春季総合特集Ⅱ(2)/共創・協働時代の繊維ビジネス/和歌山ニットプロジェクト座談会/タッグ組み世界へアピール
2024年04月23日 (火曜日)
〈出席者(社名50音順)〉
オカザキニット 社長 岡崎 秀昭 氏
風神莫大小 社長 風神 昌哉 氏
フジボウテキスタイル 営業部和歌山担当部長 伊東 康守 氏
丸和ニット 社長 辻 雄策 氏
和歌山産地の編み地関連企業によって構成される「和歌山ニットプロジェクト」が和歌山の丸編み地と産地そのもののブランディングに挑んでいる。昨年10月に米国の見本市で各社が企画した製品を発表するなど動きを活発化している。同プロジェクトの発起人であるエイガールズの山下智広社長の呼び掛けで集まった4人が現在の取り組みと展望を語った(文中敬称略)。
〈青年部の活動がベース〉
――自社の歴史、強みなどをお話しください。
岡崎 当社は1950年の創業で私が3代目になります。主力の業態は丸編み生地の製販で、カジュアル衣料用途が主販路となります。紡績企業と協力して原料からこだわった別注糸を使った編み地の企画・開発力に強みがあると思います。
辻 当社は34年の創業で私は4代目になります。伝統的にジャカード編みに強みがあります。
近年はミドルゲージの編み地でありながら極細の経糸を通すことで布帛ライクな風合いを持つ「バランサーキュラー」の製販で実績を上げています。
風神 当社の創業は49年で私も4代目になります。カジュアル衣料向けの別注丸編み地の製販が主力です。生地の裏側に毛足の長いパイルが現れる裏毛生地の生産が得意です。
和歌山ニット工業組合青年部の部長を10年務めていました。現在、青年部は休会中ですが、今回のメンバーは青年部の時からの付き合いです。
伊東 私は生地の染色加工を行うフジボウテキスタイル和歌山工場を拠点に当産地の営業担当をしています。
歴史の中で名称は変わっていますが、フジボウグループの和歌山工場そのものの開設は72年で、産地との関わりは長く深いものがあります。
私自身も和歌山産地の編み地の染色整理加工に関わる営業を長く担当してきました。編み地製造業ではありませんが青年部のメンバーでした。
――このメンバーによる青年部での活動が長かったのですね。
風神 2020年に青年部と異業種との協業でアパレルブランドの立ち上げも行いました。
ブランドを立ち上げるに当たり、ネーミング選定や期間限定店開設などで連携、協力する場面が増えました。青年部長としてメンバー全体にメリットがある調和の取れた活動を意識しました。
岡崎 この協業ブランドは継続的に事業に取り組んでおり、今春で7度目の製品提案を行っています。このような活動を経てメンバーの関係性があったことで和歌山ニットプロジェクトの立ち上げもスムーズだったのではと思います。
辻 青年部を起点とした活動だけでなく、当社も通常の外注先として風神社長、岡崎社長のところに生地を編んでもらうことも増えています。
各社ともに貴志川電鉄沿線にあり、物理的に近いという利点もあります。ちなみに岡崎社長とは遠縁に当たります。
伊東 私たちの先輩世代までは良い意味でライバル意識が強かったと聞いています。今の40代前後の世代から産地全体の連携・協力体制が強くなってきたと感じます。
企業間が協力することで新しいものも生まれるでしょうし、これまでと違った形の成長も見込めると思います。
〈プロジェクトで学ぶ〉
――和歌山ニットプロジェクト設立の経緯は。
風神 20年に近畿経済産業局から25年の大阪・関西万博開催に向けて、産地ブランドの価値向上と世界に向けた発信についての打診が和歌山ニット工業組合にありました。
万博に向けたブランディングには青年部による協業ブランドのような最終製品での訴求が必要なことや企業間の連携・協業が不可欠なことなどいろいろな要素が重なり、エイガールズの山下社長が発起人となってプロジェクトがスタートしました。
辻 世界に向けて情報発信する上で、エイガールズが輸出や海外販売の具体的なノウハウ、販路を既に持っているという点も大きかったと思います。
――プロジェクトには全10社が参加しています。
岡崎 最初の対外的な活動となる23年12月の米国での製品発表に向け、エイガールズのオリジナル素材の「ロータス」を使い、1社1品製品を作ることが決まりました。ニッターだけでなく染色加工、縫製を含めたプロジェクトメンバーがエイガールズに集まり、6回だけの会合で企画を完成させました。
伊東 企画が決まった後の実際のモノ作りのスケジュールは厳しく、正直なところ当時は「間に合うかな」と思いながら動いていました。
岡崎 ここでも青年部での製品作りの経験が生きました。同ブランドでは年に2回のペースで新作を企画・生産しています。その経験があったのでスケジュール管理の重要さや押さえるべきポイントなどが分かっていたと思います。
風神 海外でモノを売る経験もエイガールズさんが23年2月に台湾で開いた期間限定店に参加して青年部で作った製品を販売しています。このときも産地をアピールしました。
岡崎 ただ、この台湾の期間限定店では価格設定が高すぎたのか販売は振るいませんでしたね。良い商品を持って行けばどこであろうと売れる――と漠然と考えていましたが、それだけでは駄目なのだなと実感しました。
――和歌山ニットプロジェクトによる米国での商品発表はいかがでしたか。
辻 私はニューヨークでのイベントのみの参加でした。事前の打ち合わせなどで、ある程度の手応えを得ていました。実際にスエットは現地で好評でした。
一方で需要があるとみていたバランサーキュラー使いのジャケットの反応はいまひとつでした。
米国ではカジュアル衣料とフォーマル衣料が厳密に線引きされていて、日本市場のバランサーキュラーの主要用途であるビジカジのような衣料品は中途半端とみなされるようです。
現地のライフスタイルやファッション感覚など事前の調査や打ち合わせで傾向をつかんでいたつもりでしたが、やはり来場者から直接情報を得たり自分で街中の景色を体感したりといったことは重要なのだと感じました。
伊東 ロサンゼルスとニューヨークの両方の展示への来場者の評価は高かったようです。アイテムそのものは世界でも通用すると言う和歌山産地のモノ作りの潜在力を感じました。
ただし、為替も考慮した価格設定などコスト管理や販売価格設定には今後、煮詰める余地があったとも感じました。
辻 確かに現地の物価の高さは感じました。為替が円安に振れている時期でもあり、滞在中は体感的に日本国内の3倍程度の出費が必要でした。
個人的には海外に行って、お土産を買わないで帰ろう――と思ったのは初めての経験でした。
岡崎 海外市場向けに付加価値を高めていくと国内市場との不一致が出てくるのではないかという懸念は確かに抱きました。特にカシミヤなどの高級獣毛由来の糸を用いる場合などには、製品を企画して実際に作り上げるだけでなく、どこでどのように売るのかモノ作りの段階から明確に考えておく必要性を感じました。
もちろん国内市場にも富裕層は存在しますから、海外市場向けだけでなく全般的な高付加価値化・差別化の研究と追求は重要です。国内メーカーとして強みを出せる部分としてどのような付加価値を乗せていくかの検討と開発を続ける必要があります。
伊東 付加価値の向上という面ではブランディングも必要と感じました。
風神 特に世界市場に向けて和歌山ニット産地を発信していくためには産地のブランディングは重要だと思います。
〈将来に向け産地ブランドを〉
――将来的に「和歌山ニットプロジェクト」が世界に向けた産地のブランドになる。
風神 製品の付加価値が高いことや確かなモノ作りの技術・品質を消費者や業界に証明していくためにブランドは不可欠だと考えます。
海外を含め、もっと多くの取引先が和歌山産地を調達先の一つとして認識してもらいたいです。
ただし、現段階では産地を盛り上げることにも「和歌山ニットプロジェクト」のブランド力を活用するべきだと思います。
現在の和歌山産地で海外と直接取引を行えているのは限られた数社だけです。エイガールズもそのうちの1社ですが、多くのノウハウをオープンにプロジェクトにフィードバックしてくれていると思います。
岡崎 現在、当社は事業としては生地の製販のみを行っています。青年部やプロジェクトの取り組みを通じて最終製品を作るノウハウを得ていることは大きいです。
さらに風神さんが言われたように海外とつながりを持てたことは大きい。各企業単独では難しかったのが実情だと思います。
辻 和歌山の中でも伝統がある産業であるにも関わらず、編み地製造業の一般消費者の認知は意外と低いのではないかと思います。
岡崎 その一方で、ミカンや魚介類など「食」の認知度は高いと思いますね。
辻 最終製品を取り扱うわけではないので、これまでも一般へのアピールが少なく、産地として協力してアピールする機会も少なかった。繊維製品、編み地の産地としての認知度を高める上で産地のブランドを育てていくことが必要です。
伊東 プロジェクト内の活動だけでなく参加する各社も自社のブランディングを模索している段階だと思います。今後は期間限定店などいろいろな場面でのアピールが進むと思います。
辻 かつてのような大量生産・消費の時代から社会情勢も変わってきました。貴志川電鉄は猫を駅長にするなど全く新しい地域振興策を打ち出しています。
「世界的に見ても編み地製造業がここまで集積している地域はない」と言うエイガールズの山下雅生会長の言葉を思い出します。他の地場産業と協業しての観光ツアーなど新たなアピール手法も考えられると思います。
風神 元々、当プロジェクトのスタートは「大阪・関西万博に和歌山ニット産地のみんなで行こう、みんなで世界にアピールしよう」というところからでした。
それにとどまらず、短期間で具体的な活動ができ、広い視点でブランド展開について考えられるようになってきています。メンバー全員、各社の思いが一致してきたと感じます。
私も次の100年を見据えた投資だと思っています。産地としてはもちろん業界の枠を越えた取り組みも広げていきたいです。
〈総評/エイガールズ 山下 智広 社長/「強気」で展開してほしい〉
今回の座談会を通じ、参加者には「和歌山ニットプロジェクト」に向けた率直な思いを語ってもらえたと感じます。
産地のブランディングは和歌山ニット産地、さらには産地企業各社の生き残りに関わってくる大きなテーマです。
この座談会の直前にプロジェクト会議を開き、2024年度の活動方針が示されました。
その会議でも今回の座談会でも課題とされているのが、将来的に私たちがどのようなブランドを目指すかという点です。
付加価値を高めてラグジュアリーな高価格帯製品の製販を模索する動きがある一方で、メーカーのモノ作り力を生かした高品質な物を適正価格で幅広く展開する手段も検討されています。
個人的には、メーカーが主導権を握って最終製品までを企画・生産・販売し、より多くの消費者に当産地の存在感を示せる商流の再構築を目指したい。プロジェクトのメンバーには自信を持って「強気」で国内外のマーケットに挑んでほしい。
今年は7月開催のパリ展、その翌週のミラノ・ウニカ、秋口の米・ニューヨーク展などのほか東京、和歌山でのアピールを計画しています。既存の手法にとらわれず、スピード感を持ってプロジェクトを進め、和歌山産地のブランディングを続けていきます。





