の盛り上がりが期待できますから、それをしっかりと取り込むことが重要。高機能品の拡販に取り組みます。

 そのほかの産業用繊維も経済活動の活発化による需要回復を期待しています。また、世界的に要求が強まっている環境配慮商品の販売も引き続き拡大していくことになります。

〈最近のプチ贅沢/運転手にアテンドされる〉

 「昨年11月に息子の結婚式でハワイに行きました。3日間だけでしたが、のんびりと過ごせました」と上埜さん。乗合観光バスに乗った際、運転手に妙に気に入られた。「日本人は話しかけられてもあまり応えない中、私が調子よく応えていたからでしょう」。それから観光スポットに着くたびに、見どころや穴場の撮影スポットを教えてくれたそう。「なんだか特別にアテンドしてもらっているようで、ちょっと贅沢な気分になった」

【略歴】

 うえの・しゅうじ 1983年ユニチカ入社、2011年執行役員技術開発本部長兼中央研究所長、12年取締役執行役員、同年取締役上席執行役員、15年取締役常務執行役員、15年代表取締役常務執行役員、19年から代表取締役社長執行役員