技術の眼
2024年07月10日 (水曜日)
「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。
〈YKK/挿入補助スライダー〉
YKKは挿入補助機能が付いたスライダーを開発し、「挿入補助スライダー」として多様な用途に向けて提案する。
同製品は、スライダーの間口を広く設定してあるのが特徴で、適切な角度で挿入できるようになっている。操作面では、蝶棒をスライダーの下面に添えて入れることができる機能を付加した。挿入口が見えやすくなったため、通常のスライダーと比較しスムーズな操作を可能にした。
日本国内では、コイルファスナーNo.3開製品について挿入補助スライダーを標準化させ、順次切り替えを始めている。
衣料のカジュアル化が進み、仕立てや素材が軽量化するのに伴い、ファスナーも小さいサイズが求められるようになった。そのニーズに応えるため、挿入補助パーツに次いで挿入補助スライダーを生み出した。
〈帝人フロンティア/中空8フィン断面で紡績糸〉
帝人フロンティアはこのほど、中空8フィン断面ポリエステル原綿による紡績糸「オクタsf」を開発した。まずはウールやリヨセルとの混紡糸によってニット生地とし、スポーツ・アウトドア用インナー・ベースレイヤー用途に25秋冬から提案する。
スポーツ・アウトドア分野のインナー・ベースレイヤーは近年、ウールやリヨセルを使った素材が高いシェアを持つ。このため機能性に加えてソフトな肌触りや膨らみ感が求められる。こうした要求特性に応えるために同社は従来の「オクタ」の極細繊度短繊維版としてオクタsfを開発した。極細繊度中空断面によってソフトな肌触りや軽量性と、吸水速乾性や保温性といった機能を両立する。
紡糸・紡績の技術的ハードルや編み立て・染色加工の難度も高い素材だが、同社や編み立て子会社、委託加工先である紡績や染工場との連携によって、ウールやリヨセルとの混紡で糸・生地開発に成功した。まずは40番手を中心に糸の量産を開始する。
〈女性歯科医師/経血漏れ防ぐパンツ開発〉
女性歯科医師2人が、経血漏れを抑制するスクラブパンツを開発した。パンツの裏に薄くて軽い防水布を縫い付け、生理用品や吸水ショーツから漏れた経血が染み出すのを防ぐ。生理時にも自由にトイレに行くことができない医療従事者向けに独自の電子商取引(EC)サイトを立ち上げて販売する。
開発したのは、歯科医師の石井久賀さんと石田花奈さん。医師や看護師らが着用するスクラブは多様な色が出ているが、石井さんによると「パンツの色を白に定めている医療機関は少なくない」と言う。「勤務時はトイレに行けないことも多い。生理用品が替えられず、白衣に染みができる場合もある」と話す。
経血が表に染みにくくなるよう防水布を裏地に付けたほか、生理時の腹痛がつらいときにウエストを緩めることができるアジャスター機能を付与した。夜用ナプキンがすっぽりと入る収納ポケットをパンツの内側に取り付けているため、落とすことなくナプキンを持ち歩ける。
〈東播染工/新加工「播州洗い」〉
生地の企画から製造、販売まで一貫して行う東播染工(兵庫県西脇市)は、生地に細かく浅い無数のシワを入れることにより自然で上品な質感を与える表面加工「播州洗い」を新たに開発した。
これまでのシワ感とは異なる表現を生み出すために加工工程間に新たな設備1台を導入し、生地に自然で上品な細かい無数のシワを入れることができるようになった。細かなシワが生地にナチュラルで落ち着きのあるリラックスした質感をもたらす。
新たな加工に必要なのは基本的にワッシャー加工機、水、乾燥機のみ。洗い方と乾かし方で“優しい”シワを表現する。薬品は使用しないため、糸の原料に縛られず、ほとんどの生地に加工できる。
先染め織物だけでなく後染め生地にも対応する。用途はカジュアルシャツ、ワンピース、薄手のジャケット、スカート、インテリア製品などを想定する。
〈瀧本/非常時に安心な学生服〉
学生服製造卸の瀧本(大阪府東大阪市)は、ジャケットで日常時だけでなく災害など非常時にも役立つようなデザインを取り入れた学生服を開発した。
ジャケットは内ポケットを従来商品より増やした。月経用品や貴重品などを入れるポケットには落下防止ボタンによって安心感を高めた。内裾にもポケットがあり、冬場にはカイロなどを収納できる。シワになりにくく、コンパクトに畳めることから、持ち運びも便利でクッションとしても使える。汗の臭いを抑える瞬間消臭加工や、簡単に袖出しができる成長機能対応など機能性も高い。チェンジボタン仕様で針と糸がなくてもボタンを付けられる。
非常時にはオレンジの裏地で視認性を高め、緊急時のSOSサインとしても使うことができる。内ポケットが多く、止めボタンもあるので、避難所などでの貴重品収納としても活用可能。消臭加工素材を使っていることから、周りに対して気になる臭いのストレスを軽減できる。
〈エム・エーライフマテリアルズ/家庭で堆肥化できるSB〉
スパンボンド不織布(SB)などを製造・販売するエム・エーライフマテリアルズ(東京都中央区)は、一般家庭のコンポストで堆肥化できる生分解性プラスチックを使用したSBを開発した。2024年内にレギュラータイプと熱成型タイプの生産体制を確立する。
生分解性プラスチックは、通常のプラスチックと同様の耐久性があり、使用後は微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される性質を持つ。利用拡大で環境負荷低減につながる。生分解性を発現する環境として、コンポスト、土壌環境、水環境などがある。
このうちコンポストは、菌や微生物の力を利用して有機ごみを堆肥化させること。高温で処理する工業用と一般家庭用のホームコンポストがある。今回開発した生分解性プラスチックを使ったSBは、28℃程度のホームコンポスト環境下で分解されるのが特徴。