春季総合特集Ⅱ(13)/Topインタビュー/新内外綿/社長 田邉 謙太朗 氏/親会社と製販で連携強化/新素材開発や売り先開拓

2024年04月23日 (火曜日)

 新内外綿の2024年3月期決算は前期比増収増益となった。紡績部門、衣料品をはじめとする最終製品部門ともに価格改定が進み、業容が改善した。田邉謙太朗社長は「生産数量の多い杢(もく)糸の動きは依然として良くない」としつつも「値上げに理解いただける顧客が増えたことやこれまでの営業努力が着実に出てきた」と話す。

――貴社の共創・協働の事例は。

 親会社のシキボウと営業、生産の両面で連携を強めています。シキボウはユニフォーム用の織物やシャツなどに向く糸を得意とし、私たちは杢糸に代表される、カジュアルウエアなどに多用される意匠や感性に訴えるニット糸を主力としています。同じ糸を作るメーカーでもこうした異なる個性を持っていますので連携で得られるメリットは大きいですね。

 21年にシキボウの100%子会社になって以降、繊維素材の展示会には両社共同でブースを構えています。その成果として双方で顧客を紹介できるようになっています。例えば、かつて私たち単独ではファッションアパレル以外の分野で顧客を見つけるのは難しかったですが、親会社と共同で展示会に出ることで、ユニフォーム業界やインテリア・壁紙関連、さらには繊維小物を作る企業にもアプローチできるようになっています。

 最近では両社の営業現場が互いに率先して、コミュニケーションをとって営業での連携もできるようになっていますし、生産でのシナジーも表れています。具体的にはシキボウ江南の連続シルケット加工機を使った糸の開発やシキボウのユニフォーム用機能素材に当社の糸を使って意匠性に富む新素材ができないか、あるいはシキボウの富山工場の活用も検討しています。同工場は綿花の種類が多く、長短複合糸やコーマ糸が作れますので、そういった設備や技術を当社が活用することもアイデアにあります。

――24年3月期を振り返ると。

 これまで利益で非常に厳しい期が続いてきたので、わずかではありますが、ようやく浮上することができました。取引先の値上げへの理解が広まったことと当社社員の営業努力によるところが大きいと思います。また、国内で紡績企業が減っており、さまざまな小口の紡績需要が当社に新規で来ているという側面もあります。

 営業利益がこれまで厳しかった原因は製造コストの上昇です。さらに当社が得意とする杢糸のトレンドアウトも重なりました。あらゆる費用が年々上昇し、糸の製造経費はここ数年で2割以上は上がっています。この原料の値上がりの速さに顧客に値上げへの理解を広めるスピードがなかなか追い付かず、利益が厳しい期が続いていました。

――今期の方針を。

 業容は改善したものの、事業環境は決して良いとは言えません。杢糸自体の需要が急回復するとも思えないので、これまでと同様に紡績と製品の両事業部が情報を共有して一緒に営業していくという戦略は変えません。親会社との連携による新たな売り先の開拓、新商材の開発にも期待しています。

 最近、繊維製品のトレーサビリティーが消費者の関心を引き付けるようになってきました。糸の原綿がどんなものかということにもスポットライトを当てるアパレルも出ていまして、これはチャンスだと考えています。

 例えば、当社は混綿のノウハウを強みとしており、最近ではパイナップル、葦(よし)、竹、ヘンプなど個性的な紡績糸をそろえています。こうした従来、商用として使われてこなかった未利用繊維の活用は、近年のSDGs(持続可能な開発目標)という観点にも合致していますし、問い合わせも増えています。

 今年からはエーゲ海オーガニックという名称でトルコ産オーガニックコットン糸の輸入販売を始めました。欧州基準の認証が取れたオーガニックコットンで、綿花畑の生産者の顔も見える高いトレーサビリティーを強みにしており、今まさに提案を進めています。早ければ25春夏シーズンにこの糸を使った商品が店頭に並ぶかもしれません。市場の反応が良ければわたで輸入し、当社オリジナルブレンドにしてさらに付加価値化することも検討します。

〈最近のプチ贅沢/バラの満開待ち遠しい〉

 「自宅の玄関前でバラがつぼみをたくさんつけていまして、5月上旬には満開になるはず」と期待を膨らませる田邉さん。プランターのサイズを研究したり、夜に表へ出て夜行性の害虫を駆除したり丹念に育てている。お気に入りの品種の一つは「ピエール・ドゥ・ロンサール」。ピンクと白が絶妙に溶け合う上品な色合いが美しい。「見た目だけでなく香りも良くて、自宅で鑑賞できるのは静かな贅沢です」とほほ笑む。

【略歴】

 たなべ・けんたろう 1985年、新内外綿入社。2013年取締役紡績部担当、18年取締役兼常務執行役員紡績部・テキスタイル部・製品部担当兼開発・マーケティング部長、20年取締役兼常務執行役員紡績テキスタイル部・製品部担当。21年6月に代表取締役兼社長執行役員就任。京都府出身