春季総合特集Ⅱ(8)/Topインタビュー/シキボウ/社長 尻家 正博 氏/やらなければ何も動かない/持続的成長へ基盤固めの年に

2024年04月23日 (火曜日)

 シキボウは今期(2025年3月期)、3カ年の中期経営計画の最終年度となる。繊維部門では基本戦略に掲げてきた「セグメント内外での垂直・水平連携の強化」が具体的な形となって表れつつある。今期は新型コロナウイルス禍で落ち込んだ3年間を元に戻すというよりも、「将来に向けて持続的に成長できる基盤固めの年になる」と話す尻家正博社長。シキボウのブランド価値向上につながる取り組みを加速させるとともに、中計で掲げる目標に向け「最後まで気概を持ってやり切る」として全力を尽くす。

――共創・協働の取り組みを挙げると。

 中計では繊維部門の基本戦略として、「セグメント内外での垂直・水平連携を強化し、生産・販売・開発技術による総合力を高め、業績向上を目指す」ということを掲げています。マーケットニーズの多様化や、グローバルへ市場が広がる中、われわれ1社だけで対応するのが難しくなってきました。自身の強みをしっかり認識した上で社内外での連携を強める必要性が高まっています。

 まず社内では22年に営業を統合し、一つの営業体制になりました。組織間の風通しが良くなり、情報共有の強化によって、複数の課で連携して新たなビジネスにつながる動きが増えています。グループでは新内外綿との協業を強めています。特に繊維廃材のアップサイクルシステム「彩生」では、時代に沿った取り組みとしてビジネスが広がってきました。

 外に目を向けると、ユニチカトレーディングさんとの協業があります。互いに得意、不得意の分野を補い合う形で相乗効果を出すのが狙いです。豊田通商さん、信友さんとフェアトレードコットンの普及に向けたプロジェクト「コットン∞」(コットンエイト)も広がりつつあります。

――昨年10月にブランド戦略プロジェクトを立ち上げました。資本提携するファッションブランド「アンリアレイジ」との連携も深まっています。

 今までの延長で考えていては、なかなか新たなビジネスにつながらない。しかし、アンリアレイジさんとの連携によってこれまで全く当社と接点がなかったようなつながりができ始めています。

 繊維だけでなく産業材セグメントからもいろいろな意見が出てきます。取り組みを活性化させ、少しずつ意識を変えながら最終的に繊維部門だけではなく、シキボウグループ全体のブランド価値向上につながればと考えています。

 繊維では社員たちが必死にいろいろと考え、頑張ってもらっています。ただ、既存のビジネスが縮小していく中、持続的な成長を目指す上でも新たな取り組みをしていかなければいけません。全てがうまくいくとは思いませんが、それでもやらなければ何も動かない。失敗したら失敗したで、その経験をもとにまた次のことをやってもらえれば良いと考えています。

――前期を振り返ると。

 円安に加え、原燃料高が続き、厳しい1年でした。昨年9月に通期業績の下方修正を出しましたが、おおむねその予想に沿った形となりそうです。

 繊維部門は、ユニフォームの価格転嫁が進み、中東民族衣装向け生地輸出が堅調だったことで利益面が改善しています。

 原糸販売は産地向けが落ち込んでいるほか、中国、東南アジアのサプライヤーが安値で糸を投げ売りしている影響を受け、厳しい環境でした。ニット製品は価格転嫁が進み、売り上げは回復しています。寝装品では店頭での販売が鈍化している影響を受けています。

 産業資材部門ではフィルタークロス事業、機能材料部門では化成品事業の食品用途向け増粘多糖類、航空機用途向け部材を取り扱う複合材料事業などが堅調でした。ただ、全体的に製造や原材料のコストアップが利益を圧迫しています。

 リネンサプライ事業は行動制限の解除、インバウンド需要もあり、想定以上に堅調です。シキボウリネン(和歌山県上富田町)では岩出第一事業所(同岩出市)の新工場建設が12月に完了し、本格稼働しています。大阪・関西万博やインバウンドの需要拡大に十分対応できるキャパシティーになっています。

――今期は中計の最終年度となります。

 コロナ禍で落ち込んだ3年間を元に戻すというよりも、将来に向けて持続的に成長できる基盤固めの年になります。目標とする数値はともかく、定性的な動きはしっかり中計に沿ったものとなっており、各部門の戦略や方針はずれていないと思っています。今期もそれに沿って各部門がアクションプランを立てて、活動を開始しています。このアクションプランを最後まで気概を持ってやり切るしかありません。

 繊維部門では1月にシキボウベトナムを設立し、東南アジアでの販売、製造拠点が整ったことになります。売上高に占める海外比率は繊維部門だけで現状30%ほどになりますが、50%を目標に掲げています。

 その海外向け拡大をけん引する中東向け輸出については40年の歴史があり、単純な白とはいえ他社に出せない奇麗な白を出せる点が評価され、今の地位を確立してきました。それにあぐらをかくことなく、新たな素材開発に取り組むとともに、染色加工子会社のシキボウ江南(愛知県江南市)では加工量を倍増させ、さらに設備投資も進めていきます。

 産業資材事業でもカンバスで海外市場の開拓に力を入れます。段ボール製造向けのコルゲーターベルトでは国内では綿ベルトが主流ですが、海外ではニードルベルトが主流になりつつあります。当社でも基布に繊維層を特殊針でニードリングした「Nドライ」への置き換えを図っていきます。

 需要が増える食品用増粘安定剤では来年1月にシキボウ堺(堺市)の新工場が稼働します。医薬品レベルの衛生的な工場となり、今まで取り扱えなかったものも取り扱えるようになります。その強みを生かし、将来的には海外への販路開拓も視野に入れます。

〈最近のプチ贅沢/たまの週末に黒毛和牛〉

 尻家さんにとってのプチ贅沢はたまの週末に黒毛和牛の肉を食べること。昔は好きな部位をお腹いっぱい食べることもあったが、「今は年齢で多く食べられず、量よりも質を重視している」そう。正月など特別な日は取り寄せも活用し、おいしいとイチ押しなのが「近江牛」。近江牛といえば滋賀県近江八幡市が産地で、「そういえば当社も八幡に産業資材の工場があったなあ……」。今度、八幡工場を訪れた際には、帰りに近江牛を買い求めること間違いなし?

【略歴】

 しりや・まさひろ 1988年シキボウ入社。2018年総務部長、19年執行役員コーポレート部門経営管理部長、20年執行役員コーポレート部門経営戦略部長兼財務経理部長、21年執行役員コーポレート部門財務経理部長。21年6月から代表取締役兼社長執行役員