デニムの 濃い世界 ワン・エニー 清社長に聞く【前】
2024年05月08日 (水曜日)
“綿”が生み出す個性
数えきれないほど種類があるデニム。それぞれの個性を決定付ける要素とは何なのか。デニムとジーンズの産地である三備地区で「デニムの濃い世界」を探る新シリーズ(不定期)。第1回は、デニムを主軸にテキスタイルの企画・販売、OEM生産を行うワン・エニー(岡山市)の清大輔社長に「デニムの違い(個性)はどこから生まれるのか」を聞いた。
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――デニムの個性はどこから生まれるのでしょうか。
さまざまな要因で違いは生まれますが、「綿」に焦点を当てるとしたら、ジーンズが色落ちする時の風合いを決定付ける要因の一つは「毛羽」だと言えます。
デニムの毛羽によって、表側の経糸の隙間から見える白い緯糸が覆われるため全体的に色濃く見えます。摩擦で毛羽が脱落した箇所と毛羽の残っている箇所では濃淡差が生まれ、深みのある色落ちにつながります。
毛羽が出るということは、短繊維で繊維と繊維の間に隙間があることを意味します。その隙間にインディゴ染料が多く入り込むため、より濃度の高いデニムに仕上がります。風合いの面でもその隙間は、膨らみ感やもちっとした手触りをもたらします。生地に厚みも生まれます。
一つ例を挙げると、通称「大戦モデル」と呼ばれる1940年代のリーバイスのジーンズがあります。戦時中の物資統制の影響を受けて、さまざまな面で簡略化されたモデルです。リベットの数を減らしボタンを軍服と同じ月桂樹柄に変えるなどしています。
その中でデニムの違いに最も影響を及ぼしているのは、短繊維や夾(きょう)雑物、ネップ(繊維が絡み合ってできた節)などを除去するコーミングが簡略化されていることです。加えて、製造の過程で残る落ちわたを混雑させたことも大きい。これにより生地の厚みも増し、毛羽の効果で色が濃く現れます。
――繊維長が長い綿はどうですか。
繊維長が35㍉以上と定められる超長綿には、米国南西部産のスーピマやエジプト産ギザ、インド産スビンなどの品種があります。
それら超長綿の原種とされるのが当社の扱う海島綿、いわゆるシーアイランドコットンです。繊維が最も長く細いため光沢感があり、柔らかく肌触りが良いです。さらに染色性が高いという特徴があります。
本来は超細番手に使用されることが多いですが、当社はこの最高級の原料でビンテージデニムらしい粗野感と凹凸感を生み出すためにシーアイランドクラブと試行錯誤を繰り返し太番手の糸を完成させました。海島綿をロープ染色の技法で染めたのは当社が世界で初めてとのことです。
現在流通している一般的な綿は、米国や豪州、ブラジルなど数種の産地の綿を調合して糸にすることが多いです。綿は先物取引なので、価格の変動に対応するためです。収穫年ごとの品質のばらつきを安定させる目的もあります。
数種の綿を調合することで価格と品質は安定しますが、綿が本来持っている品種ごとの特徴を生かしているとは言いがたい。当社は海島綿のみを使った糸を開発し、綿が生み出す違いを訴求しています。加えて、海島綿のみの糸に落ちわたを混紡したデニムもそろえています。落ちわたがもたらす不ぞろいな毛羽によって、染色性が高く深く染まる上に、肉厚に仕上がります。