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大手アパレルの施策から/OMO時代突入/外出需要の鎮静化に備え

2024年04月24日 (水曜日)

 新型コロナウイルス感染症の法律上の位置付けが「5類」に移行して間もなく1年を迎える。お出掛け着やセレモニー服、スーツなどのビジネスウエアの売り上げも回復し、大手アパレル企業では成長戦略へアクセルを踏み込む。一方で、急回復した外出需要が「一巡した」との見解もあり、楽観視はできない。

(市川重人)

 この間、大手アパレル企業の通期決算が発表され、おおむね国内事業は好調、特に営業利益、純利益を伸ばした企業が多かった。今期(2025年2月期)はコロナ禍で減少した売り上げトップラインの拡大に向け、実店舗への投資を本格化する。

 08年のリーマンショック以降で最高益となったオンワードホールディングスは、外出需要を巧みに取り込んだ。決算会見後に保元道宣社長に話を聞くと「特にオーダーメードブランド『カシヤマ』などは好調が続いている」と話す。

 外出需要という広義ではなく、アフターコロナ下で多極化、細分化した消費動向に接点を求める考えだ。カシヤマではビジネスマンに加え、若者世代の購入も増えた。さらに「実店舗とネット通販のクロスユースを促すため、デジタル投資も継続する」と述べた。

 外出需要の一巡に警戒感を示したのはワールドの鈴木信輝社長。業績は堅調だが、アッパーミドル層に向けた百貨店ブランドではセレモニー服に一服感も見られた。今期は一部でMDを修正し、さらに3月からOMO(オンラインとオフラインの融合)業態「ザ・ギャラリー・ワールド・オンラインストア」を出店。実店舗の利便性向上、販売フォーマットを進化させる。

 百貨店の売り上げ構成比が6割を超える三陽商会は、同販路が好調。ジャケットなどビジネス系がリード商品になっている。今期は9店舗の新規出店と30店舗の改装を計画。外出需要についても「都心百貨店を中心に拡大すると予測している。(前期の)販路別に見ても、百貨店の伸び率が最も顕著で市場回復をけん引した」(大江伸治社長)との見解を示した。

 ルックホールディングス(同社は23年12月期)の多田和洋社長も実店舗を軸に「売り上げトップラインを拡大する」と話す。今後5年間で主力ブランド「イルビゾンテ」「マリメッコ」などで国内30店舗の新規出店を計画する。人気アイテムから派生させた商品も増やす。外出需要に伴うバッグなど服飾雑貨の拡大に期待感を示した。

 一部のゴルフ、ストリートブランドでコロナ特需が一巡したTSIホールディングスは、不採算店舗の統廃合や30を超える各ブランドの電子商取引(EC)サイトを集約し、効率化と収益性の改善を進める。厳しい商況となったが「大型店の開設など、実店舗へ戦略的に資本を投下する」(下地毅社長)とした。

 実店舗の強化、拡大は各社共通するが、自社ECとのクロスユースを狙ったOMO施策で先行するオンワードホールディングスと、新たに実装したワールド、三陽商会という構図になる。TSIホールディングスもOMOの取り組みを進めている。購入点数の増加やエンゲージメント(会社に貢献したいという意欲)向上を期待できるOMO施策は必須のようだ。

 OMO施策で成果が出ているバロックジャパンリミテッドも旗艦店の改装を進め、ECとのクロスユース、顧客満足度を向上させる。インフルエンサー販売員を介した購買動線も強化。同社が拡大させてきた中国事業が踊り場を迎え、改めて国内事業の強化に動く。