繊維ニュース

特集 コットンの日(2)/新たな活用も広がる

2024年05月09日 (木曜日)

〈新感覚の素材感で魅力UP〉

 紡績各社は綿100%でありながらも、合繊並みの機能や新感覚の素材感を持った開発に取り組んでいる。綿100%のストレッチ生地ではクラボウが「バンジーコットン」、日清紡テキスタイルが「アスタリスク バイ ナチュレッシュ」を開発。いずれもワークウエア用途での採用が進む。

 大和紡績は綿100%でありながらも吸水性を高める特殊な紡績法を採用し、合繊並みの速乾性を持つ「ミラクルドライ」を開発した。抗ピリング性は4級以上で洗濯を繰り返しても毛羽立ちが抑えられ、奇麗な外観を維持できる。東洋紡せんいの吸汗速乾・清涼機能綿糸「爽快コット」も綿100%でありながら、高い機能性を持たせた。

 シキボウの「シードライハイパー」も純綿糸で綿の風合い、肌触りを残しながらも高い吸汗速乾性が特徴。「サーモストック」は吸熱発熱機能で、綿の着心地でウールのようなぬくもりを表現する。

 クラボウの綿を分子レベルで改質した「ネイテック」は、素材の風合いを損なわず「吸湿発熱」「吸放湿」「消臭」などの機能を付与し、繰り返し洗濯しても機能を維持できる。これまでインナー用途への採用が多かったが、最近では「遮熱・UVカット」機能を持ったネイテックも開発し、アウターへも提案する。

 日清紡テキスタイルでは透け防止機能を持った綿100%織物を開発。薄地だが、特殊な加工技術で透け感を抑え、シャツ地として展開している。

 綿100%に対するニーズは環境配慮や肌への優しさに対するイメージによってこれからも増えていく可能性が高い。そういったニーズを的確に捉えていくためにも、各社は開発の手を緩めない。

〈循環型経済へ一石投じる〉

 環境配慮や循環型経済への意識の高まりで、衣料をアップサイクルしようとする動きが活発になっている。そのようなニーズに対しても紡績各社では仕組みを整えつつある。

 シキボウはグループ企業の新内外綿と連携しアップサイクルシステム「彩生」を展開している。音楽イベントを通じたTシャツのリサイクルプロジェクトなどの実績ができつつあり、環境配慮への関心が高まるユニフォーム用途でも採用を広げる。

 クラボウのアップサイクルシステム「ループラス」もさまざまな企業との連携が広がる。最近では日本航空(JAL)と連携し、JAL機内で使われていたブランケットをアップサイクルしてTシャツなどに商品化するプロジェクトを始めた。

 綿そのものを循環させる動きも加速する。日清紡テキスタイルは廃棄される綿から強度の高い再生セルロース繊維を作る技術を確立。「シャツ再生プロジェクト」として、シャツのサンプル開発を進めている。大和紡績もイオン溶液法による新しい再生セルロース繊維製造法を研究している。

 リサイクルではモノマテリアル(単一素材)による製品化が望ましいが、繊維製品はポリエステル・綿といった混紡素材も多い。

 日清紡テキスタイルでは複合素材からセルロースのみを分離する設備を導入した。大阪大学では、電子レンジの加熱と同じマイクロ波を利用することで、綿・ポリエステル混紡繊維をわずか数分で分離し、綿をそのまま回収する技術を開発。複合繊維でも容易に分離する技術の確立が進むことで、綿の新たな活用方法も広がる。

〈ハイブリッド形式でイベント〉

 日本紡績協会と日本綿業振興会が主催する「コットンの日」のイベントが明日10日、東京のホテル雅叙園(東京都目黒区)で開かれる。昨年に引き続きリアル会場への参加とオンラインによる参加のハイブリッド形式で開催する。

 A.T.カーニー(東京都港区)シニアパートナーの福田稔氏が「2040年アパレルの未来~業界が持続可能になるためにすべきこと~」(仮題)、国際綿花評議会上席理事のラズバン・オアンシア氏が「USコットン:サステナビリティとトレーサビリティ」(同)について講演。コットンのイメージにふさわしい有名人に贈られる「コットン・アワード」の表彰式も開かれる。

〈コットンのトリビア〉

 身近な存在でありながら、意外と知らない綿。そんな綿の知られざる一面を国際綿花諮問委員会(ICAC)が紹介する綿花の学習コーナーから抜粋し紹介する。

□中米の多くの国が昆虫、特にオオゾウムシの大量発生により綿花生産を断念せざるを得なくなったため、熱帯地域で現在綿花が栽培されているのはわずか数カ所だけである。

□世界で生産される綿花のほぼ3分の1が機械で摘み取られている。約3分の2は手作業で収穫されているが、人件費の上昇により、より多くの国が機械による収穫を検討せざるを得なくなっている。

□普通の健康な人は、1日に25~30キロのわたを摘み取ることができる。

□綿花に使用される農薬の割合(金額ベース)は、1986年の11%から2019年には4.71%まで減少した。農業生産に使用される化学物質の毒性への意識が高まっているため、この減少は今後も続くと予想される。

□綿繊維は緑色の球の中で成長し成熟するまで約50日かかり、その後、球が割れて白い綿毛が現れる。これらは「オープンボール」と呼ばれる。

□ICACの統計によると、種わた1キロを生産する世界の平均コストは、16年から19年までは45~46セントだったのに対し、20年には過去最高の55セントにまで上昇した。