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特集 コットンの日(3)/トレンドは一大転換期に/25春夏~25/26秋冬のファッション素材傾向/日本綿業振興会ファッション・ディレクター 柳原 美紗子 氏

2024年05月09日 (木曜日)

 25春夏~25/26秋冬のファッション素材の傾向はこれまでと大きく変わっていく可能性がある。大潮流のサステイナビリティーを前提として、ロシアのウクライナ侵攻などの不安定な海外情勢、23カ月連続の実質賃金減少といった動向を踏まえつつ、トレンドはどう動いていくのか。4月11日に大阪市内で関西ファッション連合主催の「2025春夏~2025/26秋冬コットン・ファッションと素材の傾向」をテーマにしたセミナーが開かれ、日本綿業振興会ファッション・ディレクターの柳原美紗子氏が登壇。海外展の動向も踏まえながら解説した。

〈大潮流のサステ軸に変化〉

 新型コロナウイルス禍から回復しつつあり、海外の見本市にも活況が戻り始めている。1、2月に開かれた25春夏向けの欧州の見本市、ミラノウニカ(MU)、パリのプルミエール・ヴィジョン(PV)とも出展社数は前年を上回った。それらの見本市とともに、「社会」「生活者」「ファッションコレクション」の三つの動向を合わせて考えた時、トレンドは「一大転換期にある」と分析する。

 社会動向ではまず、大潮流としてサステがあるとともに、生活者の格差拡大が浮き彫りになる「光と闇」、世界情勢を反映した「不安定VS楽しさ、穏やかさ、癒し」、「SDGs(持続可能な開発目標)先進国と後進国日本」といった対比がトレンドに及ぼす可能性を指摘する。

 生活者動向では、1995~2010年ごろに生まれたZ世代を中心に堅実消費が浮き彫りになりつつあり、コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)、スぺパ(スペースパフォーマンス)といった言葉は、これからのファッションにも影響を与えていきそうだ。3000年代を指す「Y3K」という言葉も生まれ、AI(人工知能)の活用もトレンドに大きく影響を与える。

 ファッションコレクション動向としては、シンプルで洗練されたファッションや、ライフスタイルを楽しむジェントル・ラグジュアリーが台頭。AIによるファッションテックも今後のトレンドを形作る上で欠かせない要素となることは間違いない。

〈〝突然変異〟がイメージ〉

 環境問題を考慮したアプローチが注目される中、これまでのデザインや快適さ、性能といった基準を保ちながらも、大きな変化が待ち受けている。そんな状況を反映し、PVではメインテーマとして「ミューテーション(突然変異)」を掲げた。イメージとしては繭で、脱皮から蛹(さなぎ)が、繭へと連想するような生地やプリントなどが多く見られた。

 キーカラーは「ミルキーイエロー」で、光の強さ、リジェネレーション、ぼやけた釣り合い、変異し続けるクールトーンの四つの軸に基づき提案。カラーレンジはビビッドカラーとくすんだ色を組み合わせ、濃淡の表現を強調している。固定観念を打破し、従来の色の用法を変革することを意図した色彩の変化が注目されそうだ。

 コットン素材のポイントとしては①軽やかで浮遊感のある、風にそよぐような質感の「エアリー&フローティ」②高密度で丸みのある感触が特徴の「活気あるクレープ」③植物繊維ならではの不規則な節や乱れたスラブといった不完全さを魅力とする「端正なラスティック」④新しい色使いやグラフィックな織りで、アップデートされた「楽しげなツイード」⑤ゴールドを中心に漂白されたような微妙な色合いに表現される「シャイニー・ジャカード」⑥質感の変容が強調された刺しゅうやレースといった「変容する装飾デザイン」⑦耐久性が保証された、ギャバジンや強撚サージ、セルビッヂデニムといった「プレミアム・カジュアル」⑧しなやかさ、心地よさ、軽さが特徴の「エレガントなシャツ地」⑨重みを変え珍しい構成を駆使したアイコニックなカットソーやジャージー、ピケ、リブといった「伝統を破るニット」⑩ワードローブから解放されてさまざまなスタイルに適応できる「柔らかなデニム」⑪植物学的なモチーフから幾何学的なものへ移り変わりつつも、常にやや退色し、わずかにゆがんでいる「新しい視覚表現のプリント」――が挙げられる。

 MUでは「MU+」(MUプラス)をテーマにAIに焦点が当たった。再生素材に焦点を当て、ミルキーカラーの洗練されたパレットが特徴の「リジェネレーション」、グラフィック的で絵画的なスタイルとの混交の「デザイン」、テクニカルとグラマラスな要素を組み合わせた「インタラクティブ」といった要素が見られた。

〈秋冬は相反する要素の組み合せで〉

 パリのニコル・トットロー氏による25/26秋冬のファッショントレンドでは、コットンカラーとして淡いブリーチ調の「ソフト・デザイア」、淡い色調とダークな色調に分かれビンテージ風のファンタジー要素が取り入れられた「スイート・ファンタジー」、ミステリアスな雰囲気を持つドラマティックなレンジが特徴の「ダーク・ロマンス」を主軸としている。

 ファブリックストーリーとしては①テレワークからオフィスへの復帰を意識した「バック・トゥ・ワーク」②英国の独特の狂気を表現した「レディ・ポップ」③ノマディズム(遊牧民や非定住的な生活を送る人々の生活形態)による新しいファッション文化を表現した「ボーホー・ノマド」④ソフトで繊細でありながら、感覚を混乱させるようにデザインされた新しい魅惑を醸し出す「ソフト・セダクション」⑤コロンビーヌ(イタリアの伝統的な道化師)をイメージし、グラフィカルで詩的な白黒をテーマとする「ビー・マイ・コロンビーヌ」――。

 コロナ禍が収束し、再び交流が活発になっていく中で、相反する素材や色が組み合わさりファッションの新たな目覚めを感じさせるようなトレンドが浮かび上がる。