春季総合特集Ⅲ(1)/「交わる」事業統合で力を発揮する

2024年04月24日 (水曜日)

〈東洋紡エムシー/製販連携で市場開拓/日本の素材産業を元気に〉

 メーカーと商社の枠を超え、東洋紡と三菱商事が合弁で2022年に設立した東洋紡エムシー(大阪市北区)。製販連携で市場開拓に取り組み、世界市場に打って出ることを目指している。“日本の素材産業を元気にする”という目標に向かい、積極的な取り組みが加速する。

 東洋紡エムシーには東洋紡の機能樹脂「バイロン」「ハードレン」、光機能材料、ファインケミカル、エンプラ、アクア膜、環境ソリューション装置、AC製品・材料、スパンボンド不織布、生活資材、スーパー繊維やこれらに付帯する事業が移管された。出資比率は東洋紡51%、三菱商事49%で、売上高は1千億円を超える。東洋紡にとって主力事業の一つである機能材事業をまるまる移管した野心的なプロジェクトだ。

 今回の連携は東洋紡と三菱商事ともにグローバル市場で勝ち抜くという目的を共有したところから生まれた。東洋紡は機能材で先端的な技術力を持ち、ユニークな商材を多数ラインアップする。一方、海外市場の開拓では日系企業への販売が中心となり、海外企業への拡販が不十分という課題があった。

 一方、三菱商事は19年に総合素材グループを立ち上げ、汎用素材から機能素材まで幅広い用途に販売する体制となった。特に機能素材の販売強化のための戦略を模索していた。こうした中、両社のジョイントプロジェクトは始まった。

 三菱商事からプロジェクトに参加する東洋紡エムシーの馬場重郎取締役兼副社長執行役員COOは「機能素材は日本のメーカーに強みがあり、利益率も高い。ここを強化するという考えで東洋紡と三菱商事が一致した」と話す。国際競争が激しくなる中、協働によってメーカーと商社、それぞれが抱える限界を突破することを目指した。

 「東洋紡が持つ技術力と素材を武器に、商社の力でこれまでリーチできなかった市場に参入していくことが目標」となる。このため東洋紡エムシーの発足に合わせ、三菱商事にも担当チームが設置され、さまざまな案件でサンプル提案や情報の共有化が進められた。こうした取り組みは米国などで徐々に成果も上がり始めている。

 今年4月には自動車関連分野の販売拡大に製販一体で取り組む専任部署としてモビリティ事業推進ユニットを設立した。エンプラ、機能樹脂、不織布などを従来の部材・部品メーカーだけでなく完成車メーカーに直接アプローチし、自動車の企画構想・先行開発段階からニーズを捉えた共同開発に取り組む。重点開発・提案テーマとして「質量低減金属代替」「次世代内外装」「次世代環境対応」「新素材・新技術」「フッ素代替」などを掲げる。

 発足から2年目に入り、いよいよ共創・協働の成果を具体化することへの期待が高まる。

〈エム・エーライフマテリアルズ/SB競合2社が合弁/衛材需要減に危機感〉

 ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)のライバル2社が手を結んだ。三井化学と旭化成の不織布事業合弁会社、エム・エーライフマテリアルズ(MAL、東京都中央区)の発足だ。その背景には主力の衛生材料向けの低迷がある。

 MALは2023年10月2日、資本金5億円(三井化学60・62%、旭化成39・38%)で設立された。SBのほか、メルトブロー不織布(MB)、通気性フィルム、形状保持繊維、フィルター製品の製造販売を行う。単純合算で483億円の売り上げ規模を持つ。

 三井化学出身でMALの簗瀬浩一社長は「考え方が似通っており、親和性は高い。一体感のある運営ができている」と語る一方「想定以上に環境が厳しさを増しており、合弁目的の一つでもある合理化など構造改革を進めないと生き残れない」と危機感も強める。

 それは主力である紙おむつなど衛材向けポリプロピレンSBの需要減に歯止めがかからないからだ。国内だけでなく、両者が力を入れてきた海外は需要は伸びているが、低価格志向が強く、現地企業との競合が一段と激しさを増している。

 このため、MALは合理化、差別化、そして産業資材の強化に取り組む。合理化では銘柄統合や設備の統廃合で生産性を高める。原料一本化によるコスト削減も進める。

 差別化では両者の強みを生かす。旧三井化学の中空タイプに旧旭化成の親水加工など独自品の組み合わせもその一つだ。それでも「乳幼児用で右肩上がりの絵は描けない」。日本や中国は少子化が進むが「東南アジアもいずれ同じ状況になる」と見通す。このため、大人用紙おむつや、中国などで増えつつあるパンツタイプの生理用ナプキン向けの開発に取り組み「落ち込みを補うしかない」と語る。

 産業資材強化は衛材偏重型企業共通の課題でもある。MALは「将来的に産業資材比率を50%にするのを目標」とする。旧三井化学のMBに旧旭化成のナイロン、ポリエステル原料を活用した開発が既に進む。旧旭化成のポリエステルSMS(SBとMBの複合不織布)「プレシゼ」も「評価は高い。旧三井化学の顧客に提案することで広がりが期待できる」とみる。旧旭化成のポリ乳酸(PLA)SB「エコライズ」も同様で、さらに生分解性の高い品種の開発に取り組む。組織体制も見直す。衛材用途は設立と同時に一本化したが、産業資材用は旧三井化学が東京、旧旭化成が大阪のまま。「24年度中に体制を変える」計画と言う。

 三井化学と旭化成のSB事業は合弁により活路を見いだそうとした。激しい競争下で生き残りを懸けるが、MALの挑戦は始まったばかり。結果が注目される。