素材メーカーの学販向け/新たな成長の芽育てる/在庫調整と値上げの狭間で
2024年05月27日 (月曜日)
スクールユニフォーム市場は、学生服メーカーが昨年から納期を優先し前倒し生産を強めた結果、在庫調整の局面に入りつつある。素材メーカーは来年の入学商戦に向け、在庫調整と値上げの狭間で市況悪化を懸念しつつも、新たな成長の芽を育てる。(於保佑輔)
今年の入学商戦は納入前に大きな混乱はなく、業界関係者がこの数年間の中で「最も静かだった」と口をそろえるほどだった。ただ、学生服メーカー各社は例年に比べ2~3割ほど在庫が増加。減益基調から来入学商戦に合わせ学校や販売代理店へ値上げを要請するとともに、在庫の適正化に乗り出した。
そのような学生服メーカーの動きを受け、今年は「在庫調整と価格改定とのバランスがどうなるか」(ニッケの金田至保常務執行役員)が、素材メーカーや商社など学生服地のサプライヤーにとって一番の関心事となる。
ニッケや東亜紡織などでは4月から学生服地の値上げに入った。ニッケ・衣料繊維事業の第1四半期(2023年12月~24年2月)は前年同期比7・7%の増収だったが、「想定していたよりも駆け込み需要が少なかった」(金田氏)。東亜紡織は学販向けで上半期(1~6月)業績を微増収か横ばいと見込むが、後半にかけて在庫調整で「より厳しくなる」(東亜紡織の高村和宏取締役)との見方を示す。
来入学商戦に向け、いかに売り上げを維持するか、防戦の様相を呈しつつあるが、次の成長の芽を育て、市場のニーズを着実に捉えようとする。
その一つは制服のブレザー化で需要が伸びているセーターやベストなど製品OEMの強化だ。東亜紡織は売上高の10%前後が製品で、協力工場を通じて編み機の確保を増やすなど供給力を向上。生地、製品の「トータルで提案できる」(澤田真啓スクールユニフォーム営業部長)強みを生かす。
東洋紡せんいは前期(24年3月期)、売上高の半分をポロシャツや体育着などの製品が占めるまで増えた。定番商品ではインドネシアを活用するとともに、国内の自社工場や協力工場では追加受注のフォローを中心に対応するなど国内外で連携。得意とするニット地を軸に「商品の質を高めながら、ユーザーのメリットを追求したい」(川端圭二営業本部スクール事業部長)。
新たな技術による市場深耕も進む。東レはインクジェット(IJ)捺染による生地を販促。生地を備蓄していれば先染めに比べ納期を大きく短縮できるほか、生徒数が少ない学校に対しても提案がしやすく、デザイン性の幅も広がり、採用に向け「かなり商談が進んでいる」(梅田輝紀機能製品事業部長)。さらに独自の複合紡糸技術「ナノデザイン」を用いた素材開発にも取り組む。
一部で学生服メーカーからSDGs(持続可能な開発目標)や環境配慮に沿った素材供給を求められるケースも増えてきた。ニッケは環境配慮型ウール・ポリエステル混紡糸「ブリーザ」の生産設備を増強し、ブリーザ使いの生地「エミナル」を拡販。消費者にも認知される「ブランド力を作っていきたい」(金田氏)。
東亜紡織は、持続可能な調達・製造工程のトレーサビリティーの達成に向けた「グリーンウールバリューチェーン」を学販向けにも運用し、消費者への発信を試みる。
値上げと販売減の悪循環に入り込む前に、消費者との接点を作りながら新たな活路を開く。