春季総合特集Ⅴ(3)/Topインタビュー/菅公学生服/社長 尾﨑 茂 氏/制服・体操服を循環へ/環境配慮へ取り組み深める

2024年04月26日 (金曜日)

 性的少数者(LGBTQ)への配慮によって増加するブレザーへのモデルチェンジ(MC)への対応が求められる中、菅公学生服は今春の入学商戦では安定した納品につなげることができた。原材料価格など、あらゆるコストが上昇するなど、学生服業界を取り巻く環境は厳しさを増している。今後は価格改定を進めながら、利益の確保に動く。

――御社の共創・協働の取り組みについて教えてください。

 学生服業界の認識として、廃棄物が多いということがあると思います。既に欧州では衣料品の廃棄を禁止する動きが強まっています。

 当社でも環境配慮に向けた取り組みを深めています。昨年11月、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を社会に実装するブランド、「ブリング」を運営するJEPLAN(ジェプラン、旧日本環境設計)と協働し、「制服・体操服の循環型プロジェクト(PJ)」を始めました。不要になった制服や体操服を、学校や当社の直営店の「カンコーショップ」で回収し、服から服へと循環させる取り組みです。

 2026年の入学商戦から、回収した制服由来の再生原料を使った商品の販売を計画しています。子供たちにも循環型社会の大切さを、実体験を交えながら感じてもらえればと思っています。

――MC数の増加で、昨年の入学商戦では業界全体で納品が困難を極めました。今年の入学商戦の進捗(しんちょく)はいかがですか。

 順調に商品を納品するということが今年の至上命題でした。当社としては、しっかりと備蓄生産ができていたため、今年の納品はうまく進めることができました。素材の入荷遅れが一部であったのは事実ですが、それでも十分に対応することができました。

 また、新規のエントリーを早めに締め切ったことも要因です。これを引っ張ると、この時期の生産を圧迫するもとになります。今春に関しては、学校側に対してここまでの期間しかお受けできないとして、われわれのサイクルをしっかりと守ってきました。

――上半期(23年8月~24年1月)の状況は。

 売り上げは順調に推移していますが、原料価格などさまざまなコストが上昇している影響で利益面は苦戦しています。もはや社内でコストダウンを図るという話ではなくなってきています。そのため、今期は赤字でも仕方がないと思っています。

 ただ、来期に向けては値上げを進めているので、黒字転換するのではという感覚はあります。今後も値上げをお願いしていくしかありません。

――昨年、シャツ生産を主力とする米子工場(鳥取県米子市)の隣接地に、ブレザーやスラックスを生産する新工場を増設することを発表されました。建設の状況はいかがですか。

 当初は今年10月の竣工(しゅんこう)を予定していましたが、補助金などの関係で遅れています。現在は来年6月辺りの竣工を予定しています。

――昨年始動した制服・体操服の循環型PJの進捗はいかがですか。

 このほど、中学校、高等学校3校での導入が決まりました。学校には制服と体操服の回収ボックスを設置し、運用を始めています。

――グループ会社のカンコーマナボネクト(岡山市)で非認知能力(数値化が難しい個人の特性による能力)の育成など、人材育成にも力を入れています。

 案件は広がってきています。昨年には東京オフィス(品川区)を設けました。関東圏でも徐々に案件が増えていっています。

――デジタル技術で企業を変革するDXに向けた取り組みについてはいかがですか。

 人工知能(AI)を活用した「スマート採寸」では、データが蓄積されてきたことで精度が年々上がっており、業務の効率化につながっています。

 現在は生産と営業で別で管理していたサーバーをつなげていこうとしています。人の手を介さずに指図が発行されていくという状況を作ることを目指して進めていますが、こちらはもう少し時間がかかりそうですね。

〈最近のプチ贅沢/はだか祭で餅ふるまう〉

 岡山市内で今年2月、日本三大奇祭の一つともいわれる「西大寺会陽(えよう)」が開かれ、菅公学生服は初の祝主(いわいぬし)を務めた。行事の中で「餅をふるまったことが最近のプチ贅沢かな」と話す尾﨑さん。祭りは通称“はだか祭り”ともいわれ、一対の宝木(しんぎ)を巡って締め込み姿の男たちが争奪戦を繰り広げる。同社からも尾﨑さんほか60人ほどが参加。「みんなで寒い寒いと言いながら参加したが、終わってみれば楽しかった」と振り返る。

【略歴】

 おざき・しげる 1998年尾崎商事(現・菅公学生服)入社。2001年取締役、03年専務。06年から社長