春季総合特集Ⅲ(4)/Topインタビュー/帝人フロンティア/代表取締役社長執行役員 平田 恭成 氏/繊維to繊維などで協働/次のステージへ入る
2024年04月24日 (水曜日)
帝人フロンティアが収益力を高めている。2022年度(23年3月期)に営業利益100億円を達成し、23年度は120億円に拡大する見通しだ。平田恭成社長は「しっかりと稼げる企業体になり、社員にも自信がついてきた」と強調し、「次のステージへ向かいつつある」との認識を示した。24年度は、全体の消費動向に悲観はしていないとした上で、もう一段の収益力向上を目指す。その中で注力すると話すのが、次の時代を見据えた生地生産拠点の強化だ。タイ子会社のタイ・ナムシリ・インターテックスに目を向けており、品質力強化などで「第二の南通帝人」に育成する。
――帝人フロンティアの共創・協働は。
社外では、北陸産地の企業との連携が従来から続けている共創・協働です。そのほか、繊維to繊維リサイクルの連携も取り組みの一つになると言えるでしょう。繊維to繊維リサイクルは、将来に生き残るために必要なプロジェクトであり、同じようなポジションにある企業と協働しようとしています。
衣料品は企業や自治体での回収の動きがあります。集まった衣料品からボタンや芯地をはじめとする副資材と生地の仕分けが必要ですが、生地も合繊繊維や天然繊維など、さまざまな素材が使われています。回収や仕分け、生地の素材ごとの分離などは個社では難しく、連携による仕組み作りが不可欠です。
社内での共創・協働も進んでいます。市場を見ると、衣料品を含めた生活用品全般を扱う売り場が増えていると感じます。当社も衣料繊維部門と産業資材部門の生活製品本部のコラボレーションが進展しています。例えばテレビ通販やカタログ通販は生活雑貨から始まり、衣料関係にも広がってきました。社内連携の成果です。
――共創・協働の重要性は。
新しいモノを生み出すためにも重要であると考えています。衣料繊維には伝統的な仕事の仕方があります。ただ、売り場が変化する中で衣料繊維のやり方だけでは限定的な商売しかできません。社内外の連携によってイノベーションが生まれ、商圏拡大の機会も生まれます。
競合他社との連携も求められます。繰り返しになりますが、繊維to繊維リサイクルも業界全体で取り組みを進めていかなければ実現は難しいでしょう。繊維to繊維リサイクルで利益が生み出せるのかどうかは分かりません。しかし、やっていかなければ日本の繊維業は生き残れないと思います。
衣料品では、大量生産大量廃棄も問題視されています。RFID(無線通信による個別管理システム)といったツールを使って連携し、商品の在庫を可視化することなどが不可欠でしょう。社会的な要請への対応も繊維業界の生き残りには必要です。商品販売以外の部分でも共創・協働が求められています。
――23年度が終了しました。1年を振り返ると。
24年3月期は、2月8日に公表した売上高3200億円、営業利益120億円(帝人の繊維・製品セグメントの数字)に近い業績になると予想しています。マイナス要因の少ない1年で、特に衣料製品が順調に推移しています。価格転嫁がある程度進んだことが寄与しました。産業資材分野も拡大しています。
当社は、23年3月期に営業利益100億円を計上しました。しっかりと稼げる企業体に成長することができていると私自身が評価していますし、社員にも自信がついてきたと感じています。01年のNI帝人商事設立から22、23年が経過し、次のステージへと向かいつつあると言えるでしょう。
――24年度に入っています。事業を取り巻く環境は。
中国経済の動向、現在は堅調な米国経済の先行き、戦争・紛争の継続など、不安要因は少なくありません。
欧州経済も良くないと聞きますが、23年も決して良い状況ではありませんでしたので、これ以上は悪くならないのではないでしょうか。世界の消費はシュリンクしないと予想しており、悲観もしていません。
日本市場についても大きな不安要素があるとは考えていません。衣料品は23秋冬シーズンが暖かかったことから、次の商売への影響が懸念されているのも事実です。しかし、これは天候要因によるもので、消費そのものが減退している感はありません。賃金上昇とインフレがうまく循環すれば、消費は悪化しないと思っています。
基本方針は23年度から大きな変更はありません。グローバルアパレルとのビジネスを強化し、ベトナム内販なども視野に入れます。テキスタイルは次の時代の生産背景を作り、商圏拡大を目指します。
スマートセンシングでは、種まきを終えた事業の刈り取りを行います。産業資材は、モビリティーや水処理の市場拡大に対応します。
――次の時代の生産背景とは。
当社の中国拠点である南通帝人は、ポリエステル長繊維を中心とする化合繊織・編み物を製造・販売している企業です。設立当初のナショナルスタッフが部長クラスで残っており、品質の管理や納期対応で強みを発揮し、中国国内販売と輸出の両面で結果を出しています。
南通帝人が培ってきたノウハウを横に広げます。これによってタイの合繊織布・染色加工子会社であるタイ・ナムシリ・インターテックスを「第二の南通帝人」に育成します。技術スタッフの交流などを通じて南通帝人品質をタイ・ナムシリ・インターテックスに植え付け、日本向け輸出やタイ国内販売の強化につなげます。
――そのほかの拠点では。
ニットを中心に、インドネシアの協力工場を拡充する方針です。同国国内のほか、ベトナムやミャンマー向けを視野に入れるなど、ASEAN地域での縫製強化のための生地を生産します。日本では産地のパートナーと連携して高機能生地を作ります。輸出も積極拡大し、産地の活性化を支えることができればと考えています。
〈最近のプチ贅沢/家族との1泊旅行〉
平田さんは「家族との国内旅行を楽しみにしている」と話す。これまでに日光や箱根、熱海に足を運び、「どの場所も趣があって良かった。箱根に行った時は残念ながら雨だった」と過去の旅行を振り返った。「1泊2日なのでそれほどゆっくりはできないが、仕事は忘れることができる」と、普段は贅沢をしないという平田さんにとってプチ贅沢なひと時のようだ。今年の旅行先は未定だが、「東北を回ってみたい」とした。平田さんに決定権はないらしいが。
【略歴】
ひらた・やすなり 1985年日商岩井入社、2005年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、13年帝人フロンティア繊維資材本部繊維資材第二部長、14年繊維資材本部長、18年取締役執行役員、20年取締役常務執行役員などを経て、21年4月から代表取締役社長執行役員