どうなる? アクリル繊維/特性・機能で市場開拓/資材用途の重要性も高い
2024年05月20日 (月曜日)
縮小が続く国内の繊維生産だが、合成繊維で特に厳しい環境に置かれているのがアクリル繊維だ。主要合繊の一角に位置付けられながらも、他素材との競争で劣勢に立たされている。国内のアクリル繊維が生き残るために何が必要か。メーカー各社の模索が続く。
(宇治光洋)
日本化学繊維協会によると、国内のアクリル短繊維生産は2014年に5万トンあったものが新型コロナウイルス禍に見舞われた20年に3万1千トンまで減少した。その後、経済正常化で22年は4万5千トンまで回復していたが、23年は再び3万トンまで落ち込んだ。同年3月末で大手メーカーの一角だった三菱ケミカルグループが撤退するなどアクリル繊維を取り巻く環境の厳しさが浮き彫りになる。
苦境の要因の一つが、アクリル短繊維の最大消費国である中国への輸出拡大が難しいことがある。現在、中国への輸出はアンチダンピング課税が続いている。それでも細繊度わたを中心に日本のアクリル繊維への底堅い需要があり、一定量の輸出が続いていたが、昨年後半からは中国経済の低迷の影響でこれも減少した。
もう一つが他の合繊、特にポリエステル繊維との競争で劣勢に立たされていることがある。アクリル繊維は染色性や風合いなどで優位にあるとされてきたが、近年はポリエステル繊維の改良が進み、シェアを奪われた。毛布やボア・ハイパイルといった用途が典型だ。
また、サステイナビリティー素材への要求が強まっていることも、100%使いが少なく化学組成上もリサイクルが容易でないアクリル繊維にとって逆風となっている。
こうした中、国内でアクリル繊維を生産する東レと、東洋紡グループの日本エクスラン工業はともに生き残りを模索する。
一つは衣料用途での需要を確実に確保していくことだろう。染色性や耐候性、風合いの良さを生かしてインナーやソックスといった用途で魅力的なモノ作りができる可能性は失われていない。そのためには強いサプライチェーンを持つアパレル・流通との連携が欠かせない。その面で東レはSPAとの取り組みなどで一定の成果を上げてきた。
もう一つは重要性が高まる資材用途。アクリル繊維はショートカットファイバーやパルプも含めるとブレーキ・クラッチ摩擦材の添加材、電池のセパレーター、フィルター部材などで安定した需要がある。水と油の両方と親和性を持つ両親媒性といったユニークな性質もあることから、資材用途でもまだまだ可能性を秘める。日本エクスラン工業は機能化が強みとなるアクリレート繊維も含めて、資材用途の開拓に力を入れている。
中国以外の海外市場の開拓も大きなテーマになる。欧州のほか、インドなどが有望だ。セーター、インナー、手芸糸、産業資材などでそれなりの規模の市場がある。また、技術的ハードルは高いもののリサイクルや製造工程の環境負荷低減などサステを高める研究開発も避けて通れない。アクリル繊維メーカー各社とも、生き残りに向けた模索が続く。