春季総合特集Ⅱ(3)/「つなげる」産学が新しい付加価値を生む

2024年04月23日 (火曜日)

〈シキボウ/“若い発想”開発に生かす/商品だけでなく仕組み作りも〉

 シキボウは、昨年から昭和女子大学(東京都世田谷区)や日本女子大(同文京区)それぞれと協働プロジェクトを進めている。若い世代の発想を生かし、単に商品化するだけでなく、社会の課題解決につながるような仕組み作りにも取り組む。

 昭和女子大とは昨年、環境デザイン学部での授業の題材の一つに、シキボウが新内外綿と取り組む繊維廃材のアップサイクルシステム「彩生」を取り上げられたことがきっかけ。新内外綿の紡績子会社、ナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)で工場見学会を実施するなど、学生たちが知見を深めながら、アイデアを温めた。

 そのアイデアは単に再生繊維を使った商品を企画するだけでなく、回収の仕組みを含めた循環型社会への貢献を目指すものとなっている。例えば、学内にあるカフェと連携し、不要となった衣料を回収するとともにコーヒー豆を染色に使いノベルティーを作るといった案が発表された。不要な衣料を回収に出した際、カプセルトイ(ガチャガチャ)を引くことができ、カフェのクーポンや無料券、トートバッグが当たる仕組みなど、「学生でなければ出てこない発想」(繊維部門の中条洋子戦略素材企画推進室長)が幾つかあった。

 中には大学に付属するこども園を通じた衣服のアップサイクルでは、小さい子供が衣服の再生される過程を理解しやすいように絵本を制作するなど、「今後の取り組みへのヒントになることがたくさんあった」と言う。

 日本女子大では学生有志チーム「Be free.」(ビーフリー)による、フェムケアを通した女性活躍社会の実現に向けた協働プロジェクトに取り組んでいる。同プロジェクトでは既に食品大手の明治が参加していたが、フェムテックプロジェクトチーム「Mechi」(ミチ)による商品開発を強めるシキボウも昨年から連携に加わった。「食」と「衣」の2社と、学生の交流を通じて、1995~2010年ごろに生まれたZ世代に向けて新たなライフスタイル提案を進める。

 昨年10月には東京ビッグサイトで開かれたフェムテック関連企業の合同展「フェムテックトーキョー」で、学生たちがイメージするフェムケアを実践するライフスタイルを展示。シキボウからは吸水ショーツなど、経血臭消臭や経血汚れ防汚などフェムテック機能加工の繊維製品を発信した。

 また、同大学の目白キャンパスの生協で2カ月間の販売実証実験も行い、情報発信とともに今後のマーケティング戦略に向けて販売データの分析も実施した。

 今年度に向けても2大学とは連携を継続し、「アイデアだけでなく形にしていく」(中条氏)ことを想定。日本女子大との連携ではシキボウと明治だけでなく、他にも参画を予定する企業もあり、それらの企業とも協働しながら新たな取り組みも構想する。

〈オーミヤ/“チーム大阪”でユニフォーム/新たなつながりで構想広がる〉

 ユニフォームを通じて「当社に対するファンを作っていきたい」――水道配管継手など機材メーカーのオーミヤ(大阪府東大阪市)の道野弘樹社長はそう思い、“明るい作業着が工場を変える”をコンセプトとしたユニフォームを作ろうと考え始めたのが4年ほど前だった。当初は明るいユニフォームが、働く社員にとって与える影響を心理的な面から考察しようと大学との連携を考えていた。

 しかし、行政から「まずはユニフォームを作ることから考えてみては」とアドバイスを受け、紹介されたのが大阪文化服装学院だった。道野社長はもともとオーミヤに入社する前、アウトドア製品のメーカーに勤め、繊維についてもある程度の知識を持っていた。しかし、全くの異業種からのユニフォームへの参入に不安もあった。

 そこでインスタグラムフォロワー46万人を超える人気アウトドアブランド「DOD」の事業責任者で、道野社長の友人でもあった寺田英志さんをブランドディレクターとして起用。同学院のファッション・クリエイター学科アパレルデザイナーコースの学生が企画とデザインを担当した。

 これまで大学と産学連携で取り組んだこともあるが、学生の力を借りプロダクトデザインに踏み込むのは初めて。2022年5月にコンセプトの説明を行い、7月にはデザインを選定するというハードなスケジュールだったが、学生たちは「何をしたいのか、よく理解をしてくれた」(道野社長)。

 そこで選んだのが北欧デザインを参考に玩具のレゴブロックに着想を得た明るくポップな配色で、チームカラーを意識した色使いのユニフォームだった。制作では三起(大阪市福島区)と連携。デザインが細かいだけに生地や付属の手配に苦労したが、まさに“チーム大阪”でこれまでにないユニフォームを完成させた。

 4種類のカラフルなカラーのウエアは色ごとにチーム名や役割を設定。これを企業、工場内で着用し「部署を超え色単位でマトリクス組織を作る」ことで組織の活性化を促す新たなコンセプトで訴求する。今年1月から販売を始め、既に学校などへ納入が決まった。

 自社でもカラフルファクトリーを着用しているが、特に「製造部が明るくなってきた」と効果を実感。色ごとのチームで資格の習得や改善への取り組みで競い合い、イベントを開くなどの構想も描く。このユニフォームの着用をきっかけに「地域の人たちから声が掛かるケースが増えた」として、新たなつながりもできてきた。夏向けのポロシャツの企画も進めている。

 今後も同学院とは連携を続ける。つながりができた学生に対し新たな商品開発で企画やデザインを依頼するほか、同校にはスタイリスト学科もあり、ファッションコーディネートのモデリングなどの依頼もする。道野社長は「できた関係性を大切にしながら、これからもしっかりと服に関わっていきたい」と話す。