紡績・繊維事業 価格転嫁追い付かず苦戦
2024年05月17日 (金曜日)
紡績の2024年3月期決算が出そろった。繊維事業では、原燃料高や円安の影響で価格転嫁が追い付かず苦戦を強いられた。本業のもうけを示す営業利益が増えたのはダイワボウホールディングス(HD)のみだった。
繊維以外の事業では高収益化が進み、全社で見ると堅調な業績になる中、繊維事業の苦戦が際立つ結果となった。
前期は、新型コロナウイルス禍からの回復に伴う経済活動の活発化で衣料品消費が伸びた22年の反動を受け、在庫調整が表面化。原糸やテキスタイルでは22年に高値となった原綿の償却に追われ、海外品との競合で採算が悪化した。下半期での巻き返しを想定していたものの、円安によって原料など仕入れ価格の上昇が続き、ユニフォーム地などでの値上げが追い付かなかった。
クラボウは化成品、環境メカトロニクスの両事業の健闘で、全社の純利益が1988年度以来過去最高を更新。一方で繊維事業は減収、営業損益が赤字に転落した。製品ではカジュアルを中心に在庫調整局面にあったことに加え、22年の原綿高の影響で収益が悪化。下半期にかけて巻き返す計画だったが、暖冬で24秋冬向けが不振だったことに加え、ユニフォームメーカーの在庫調整による受注減によって苦戦した。
シキボウは下半期にユニフォーム地の価格改定が進んだことによって営業損益の赤字幅が縮小。中東民族衣装向け生地輸出が堅調だった一方で、原糸と生活資材事業の寝装品の販売が不振で売上高は横ばいにとどまった。
富士紡HDの生活衣料事業は減収減益。営業利益率も前の期より1ポイント減少し11・2%となったが、紡績各社の中では高い利益率を誇る。繊維素材はコストアップで厳しい環境を強いられるとともに、インナーブランド「BVD」など売り上げの7割を占める繊維製品も、天候不順や委託販売の撤退などが影響し減収。ただ、製品のネット販売や、高品質な日本製が評価されつつある海外向けは大幅に伸びた。
日東紡は全社ベースでデータセンター向けにスペシャルガラスの販売増が寄与したことによって各利益段階で大幅増となった。繊維事業は増収だったがコストアップを受けて減益。芯地の販売は、外出機会増加で回復基調にあるが、秋冬物の販売は暖冬もあり低調だった。
減収も営業増益となったのはダイワボウHD。合繊・レーヨン部門は不織布製品が制汗シート・コスメティック用途で増販も、衛材用原綿などが苦戦。衣料製品部門は一部のアパレル向けが堅調で、価格転嫁も進み増益だった。産業資材部門はカートリッジフィルターの需要回復の遅れもあり売り上げ・利益とも大幅に減った。