春季総合特集Ⅲ(6)/Topインタビュー/東洋紡せんい/社長 清水 栄一 氏/“強いチーム”作る時代/「新」の創出で利益増やす

2024年04月24日 (水曜日)

 「それぞれの企業が自分の強みを分析し、連携によって“強いチーム”を作る時代になった」――東洋紡せんいの清水栄一社長は指摘する。同社も得意とする特殊紡績を生かし、川下と強いバリューチェーンを構築することに取り組む。2023年度(24年3月期)は営業黒字に浮上する見通しとなるなど構造改革も成果が上がる。

――繊維産業でも企業の枠を超えた共創・協働の取り組みが増えています。

 各社がそれぞれ自社の強みを明確に分析し、連携することで“強いチーム”を作る時代になっているということでしょう。これまで大手の素材メーカーは自前主義の傾向が強かったのですが、それが難しくなっています。それよりも“勝ち組”をどうやって作り、そこに入るかが重要になっています。

 こうしたことは繊維事業では早くから進められていました。当社の場合だと、やはり強みは原料。その後の工程に関しては、その道のプロに任せた方が良いケースが少なくありません。販売面でも強い取引先との取り組みが重要になります。東洋紡が得意とする特殊紡績などの工程・領域と、川下分野が組むことで強いバリューチェーンを作ることができます。ですから、例えば海外に充実した染色加工、縫製の拠点を持っている強い取引先と組むことなどが重要になります。

――23年度は営業黒字化の見通し。

 スポーツ事業の一部製品OEMやユニフォーム事業のワークウエア向け定番織物など低採算品を縮小し、価格改定の実施や工場再編に着手したことで収益性が改善しました。スクール事業も学生服のニット化の流れが追い風になっており堅調です。輸出織物事業は中東民族衣装用織物の好調が続いています。営業黒字化で、東洋紡せんいとして24年度は“真のスタートライン”に立つことになります。

――24年度の課題と戦略は。

 重点事業であるスクールと輸出織物、安定収益事業であるユニフォームとマテリアル、そして要改善事業と位置付けるスポーツそれぞれで強みを改めて見直し、伸ばすところは伸ばし、見直すところは見直すという基本方針は変わりません。ベースの事業を維持しながら、新規の用途や取引先を開拓する“新”の創出によって事業の中身を入れ替え、売上高は微増でも営業利益を大きく伸ばすことを目指します。

 そのために投資もします。例えば庄川工場(富山県射水市)の染色加工工程の増強や省エネルギー化を進め、競争力を一段と高めます。スポーツ事業は当社の生産体制が脆弱(ぜいじゃく)だったという反省があります。そこで4月から縫製子会社のトーヨーニット(三重県四日市市)を統合し、製販一体体制を強化しました。これにより生産・開発体制も強化されることになります。

 サステイナブル素材の拡充も進めます。例えばマスバランス方式(原材料が混合される際にその比率を最終製品に割り当てること)のケミカルリサイクルナイロンは欧州向け高密度織物で商談が決まり始めました。紡績糸では新方式の開繊技術による反毛を使ったリサイクル綿糸「さいくるこっと」への引き合いが増しています。ユニフォームやスクール分野では工場で発生する端材などを再利用するプレコンシューマー型マテリアルリサイクルシステム「T2T」などを活用する動きが始まっています。やはりサステ素材やリサイクルも“原料”がベースです。

 マテリアル事業はインナー用途と一般衣料用途が軸ですが、新たに東洋紡STCから自社生産するメディカル製品や生活資材など非衣料用途の商材が移管されています。4月から技術部に新規事業開発グループも新設し、非衣料用途の拡大に取り組みます。

 ユニフォームは合繊長繊維ニット生地を軸に企業別注を重視します。もちろん備蓄ユニフォームや白衣にも力を入れます。スクールは流通在庫が増加傾向になるなどこれまでの好調の反動が出る可能性がありますが、詰め襟・セーラー服からブレザーにモデルチェンジする流れは続いていますから、ニット生地で需要をしっかりと取り込みます。輸出織物は、さらなる差別化商材の開発と拡販を進めます。

〈最近のプチ贅沢/旅行でオン・オフ切り替え〉

 「プチ贅沢と言えば、旅行かな」という清水さん。最近は年に4回は家族や友人と旅行に行くそうだ。仕事ばかりだと精神的にも疲労が蓄積しがち。「やはりオン・オフの切り替えが必要ですから」と、旅行先で温泉やおいしい料理を楽しむことで気分転換をしている。そんな中で最近、以前訪れたことのある奥能登で地震が発生したことに心を痛めている。復興がなかなか進まない現状に「一日も早く復旧してほしい」と話す。

【略歴】

 しみず・えいいち 1986年東洋紡績(現・東洋紡)入社。生活テキスタイル事業部ワーキングサービスグループマネジャー、グローバル推進部主幹兼東洋紡インドネシア社長などを経て2021年執行役員東洋紡STC社長、22年東洋紡せんい社長、24年4月から東洋紡常務執行役員機能繊維・商事本部長を兼務